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何にでも名前つけがち

我が家に遊びにきた人全員が、「なにこの家迷子になりそう」って言うくらい、変な作りの家に住んでいる。

別に英国貴族の城みたいにだだっ広いわけじゃなくて、そもそも素人(義母)が図面を引いたのを、コミュ障の息子兄弟があーだこーだ意見というか主張というか文句を言った結果、なんだこのスペースは?という空間があったり、普通の家なのにトイレの和式と洋式が並んでたり、
永平寺の僧なら余裕で住めそうな広さのトイレがあったりする。

そこに引っ越してきたヨメたる私がまたエラく自己主張の激しい人間だったものだから、やれこの壁が要らないとかここに扉が欲しいとか、カフェみたいなキッチンにしたいとか無体を並べた結果、ますます妙ちきりんな間取りの家が出来上がったのだけれど、犬山家のメンツはアホばかりなので割とまあ満足して暮らしている。

暮らしてはいるのだが、どこがパントリーでどこが納戸で、どこが廊下でどこが踊り場なんだか名付けようのない空間がランダムに並んでいる上に、
思いも寄らぬ方向からアプローチできるリビングとか、
手洗いした後だいたい別の部屋に踊り出てしまいがちな洗面所とか、
生活動線確保に血道を上げる設計士なら泡吹いて卒倒しそうな体たらくなのは間違いない。

何が一番困るって、

「あそこのあれ取ってきて?」とか、「○○はどこに置いた?」というときに、
「廊下の物入れ!」とか、「洗面所出たとこの棚!」とか答えても、
住人Aが廊下だと思ってるところが住人Bは踊り場だと思ってたり、
洗面所から出る方向がいくつもあるもんだから、見当違いな棚にアプローチしてしまって、
『ねぇよ!!どこ!!!!』というような、不穏な空気感になったりする。

住人でさえそんな感じだから、初見から来訪3回目くらいまでの人は、
部屋を出て曲がるとまた同じ部屋に戻ってきてしまうとか、
さっきここだよと言われたトイレにどうしても辿り着けないとかいう謎現象に悩まされることになる。

先日、弔事終わりに来客が7人ほどあった時には、全員が一斉に上着を掛けて手洗いしてトイレに行ったりしてリビングに戻るまで、
同じところをぐるぐるしたり、
出てったと思ったのに用を足せず違うドアから戻ってきたり、
やっと手を洗えたと思って戻ろうとしたらいつの間にか真っ暗な寝室に迷い込み、敷きっぱなしの布団を踏んでギャー!とかなったり、
私は見ていて、分子と原子の初期のぶつかり合いってこんな感じなのかなと思って笑い転げてたけど笑い事じゃなかった。申し訳ない。

この無茶苦茶な間取りは何かに似ている。
都心の私鉄乗り入れすぎ案件だ。

利便性を追求して、場当たり的に何かを付け足したり伸ばしたりした結果、都民でさえめっちゃ集中して乗らないと、気がつけば違う場所へと運ばれている。
スマホに夢中になってトランジットを逃すと、いつの間にか知らないさいたまとか知らない神奈川とかに自分がいて、あわてて戻ろうとすると知らない練馬とか知らない中野とかに戻ってたりする。

来訪者がトイレ行くとリビングに戻れなくなったり、
帰ろうとして玄関に向かったはずが、うっかりじーちゃんとばーちゃんの生息地に足を踏み入れてしまってお互い度肝を抜かれたりする我が家と、そっくりではないか。

という話を犬山家メンツで話してたら、それじゃあ乗り入れすぎな私鉄へのオマージュを込めて、我が家の間取りも路線図に倣うことにするのはどうか、というあたまのおかしい提案がなされ、当然のことながら全員賛成で即採用となった。
さすがアホの集まりである。


ヒトは乗り換え案内アプリのみにて生くるにあらず

洗面所が『渋谷』

いきなり?と思うかもだが、ターミナル駅的な位置にあるのが洗面所だからしょうがない。

そこから南側へ向かう納戸兼廊下が、井の頭線。
よってその先にある私の寝室は『池ノ上』。

洗面所を出て北東のキッチン、リビングに向かう廊下が銀座線で、
その途中にあるトイレは『外苑前』、キッチンは『赤坂見附』、リビングは『六本木』。

そのまた反対の階下に向かう廊下は東横線にしたいと吟遊詩人(犬山家メンツのひとり)が言うので、廊下沿いの詩人の部屋は『祐天寺』、その先のエニダン(同メンツ)の部屋が『武蔵小杉(笑)』。

(なぜ(笑)なのかというと、自由が丘案が出たときにメンバー全員が、イメージとちゃう、自由が丘に失礼、とまで反対したから)
(武蔵小杉の皆さん大変申し訳ありません)
(エニダンはいい人です多分)

これで「マスクの予備どこ?」「東横線沿いの棚!」というふうに、
誰もが迷いなくモノを指し示すことができる上に、
「今ちゃんどこ行った?」「池ノ上で寝てる」とか、
「外苑前でシッコ散らかしたのだれ!掃除しといてよ!」などの面白フレーズが飛び交って暮らしが愉快になった。

どこがどの路線で何の駅なのかをつい忘れがちなので、定着するまでは付箋で目視。

トイレ。中からヤクルトの選手出てきそう。


キッチン。誰かの覚え書きメモっぽい。


そういえば我が家は何にでも名前つけるよな。
以前、皿に名前がなくて不便、という流れから、食器にも全部名前が付いている。
よく使う大皿は、権太郎。略してゴン。
カレー皿5人兄弟は全員ポール。
安っちいディナー皿は、くれた人にちなんでヒグチくん。
あのー2番目の引き出しの奥の右の、違うそれじゃない、みたいなストレスがゼロなので大変便利です。
ギョーザ焼けたからヒグチくん出して、で一発で通じる。

間取りに名前をつけるのも、食器と同じように便利になるといいな。

と思ってたら、付箋の糊が弱くていきなり外苑前が地面に落ちてた。
がんばれ外苑前。

この後メンディングテープで貼りなおした

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