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逆噴射小説大賞2024個人的ピックアップ&感想

 こんにちは、B.D.モー/バタリングラムです。

 この記事はダイハードテイルズ様が主催しておられる、小説の冒頭800字の範囲内での面白さを競い合う最高にエキサイティングなイベント、逆噴射小説大賞の2024年の参加作品から、個人的に心に刺さった作品を僭越ながらピックアップさせていただき、感想を書いたものです。

 以前にピックアップ記事に挑戦した時は、自分の気力に見合わず分量を多くし過ぎて、六作品のピックアップで力尽きる醜態を晒してしまったため、今回は可能な範囲でやっていこうと思います。早速始めていきます。


1.泥とプラチナ

 既に多くの方々にピックアップされている一作。私も当然ながら目を奪われた。

 作者のRTG氏は、これまでも数々の名作を逆噴射小説大賞に投稿して来られた凄腕のパルプスリンガーであり、今回の作品も相当に練り上げられた弾丸だ。

 方向性としては、逆噴射小説大賞でジャンルの一つとして言われている「お仕事モノ」に分類されるだろうか。しかし、カタギの仕事ではなく、スリというアウトローのそれ。自分で経験することはまず不可能な分野であり、書き手の想像力や先達から受けた影響を血肉とする地力が必要になりそうなところである。

 その点、RTG氏は流石の力量だ。
 最初の三行で、アウトローを狙うアウトローという緊迫感溢れる舞台が形成されている早業を見せ、そこから繋がる超人的なスリの技術が披露される場面では、一人称視点の利点を存分に使ったスピーディーさ、主人公の神業とも思える盗みに自分も引き込まれていく没入感、悪事をプロの仕事に昇華させる凄み、そういった要素がふんだんに詰め込まれている。
 これらが最初の10行にも満たない文章で叩き込まれているとあっては、脱帽するしかない。

 800字の制限の中でのセリフ回しも印象的だ。

 どぶ鼠のくせしやがって、世界の王にでも成ったつもりか。
 ──だが、満更悪くねえ気分だ。

 逆噴射小説大賞の主催者であるダイハードテイルズ様が連載しておられる小説「ニンジャスレイヤー」にも、降ってわいた強大な力に有頂天になっていたキャラがこんなセリフを言っていた場面があるが、標的のアウトローの心境を写し取るという離れ業の中に、主人公の若さも感じ取れる、情報密度の高い二行だと感じられた。

 そして、最後の場面に繋がる流れ。自分と獲物だけの闇の中へと入り込むという、頭の中に情景が浮かぶような描写の後、盗ったはずの自分が盗られる、という急展開。現れる老人。超人的な主人公を、遥かに上回る技量を持つ同業。間違いなくこれから面白くなるという期待感が高まる一方だ。

 また、最後の老人のセリフであるこちらもすごい。

半竹ハンチクがよ──」

 恥ずかしながら、最初読んだ時は何か作中独自の言い回しかなと思っていたのだが、こちらの方のピックアップ記事を読んでそうではないことを知った。

 このセリフだけでこの場所や老人の出身までわかるとはどういうことだろう、と検索してみると、「半ちく」とは東京の方言であるというのだ。この一言で背景情報まで示していたとは、己の見識の狭さを恥じるばかりである。

 今回の逆噴射小説大賞の中でも、他の方々の感想を見る限り優勝候補の一つではないかと目されている本作だが、それも納得せざるを得ない圧倒的な高密度の文章と、練り込まれた緊迫感。
 改めて言うが、RTG氏は凄腕のパルプスリンガーだ。読ませていただいてありがとうございます。

2.砂脈

 パルプはジャンルを問わないものであり、当然ホラーも含まれる。800字の中で如何に恐怖を演出するか。今回の応募作の中にあって、強烈な存在感を発するこの作品は、それを見事に成し遂げている。

 作者のドント氏は、毎週土曜日に猟奇ユニット「FEAR飯」様がツイキャスで放送されている怪談ネットラジオ「禍話」ヘビーリスナーであり、青空怪談でもある同ラジオの二次創作や、自作のホラー作品を数多く執筆しておられる、ホラーに関しては確かな実績を誇るパルプスリンガーだ。

 もうこの時点で間違いなく怖い、何せ私はドント氏による禍話二次創作で、ガチで文章読んで体温下がったこともあるんだ、と思って拝読した。やっぱり怖かった。

 朧げながらこちらと目が合うヘッダー画像でもう怖い。しかし、読み進めてみれば、冒頭は淡々とした日常描写。母の味。マンガを読みながらのちょっとした家事の手伝い。多くの人々に覚えがあるだろう情景だ。シチューの匂いと味で五感にも訴えかけられる。

 そこに何の前触れもなく現れる怪異。安心できる空間であるべき自宅に異物が入り込む状況。ここまではそれなりに怪談話やホラー漫画を読んだ経験のある私もよく見ると感じる状況ではある。
 しかし、さらりと描かれている怪異の行動が凄まじい。

 女は鍋に左手を入れてゆっくりと動かしている。料理の真似事をしている、となぜか思った。

 母の作ったシチューという日常の象徴を、鍋に直接手を突っ込んでかき混ぜ、料理の真似をするという、これ以上ない形で穢す行為。これを、全身を砂で形作られた化け物がやっている。
 鍋に手を突っ込んで母のシチューを台無しにする、食べ物を粗末にするという、大半の人間にとって許せないと感じられるだろう行為を砂でやるという二段構え。生理的嫌悪感に訴えかける怪異は、とても強力な恐怖をもって迫って来る。

「ごはん、できたわよお」

 ひらがなで表現されるセリフも効果的だ。人の言葉を喋る怪異というのは、意思疎通が全く出来ない怪異に比べて方向性の違う恐怖演出が必要だろうと思うが、ひらがなで記されることで、抑揚がなくて間延びした、人間離れした声が自分の耳にも届くようである。
 更には、改行による短文で畳みかけられる文章が、そのまま砂の女がこちらへ迫って来る様子を想起させ、恐怖が最高潮に達したところで主人公の身体が動く。改行も小説における武器になるのだと見せつけられた思いだ。

 そこで一度、母の帰宅によって怪異が消え、恐怖が断ち切られたと思ったら、事態の痕跡を見て動揺するどころか納得した様子の母が発したセリフがこれである。

「あ、母さん? ごめん、見つかっちゃったみたい」

 優れた書き手は短いセリフの中で自然に情報を詰め込むが、これもその例の一つと言えるだろう。
 主人公の母には明らかに怪異に対する心当たりがあり、自分の母親に連絡を取って「見つかった」というからには、恐らく主人公の血族に因縁のある怪異なのだろうと推測出来る。

 こうなって来ると、タイトルの「砂脈」の意味も、血脈に関わるものだろうか、と恐ろしい想像が湧き上がって来る。血筋にかけられた呪いというのは、自分の意思でどうすることも出来ない理不尽の権化の一つと言えるだろう。

 十日という日付にも何の意味があるのか、後の展開への伏線もしっかり張られている。熟練のパルプスリンガーはやはり違う、と思わされた次第だ。

 ドント氏の紡ぎ出す恐怖はいつも極上の味がする。今夜の食事に砂粒が混じってないか心配だ。読ませていただいてありがとうございます。

3.父買う夜市

 これもまた、既に多くの方々が取り上げておられる一作。
 作者の木古おうみ氏は商業作家として作品を出版しておられるプロであり、その筆力は疑いようもなく、800字の中に強烈な世界が封じ込められている。

 タイトルと最初の印象から思い浮かんだのは、昔に本屋で小説を見て回っていた時、裏表紙のあらすじだけ読んだ覚えがあるホラー小説、「姉飼」だった。

 当時はホラーに耐性が低かったため、あらすじしか読んだことはないが、串刺しにされた「姉」たちが凶暴に呻き叫びながら縁日で売られている、という字面が強烈に印象に残ったものである。

 一方で「父買う夜市」における父が売られる縁日の情景は、残酷で血生臭いものではなく、どこか美しさすら漂うものである。

 父がいない主人公が訪れた、父が売られている夜市。開始三行めでもうそこに突入し、脳に影響する甘い煙という如何にもヤバそうなものが漂い香具師ががなり立てる声が飛び交う描写には、自分の記憶の中にあるお祭りの風景に異質な屋台が立ち並ぶ風景として脳裏に情景がスッと浮かび上がる。パルプに必要な速度と情報量は無論のこと標準装備ということだろう。

 主人公の母が父屋をあからさまに避けているのと、どうしようもなく惹きつけられる主人公という、親に禁じられるものにこそ引かれる子どもの姿も印象的で、この先に待ち受ける展開を想像させる。

 他の異質な店や、別の物語がありそうな父屋の店主、居並ぶ父たちの描写はどれも異様でありながら、父を買うという確固たる目的を持った主人公の一人称視点を腰の据わった筆力で書いておられることで、作品の世界観として自然と飲み込めていく。
 逆噴射総一郎先生のお言葉を借りれば、文章が笑っていないことで、書き手のMexicoへと容赦なく連行されている感覚だ。

 そして、ついに主人公が出会う目当ての父。他の父とは明らかに違う存在が、警告の言葉を発するという王道的とも思える展開が、先への興味を惹きつつ800字。
 続きを読みたい欲求が湧いてくる。これこそ逆噴射小説大賞の醍醐味だ。プロの作家の800字は、実に腹の底に響く弾丸だった。読ませていただいてありがとうございます。

4.月で睡る

 数々の作品を実際に書き、発表されてきている書き手は、それだけで強い。居石信吾氏も、そうした強靭なパルプスリンガーのお一人だ。これまでの逆噴射小説大賞においても、印象深い作品を投稿されている。
 今回の参加作品も例に漏れず、怪しく魅力的な輝きを感じた。

 睡眠という生物である以上は避けて通れない要素で、まずは胸倉を掴まれる。
 眠いのに寝てはいけない。眠らなければならない日に確実に眠るために。いわゆる因習村の方向性か、と理解が進み、その禁忌はあっけなく破られる。
 消えた弟、父と母の精神は歪み、家庭は崩壊。惨劇の速度が過ぎる。普通ならこの辺りに文章を割いてしまいそうなものだが、そこは逆噴射小説大賞で鍛え抜かれた書き手なだけあって、一切の容赦も無駄もない。

 祭囃子が繰り返し警告する禁忌と、それを破ればどうなるかという端的な表現で起きる怪現象がどんどんと印象付けられ、いきなり主人公こそが弟が消えた原因だと示される急転直下でぶん殴られた。

 二年前の極輝夜、弟を起こしたのは、僕だ。

 主人公の置かれた境遇に同情し始めていたところに、この一発。お前がやったのかよ。マジかよお前。800字の制限があるからこその、無駄を省いたスピード感で繰り出される、文章のパンチ。これが効かないはずがない。

 睡り、因習、祭り、失踪、精神と家庭の崩壊、怪現象、主人公が侵した禁忌。文章を少し追っただけのはずが、一挙にこれだけ叩き込まれては、眠れなくなるのはこちらだと訴えざるを得ない。

 そして、二度目の禁忌は平然と侵される。主人公がもうどんどん作中の禁を破って物語を動かしていくので、目が文章を追うのを止められない。これこそパルプの力強さだ。

 起きていてはいけない夜に、弟を起こした主人公は何故無事でいられたのか。何を確かめたくて弟を起こしたのか。弟は何故自分から月に向かっていったのか。また訪れた夜に、主人公と同じく禁を破って起きている父に似た男は何者か。
 これだけの伏線が800字の中に張り巡らし、幻想的な七色の夜空の下の光景を浮かび上がらて見せながら、文章そのものはテンションも一定していて、物静かですらある。

  逆噴射小説大賞に参加される方々の投稿作品は、撃ち込まれる弾丸に例えられているが、この作品から受けたのは、自然と歩み寄ってこられてスっと研ぎ澄まされたナイフを刺し込まれたような感覚だった。読ませていただいてありがとうございます。

5.俺たちは、命をかけて映えている

 作者のnaggyfish氏が、2022年で二次選考を突破された際の作品は、葬儀という題材でありながら、腹の底に響き渡る大砲の轟音を聞いたようなパワフルさを感じたことを覚えている。

 今回の参加作品では、「映え」というネット社会における文化が題材であるとタイトルからお見受けしつつ、拝読した。
 「映え」なんて華やかな文化とは思えないほど、まさに命を投げ捨てた血みどろの展開に加え、それを淡々と、乾いているとすら思える筆致で描き出すその姿。2022年に叩き込まれた覚えのある砲弾と同じく、相反する要素を編み上げた、力強い一発を撃ち込むパルプスリンガーの雄姿を見た。

 読み始めて最初に目に飛び込んだのは、やはりワラワラたちだ。

「わら」「わらわら」「わら」「わら」

 単体で見れば、どこか気の抜けた字面にも思えるのに、それが群れを成すとこうも奇怪な迫力を持つものか。
 異形があっという間に、「映え」の主役だっただろうヒロインを埋め尽くす光景が、異形の姿を示す文章によってブーストされ、抜群の悍ましさを醸し出す。

 そんな異形の怪物たちに自分たちの仲間で、「映え」のヒロインであった女性が貪り食われ、隣でもう一人の仲間が恐慌状態に陥っているというのに、主人公の語り口にはまるで変化が見られない。
 もう一人の仲間であるタイセーのミスでヒロインが死んだことも、ヒロインの生前の姿の短い回想も、美しさを保っていたヒロインの顔が異形もろとも吹き飛ばされても。

 一人称視点の文章をドライにすることで、体幹をしっかりとさせた文章でありつつ、主人公の方に恐怖を覚える演出にもなっている。
 ここまでの流れを追った時には、もうグロテスクな肉片散らばるコンビニの店内という、Mexicoの修羅場に引き込まれている。妙技と言えるだろう。

 なんて読者目線で思っていたら、主人公が取った行動が、仲間であるはずのタイセーを怒らせて、生き残っていた異形もろとも銃殺という、急角度で反転してきた魔弾みたいな一撃を浴びることとなった。

 主人公を魅力あるキャラクターに仕上げるのは、創作においては重要な要素だが、800字という制限のある逆噴射小説大賞においては、それをどうやり遂げるのか、そもそもその要素自体を取捨選択することも考えねばならない、大きな課題の一つだろう。
 今回の参加作品でも、その点を強烈に仕上げている作品が多く見受けられたが、この作品はドライな主人公が「映え」という目的だけを見据えて、何の迷いもなく行動するという一点でこれを遂行してきた。

 恋敵、という一言だけで主人公もヒロインに恋慕を抱いていたと思わせておきながら、この乾ききった姿勢は印象深い。
 その上、ここまでやったというのに撮影ドローンは立ち去っていて、ウケてなかったで済んでしまった。無慈悲すぎる展開を前に、主人公と一緒にタイセーの死体を眺める他なかった。

 800字の中でドライさを貫き通すMexicoの荒野に、naggyfish氏が積み重ねてこられたのだろう文章力から来る、腰の入った一発を見た。今回の作品も腹の底に響いた。読ませていただいてありがとうございます。

6.Adversaria-L

 これまでの逆噴射小説大賞でも実績を残し、特に精力的に活動しておられるパルプスリンガーの一人であるタイラダでん氏の今回の投稿作品には、脳を揺さぶられる鮮烈な感覚を刻み付けられた。

 視点人物である主人公の記憶の混濁が、それを成している。
 人の記憶を食らい、存在自体を砂に変えてしまう怪物、というだけなら既視感を覚える設定にも思えるが、それが実際に記憶を虫食い状態にされた主人公の視点で語る、という形式によって、何もわからない読者も主人公と一緒に混乱の渦に巻き込まれていくような、没入感ある読書体験へと昇華されている。

 失われていた意識が戻り、ヘッダー画像そのままの滅亡世界の情景から始まって、何もわからないまま脅威に追われる感覚を主人公と共に共有し、いきなり危機に晒される主人公とヒロインの状況と、断片的に取り戻される記憶という形で提示される背景情報が、息つく間もなく交互に叩き込まれる感覚は、二丁拳銃の乱射を浴びるが如きだ。

 ポスト・アポカリプス的な世界観の作品は多いが、そのジャンルのゲームをプレイし始めた時のような感覚を文章で味わわされるとは驚嘆である。
 そうして危機が去ったと思えば、間髪入れずに主人公と共に困惑の渦に叩き込まれる。ヒロインは思い切り名前を呼んでいるのに記憶にある自分の名前と食い違い、今守った相手のこともわからず、微かに残った使命感を掘り出したと思えば、今度はヒロインが壊れたロボットのような挙動をし始める。

 なんだこれは。どうすればいいのだ。ここからどうなってしまうんだ。先が気になって仕方ない。
 800字が描き出すタイラダでん氏のMexicoたる、白い砂漠に覆われた崩壊都市に取り残され、主人公と共に立ち尽くす読後感。腹に突き刺さる凄絶な一弾だ。読ませていただいてありがとうございます。

7.人生売買人生

 歴戦のパルプスリンガーの一角たる高柳総一郎氏は、自作品の中で共有する世界観、いわゆるバースを複数作っておられるという。
 無限に作品を生み出せそうな土壌そのものを作り出す、と言う時点で背景に積み重ねられたこれまでの修練が想像され、そこから織りなす強固な物語に既にワクワクさせられるというものだ。

 そんな高柳氏のバースの代表であるという、『アメリカ合衆国グリーンウェル州オールドハイト市』、何でもありの犯罪都市から飛び出してきた本作は、築き上げられた世界観に裏打ちされた重心の乗ったノワールだ。

 テープで拘束された男、という異様な光景に始まり、8mmテープというレトロなアイテムが印象付けられ、そこから始まる主人公の独白はあまりに無慈悲で、自分をテープで覆った非人間的な外見と共に強く印象付けられる。

 犠牲者に語り聞かせているのかも定かではない解説と、無機質な犠牲者の死からのフリマ出品と言う流れは、タイトル通りに他人の人生を所有物として商品にする、他者への究極の支配。寒気のする邪悪さだ。

 そんな冒涜的な行為にも関わらず、話が急に世知辛くなるのは、同じような異能犯罪者がひしめき合う犯罪都市、という舞台設定が強固である故か。
 こんな強烈な悪事も、この街では必要な値段に届かないばかりか、売り上げの半分が費用で消える上に、たった今悍ましすぎる犯罪を完遂した女もどこかの組織の歯車に過ぎないという、命の軽さを端的に提示してくる連射技術。普段から執筆を積み重ねているパルプスリンガーは、やはりモノが違うと実感する。

 ラストは、僅か五行で示される急展開。この街ではきっとありふれた、その辺の犯罪者の命の危機。物語の行き着く先がどうなるにせよ、きっとイカれたオールドハイト市は全部飲み込んで存続していくことだろう。
 作り込まれた背景と強烈なキャラクターから放たれる重厚な弾丸を浴びるこの経験は、逆噴射小説大賞ならではだろう。読ませていただいてありがとうございます。

8.落花〈ラッカ〉

 しゅげんじゃ氏といえば、逆噴射小説大賞において大賞受賞歴を持ち、これまでの投稿作品からしても、その実力は疑いようのないパルプスリンガーだが、今回の作品もやはり凄まじいパワーを感じた。

 冒頭から数行を追っただけでも、ぜい肉をそぎ落とし、骨格をしっかりと形成し、その上で厚みある文章に魅入られる。
 舞台は宇宙、地球との境界線。軌道エレベーターや宇宙服という未来的技術から受けるSFの印象を、「飛び込み台」というアナログな設備によって一気に変えて来る。

 宇宙から地上に飛び込むという正気を疑う偉業に挑む二人となれば、一種のスポーツものか、バディものか。そんなことを考えながら文章を追ううちに、物語はどんどん展開していく。
 遥か高みにいたヒロインに、努力で追いついた主人公と印象付けられる文章が続くのを見れば、やはりバディものだと思うだろう。

その無様な散りぎわを見た時、俺の人生は完成する。

 練り上げられた書き手の文章は、一行あれば読者をぶち抜ける。何度も味わってきたことだが、しゅげんじゃ氏のそれはひと際強烈だ。
 何故そうなる。今までの雰囲気はどうした。血の滲むような努力をして追いついた、相棒でヒロインって話じゃないのか。

 SF→スポーツ、バディ→愛憎劇という三段構え。800字の中で出来る展開なのか、これが。あまりの目まぐるしさと文章の力で、もうこの時点で脳が揺れる。
 カウントダウンと共に文章自体が降下していくような改行の妙を味わっていたら、今度はこれである。

 その呟きと同時。唐突な落下感が紫苑を襲った。咄嗟に隣を見る。椿の手には振動ナイフ。拘束帯が切断された――。

 四段構えかよ。なんてこった。こっちはもう顔面がボコボコだ。
 本当にこれが800字なのか。作中の技術で文章を高密度圧縮してるんじゃないだろうか。凄すぎる。

 全くもって主人公のいう通り、相思相愛な二人が人類史に残る挑戦の中で殺し合いを始める。誰の邪魔も入るはずのない、地上百キロメートル上空の境界線で。こんな凄絶で美麗で、鮮血色かつ宇宙的な、命がけのイチャつきは初めて見た。

 落ちながらヒロインの足を握り潰すための動作を、狂うほど反復練習していた主人公の姿を見ながら、自分の語彙が大気圏突入を待たずに燃え尽きるのを感じた。
 しゅげんじゃ氏は今年もすごかった。この宇宙的愛憎劇は、私の腹に大穴を空けた。読ませていただいてありがとうございます。


 ひとまずは、ここまで。また気力と時間があれば、ピックアップに挑戦したく思います。
 ありがとうございました。

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