ガラガラポンが来る前に
時代の流れは確実に毎年早くなっているような気がしていますが、それは過去と未来が現在を接点につながっていると思っているから。ところがそれが「がらり」と変わる可能性が出てきているのです。
1,事業継続性への備え
企業が事業の継続性を担保するために、あらゆる自体に対応した計画と準備を進めておく、BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)を策定しておいたおかげで、このコロナ禍においても、大手企業は「災害モード」として対応したり、いっときの混乱はあっても、事業を安定して継続させることができています。
そこに想定されるのは、主に「災害」が中心となるものですが、地震や風水害、あるいはこの感染症の流行など、社員や取引先との日常的な計画が寸断あるいは著しく制限されることに、どのように対処していくか、を「起こる前」に想定し、対策を練っておくことです。
インフラ企業や日銀などは、こうしたプランを予め想定し、マニュアル改定と訓練を進めていますが、多くの企業にも同じように策定し、事業の継続を維持することが、社会の「公器」としての期待される役割なのです。
しかし、日本の企業や法人としての活動を行っている9割は、中小企業や個人事業主です。大企業のような十分な備えがなくとも、いざというときの対応力を備えておかねば、事業の継続はすぐに困難に陥ってしまうことでしょう。
政府ができるのは、こうした中小企業の延命のために、金融の円滑化を図り、融資や支払いの先延ばし、金利の補給など金融面でしかなく、事業の実務はやはり「それぞれの事業者」が考えなければならない問題なのです。
2、2024年問題という大きな課題
2024年問題とは、「働き方改革関連法」の自動車運転業務への適用が開始されることにより発生すると危惧されている、経営・トラックドライバー不足・輸送停滞問題のことです。
残業は、36協定を定め、そして労使間で合意を経て時間外労働が行われていると思いますが、臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合でも下記上限が適用されるようになるのです。
大企業では2019年4月から、中小企業は2020年4月から、法律が施行され、時間外労働の上限が罰則付きで法律に規定され、運送業界では、いきなりの導入は影響が大きいため、5年の経過措置を経て、2024年から施行されることになっています。
これにより、長距離運送トラックドライバーは、長時間の運転が難しく、月次の労働時間数も調整が必要で、人手不足な上に、さらに「働く時間に上限」が設定されることで、さらに運転手不足が深刻になるのです。
この移行期間の間に、運送業界も対応を取り始めています。例えば、荷受けからフェリー出発港までの間だけドライバーが運転し、フェリーを使って、台車部分だけ無人で運び、到着港から目的地までをドライバーが運転するような方で、「無人化」による輸送へのシフトを考えたりしています。(現状、北海道発の荷物が、苫小牧から仙台港や場合によっては新潟港経由で東京都内まで運ばれるようなことが、荷物追跡から遡ることができます)
さらには、鉄道貨物での輸送。北海道新幹線を貨物輸送にすることを検討したり、もう1つの青函トンネルを掘って、貨物専用列車を走らせることや、先日、ヤマトが航空便をリース契約で自社便運行すること(実際の運行オペレーションはJALの子会社[ジェットスター]が担当)など、環境負荷の面だけでなく、輸送力を確保するための意味でもモーダルシフト(=トラックから他の輸送手段に変えること)が進められています。
3、送りたくても送れなくなる物流
では、実際のビジネスにどのような影響がでるのか。まだどの程度、輸送力が確保されるのかがわからないので、なんとも言えませんが、輸送効率や安定性を考えると次のようなことが起こり得るだろうと想像されます。
☑輸送サイズの統一化、上限の設定
実際に、ヤマト運輸は、規定サイズ以上を送る「ヤマト便」を廃止し、新サイズを規定。「規格」を作ることで、例外による手間と費用をなくし、効率的な運用を想定。
◯新たに180・200サイズを新設し、ヤマト便を廃止します
https://www.yamato-hd.co.jp/news/2021/newsrelease_20210720_1.html
どんなサイズが来るかわからないよりも、積荷の組み合わせを把握できるようにするには、このほうが運用を維持できるという判断でしょう。そして、重さも規定することで、運行状況に応じて、航空便やフェリーの活用など割り振りできるようにしていることも、運用上とても大事な規定と言えます。
☑指定曜日・時間の配送
ドライバーの労働時間を減らすには①基幹輸送の無人化、②再配達の削減、③効率的な巡回と計画的作業の実施が考えられます。言ったり着たりよりは、周遊コースのなカタチで一度出回れたほうが効率がよく、再配達はその効率を破壊する最たるものです。
だから、無人受取ロッカーを設置したり、再配達時間の範囲の緩和などに取り組み、目的地側の効率化を進めてきており、今度は「集荷側の効率化」も進めていくことになるでしょう。(あとになったのも、料金を支払う側の反発は予想されるので、体制と社会的な情勢を踏まえてから、交渉するだろうと考えられるからです。)
とすれば、輸送運賃の値上げ、荷受け・配達スタイルによる価格の細分化あたりが想像されますが、単純な基本料金の値上げということはせず、輸送サービスの内容に応じて価格が追加され、結果的に全体の値上げにつながる形にするのではないかと想像しています。
例えば、これまでの料金だと指定時間の緩和(午前・午後・夜)だけど、今まで通りの時間してだと追加料金を+300円申し受けますよ、という具合に…。受益者負担という考えでの実質値上げはあり得るでしょう。
☑集荷の有料化
また、集荷についても、持ち込むのはこれまで通りの価格、集荷する場合は追加料金もしくは、2トントラック1個分迄とか、これまで考えていなかった作業や負担、サイズや重さなども考慮しながら送ることが必要になってくるかもしれません。
だから、産直でのお取り寄せ、発送はこれまで以上に「発送地での負担」はあがり、その作業量のために起こりうるのは「配送ミス・間違い・料金の収受忘れなど」頻発するのではないか、と思うのです。それをフォローするシステムが、また「新たな輸送サービスの1つ」としてサブスク型で加入するか否か、といった展開も考えられることです。
4,提供価値の再編が進む
これまでは、価格は「商品や(直接的な)サービス」のみに価値が見いだされ、付随するサービスやフォローは「無償」という考え方が多く浸透していたと思います。
しかし、人手不足や、社会の情報が増え、24時間の限られた時間で処理するためには「効率性」や「高速性」といった「時間価値」が対価性を持って認められる社会に近づいていることと思います。
既に、富裕層向けに「優先手続き」や「スピード対応」が有償サービスとして導入されていたり、テーマパークでも「優先乗車」に対価が求められるなど、「提供時間」にお金を払うことは、多くの人が体験してきています。
だから、クレジット決済手数料なども「限りなくゼロ」に近づく方向で、1ヶ月かかる入金時間を1週間に短縮するファクタリングとして「お金を払う」方向に価値が見いだされるように、「手数料」ビジネスは限りなく崩壊の道へ進もうとしてます。
加えて、未来は「分散型」の時代。個対個で決済送金も可能な時代が近づいていますから、これまでのECのような「ポータル」という考え方は一気に廃れ、「コミュニティ」の維持と拡大にビジネスの根幹が置かれる世界がやってくるでしょう。とすれば「(今のような発信側が一方向で流す)広告」もビジネスとしては終焉を迎えるでしょうし、あらゆる今の優位なプレイヤーが転落する恐れだってあるわけです。まさにそれがガラガラポンの世界。
これ、遠い未来ではなく、来年かもしれないし、再来年かもしれないし、一気に時代が進む中に生きている以上「何が起きてもおかしくない」と考えておかねばならないのです。
まさに、冒頭にはなした「BCP」は大手企業ではなく、中小企業や個人事業主、あるいは農家や漁師など生産者だって、他人事ではないのです。
もうすぐ近くにまで来ている大きな波の気配を、あなたは感じ取れていますか?