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票獲得レースと女子サッカーW杯2023年の立候補の取りやめ

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こんにちは。S.C.P. Japanの野口です。いつも週1コラムをご覧いただきましてありがとうございます。

2023年女子ワールドカップ立候補の直前の取り下げ

本日は、今週月曜日に飛び込んできた、びっくりニュースの話題です。2023年の女子サッカーW杯の開催に立候補していたJFAですが、開票日の直前に立候補を取りやめる事態が起こりました。

Twitter上では、「最後まで戦わずに諦めるのか」や、「選手に最後まで戦えと言えないではないか」との、言葉も良く見られました。

JFAからの声明が出る前の速報では、下手な憶測をするのは辞めようと思っていましたが、JFAからの声明が発表され、「既にASEANサッカー連盟がオーストラリア/ニュージーランドへの支持を表明するなど」の文章を見た時に、撤退は止む無しと納得しました。

スポーツ外交と票獲得レース

国際競技大会の招致レースは、加盟国がどの国に投票するのかが大きい鍵を握ります。以前、このnoteでスポーツはヨーロッパ中心主義でできていることを書かせていただきましたが、会長選や招致レースは一変して、1か国1票の重さの平等な票を持っています。

この票獲得レースも含めて、国としてサポートしているのが「スポーツ外交(Sport Diplomacy)」と呼ばれる政策領域です。日本では、外務省が2017年に「スポーツ外交推進事業」を開始し、①日本の指導者の派遣、②海外選手の受け入れ、③各国日本大使館でのレセプション、④スポーツ用具の提供。などの事業を実施しています。凄く簡単に言うと、スポーツで他の国をサポートし、日本っていい国だな。と思ってもらい、票を獲得しやすくします。例えば、W杯招致を目指すX競技団体の会長がA国に赴いた際に、A国日本大使館がレセプションを開催し、A国のキーパーソンを招いておもてなしをするなんてこともあります。

オーストラリアは、スポーツ外交を国家戦略としてかなり積極的に実施しています。オーストラリアのターゲット国は大洋州諸国と東南アジアです。大洋州諸国には14か国、東南アジアは約10か国あり、この地域へのサポートを重点的に行うことで、今回のような招致レースの際に票がもらいやすくする狙いを持っています。

キャプチャ

大規模国際競技大会と紐づく開発プログラム

低所得国にとって、国際大会の開催地は、自国のスポーツ開発に影響を与えます。2012年のロンドンオリパラはインターナショナルインスピレーションプログラム、2019年のラグビーW杯もアジアンスクラムプロジェクト、2020年の東京オリパラは、Sport for Tomorrow プログラムをそれぞれ実施し、大規模競技大会を契機に低所得国のスポーツ開発を支えるプログラムを通じてレガシーやムーブメントを作ることが現在の主流です。低所得国にとっては自国により良いスポーツ開発援助をしてくれる国に大会を開催してもらいたいと思います。

票取り合戦は、国際競技連盟の中でも起こります。FIFAやIOCは1960年代から開発プログラムをいろいろな名前で実施しています。放映権で潤った利益や民間企業からのスポンサー料を開発途上国のスポーツ発展に還元するというプログラムです。しかし、当然、自分の国を贔屓してもらいたい低所得国の関係者は、その開発プログラムの責任者に忖度をするようになります。そうすると、招致や会長選で、例えば、アフリカ諸国から、ごそっと票を獲得したい立候補国の関係者は、開発プログラムの責任者に相談し、アフリカ諸国に口をきいてもらい、票を獲得してくことがあります。その口利き料として「賄賂」が渡されることもあり、問題にもなっています。

招致は票取り合戦です。欧米中心主義で欧米の声が大きいにも関わらず、どんなに小さい国も1票は1票です。世の中の3分の2は開発途上国のため、票が沢山あるところは開発途上国なのですが、権力とお金は3分の1の先進国が握っています。

今回の2023年女子W杯の直前の立候補取り止めは、オーストラリアのスポーツ外交戦略を考慮するならば、大洋州諸国を抑えているオーストラリア相手に、ASEAN10か国の票が取れなかったのなら、日本にとっては負け戦です。ASEAN10か国はASEAN10か国でのW杯共同開催を目指していたりもするので、どこかの国が足並みそろえず別の国に入れるということはまずありえません。10か国一致で合意形成をするのが、ASEANという枠内での何かを判断する時の10か国の約束事です。

であるならば、オーストラリアやニュージーランドと負け戦をするよりは、直前の辞退でも、オーストラリアとニュージーランドにエールを送る方が、両国が次のタイミングで日本をライバル視することもないですし、むしろ日本をサポートし、大洋州諸国も東南アジアの票も取りやすくなるかもしれません。

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