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人生を面白くしてくれるのは自分が何者かではなく、何者になりつつあるかだ

ヒトの脳は、一刻一刻その構造を変え、その地図を書き換えている。たとえば、一冊の本を読んだ後と前では、脳内のニューロンやそれ以外の脳内資質が変わっている。

会計士が仕事を辞めてピアニストになったら、指の動きに充てられた脳領域が大きくなる。顕微鏡検査技師として働き始めたら脳の視覚野の解像度が上がり、細かな部分も探し出せるようになる。調香師の仕事につけば、嗅覚に割り当てられた脳領域が拡大する。

脳の中のニューロンは、隣り合った国同士のように自らの領土を主張し、それらを守ろうとし、互いに繋がりを求め、広がっていく。この領土争いは脳というシステムのあらゆるレベルで起きていて、ニューロンやニューロン間の接続ひとつひとつが資源を求めて競い合っている。

デイヴィッド イーグルマンの著書『 脳の地図を書き換える』には、脳がいかにその構造を変化させていくかが科学者の視点から説明されている。

著者は、「脳細胞同士での境界をめぐる戦いが、脳の生涯を通して熾烈に繰り広げられるあいだ、脳内の地図は何度も何度も書き換えられて、その人の経験や目標がつねに脳構造に反映されるようになる」と述べている。 

つまりわたしたち人間は、一刻一刻書き換えられて言っているということだ。

飛行機で初めての街を訪れたり、懐かしい写真に見入ったり、好きな人の甘いささやきが耳に届いたりするとき、複雑に絡み合った脳の広大なジャングルは一瞬前とはわずかに違う存在へと自らをつくり替える

こうした変化が積み重なって私たちの記憶ができあがっていく。脳のこうした無数の変化が、数分、数か月、数十年をかけて蓄積され、その総和が私たち存在そのものになる

脳は動的なシステムであって、体に何ができるかや環境がどうなっているかに応じて自らの回路を絶えず変化させている。

頭蓋の内側に息づく微小な宇宙を魔法のビデオカメラで大写しにできたら、ニューロンが触手を伸ばすようにして辺りをつかみ、探り、互いにぶつかり合いながら、適切な相手とつながり、あるいはつながらずにおくのを目の当たりにできるだろう。

「まるで同じ国の市民どうしが友情を結んだり、結婚したり、一緒の地区に住んだり、政党を結成したり、復讐したり、社会的ネットワークを築いたりするさまを思わせる」と著者のイーグルマンは言っている。

何兆という生物が絡み合った、生きている共同体──それが脳だと考えれば少なくともいま現在のあなたと昨日のあなたはわずかながら違っているし、明日のあなたはまた少しだけ別の人間になる、ということだ。



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