実家には「行く」のか「帰る」のか
【母語干渉☆】by SCセンセ
この正月は、コロナ禍のため、日本では多くの人が帰省を控えました。
中華圏は春節が本番、今年は2月12日で、11日〜17日が休暇です。多くの人が帰省するのでしょう。
帰省する、つまり「故郷に帰る」は、中国語で“回老家huí lǎojiā”“回家乡huí jiāxiāng”……などと言い、この時期なら“回家”だけて帰省になることも少なくありません。“回家过年guònián”「帰省して正月を迎える」なんていう常用表現もあります。
初級クラスで“*去老家”などという中国語がときどき聞かれます。これは日本語で「田舎に行く」や「実家に行く」などが頭にあるからで、母国干渉だと思います。
日本は時代の流れとともに、血縁の絆や望郷の念が弱くなっているのかもしれませんが、中華圏はさすがにまだ強く、自分の故郷には“去”ではなく“回”を使います。
“回娘家”という中国語はご存知ですね? “娘niáng”は「お母さん」、女性が“婆pó家”「嫁ぎ先」から実家に帰るという意味です。
これも中国語で“*去娘家”「実家に行く」と言う生徒さんがいました。
でも、ネットをググってみると、興味深い書込みがありました。
日本の古い考え方では、女性は結婚後、嫁ぎ先から「実家に帰る」とは言わず、「実家に行く」と言わなければならないそうです。女性は嫁いだらその家の人間になるので、帰るのは実家ではなく嫁ぎ先だと考えているわけです。嫁ぎ先の姓に変えるのもその証です。
「実家に帰らせていただきます!」
ひと昔前のホームドラマで、夫婦喧嘩の末に妻が言い放つこのセリフ。極端に言えば、夫と離婚して、嫁ぎ先と縁を切るという決意ですよね。
中華圏の女性は、ふつう結婚しても姓を変えません。実家には「行く」のではなく「帰る」です。ある意味、女性は嫁ぎ先では一生よそ者扱いでした。もちろん今はそんなことはありませんよ、昔の話です。生徒さんが“*去娘家”と言ったのも、古い考え方からではなく、単なる母語干渉です。