駅の情報がリアルタイムで文字表示されるーー「エキマトペ」の紹介
Screenless Media Lab.ウィークリー・リポート
2022.7/29 TBSラジオ『Session』OA
Screenless Media Lab.は、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回は、駅のアナウンスや電車の音を文字として表示する「エキマトペ」についてご紹介します。
◾オノマトペとは何か
まず、エキマトペの語源にもなっている、「オノマトペ」について説明します。以前も紹介したように、オノマトペとは、自然の音や物の状態を擬態語(ふっくら)や擬音語(ごろごろ)などで表現する言葉です。一例を挙げるなら、痛みに対して「キリキリする」は、刺すような痛み、また「チクチクする」は表面に違和感があるような痛みをイメージすることができます。このように、日本語にはオノマトペが多く利用されているのです。
◾エキマトペとその仕組み
このオノマトペを利用し、主に聴覚に困難を抱えている人に向けて、駅の発着音や情報を文字で伝えるサービスの実証実験が開始されています。駅で利用することから、オノマトペにちなんで「エキマトペ」と名付けられたこのプロジェクトは、富士通とJR東日本、大日本印刷が手を組んでおり、2022年6月15日~12月14日まで、JR上野駅1.2番線のホーム(山手線と京浜東北線)に設置されています。
エキマトペはもともと、2021年に川崎市立聾学校で行われた「未来の通学」に関するワークショップでのアイデアが発端となっており、短期間ですが2021年にも巣鴨駅で実証実験が行われました。
エキマトペのシステムを簡単に述べれば、電車に関する様々な音が収集・分析され、そこから必要な情報がホームに設置されている自動販売機の上部に専用ディスプレイに表示されるというものです。
このエキマトペ、様々な技術が利用されています。まず、駅の雑多な音から必要な音を抽出する必要があります。これに関しては、スーパーコンピュータの富岳の開発に加わったメンバー、その中でも特にAI開発経験があるメンバーが構築したAIの学習モデルを利用し、リアルタイムで音を分析しています。
次に、ホームに流れる定型アナウンスは、テキストと同時に手話動画も表示されます。興味深いのは、テキストに変換された様々な音(ゴオー)は、その意味の強さなどによってフォントが自動で変化したりアニメーションが加わるため、音の持つ強さや優しさといった感情が一層理解できるように工夫されています(大日本印刷の感情表現フォントシステムが利用されています)。
評判を呼ぶエキマトペですが、両耳に困難を抱えるイラストレーターのハマダコノミさんはTwitterで、エキマトペを現地で見てきた体験談をイラストで報告されています。ハマダさんによれば、エキマトペによって、どんな音がどういうタイミングで鳴っているのかが、ほぼリアルタイムで理解できることが嬉しく、また音のスピード感やリズム、音質が視覚化されているのも良かったという感想を述べています。
エキマトペは聴覚障害者だけでなく、以前も紹介した、聴覚情報処理障害という、聞こえているけどその内容を理解するのに困難を抱えている人、あるいは騒音レベルが高くて混雑している朝等では、誰にとっても必要なサービスであると考えられます。
このように、音は聞こえる人だけのものではなく、音の文字化など、聴覚に困難を抱える人にとっても重要なものとなっているのです。