見出し画像

雪国[Snow Country]和英比較教材化

さて、前回のErnest Hemingway氏の"The Old Man and the Sea"(邦題「老人と海」)に引き続き、ノーベル文学賞受賞作家の作品の教材化です。今回は、川端康成氏作・Edward George Seidensticker氏英訳作品の中から、代表作と言ってもいい「雪国」の冒頭部分。科学英語ではありませんが、特に冠詞theとaの使い分けの例が非常に印象に残る作品です(今回は「初出でもthe」を改めて意識していただけたら幸いです)。

答え合わせは授業内で実施する予定ですが、多くの非受講生の方にも閲覧していただけているようなので、少しヒントを多めにしておきます(答え合わせをする機会があるかどうか分からないので)。いわゆる学校英語や学術英語で整理しきれていない部分を面白いと思っていただけると幸いです(閲覧して面白いと思った方は、コメントしていただけると、教材や答え合わせを今後公開する励みになります)。

[タイトル]雪国 / Snow Country

[本文](太字は私が入力)
国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった。信号所に汽車が止まった。
THE TRAIN came out of the long tunnel into the snow country. The earth lay white under the night sky. The train pulled up at a signal stop.

向側の座席から娘が立って来て、島村の前のガラス窓を落した。雪の冷気が流れこんだ。娘は窓いっぱいに乗り出して、遠くへ叫ぶように、
「駅長さあん、駅長さあん。」
A girl who had been sitting on the other side of the car came over and opened the window in front of Shimamura. The snowy cold poured in. Leaning far out the window, the girl called to the station master as though he were a great distance away.

明りをさげてゆっくり雪を踏んで来た男は、襟巻で鼻の上まで包み、耳に帽子の毛皮を垂れていた。
The station master walked slowly over the snow, a lantern in his hand. His face was buried to the nose in a muffler, and the flaps of his cap were turned down over his ears.

もうそんな寒さかと島村は外を眺めると、鉄道の官舎らしいバラックが山裾に寒々と散らばっているだけで、雪の色はそこまで行かぬうちに闇に呑まれていた。
It’s that cold, is it, thought Shimamura. Low, barracklike buildings that might have been railway dormitories were scattered here and there up the frozen slope of the mountain. The white of the snow fell away into the darkness some distance before it reached them.

「駅長さん、私です、御機嫌よろしゅうございます。」
“How are you?” the girl called out. “It’s Yoko.”
「ああ、葉子さんじゃないか。お帰りかい。また寒くなったよ。」
“Yoko, is it. On your way back? It’s gotten cold again.”
「弟が今度こちらに勤めさせていただいておりますのですってね。お世話さまですわ。」
“I understand my brother has come to work here. Thank you for all you’ve done.”

問題1:第一文目、初出の名詞(句)にtheがつく点について考察
 和文:国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。
 英文:THE TRAIN came out of the long tunnel into the snow country.
a. 冒頭にいきなりTHE TRAIN(全て大文字になっていますが特に意味はないはず)とありますが、文法的にはアリかナシか?(私が言う「初出でもthe」の例)また、The train → A train に変更するのは文法的にアリかナシか?意味の違いは出る?
b. the long tunnel → a long tunnel に変更するのは文法的にアリかナシか?意味の違いは出る?
c. the snow country → a snow country に変更するのは文法的にアリかナシか?意味の違いは出る?
d. この和文のどこに定冠詞の要素があると思いますか?

問題2:The train pulled up at a signal stop.とありますが、このsignal stopの冠詞をaからtheに変えることで何か意味の変化が起こると思いますか?

問題3:以下の2つの文章の比較。
A girl who had been sitting on the other side of the car came over and opened the window in front of Shimamura.
Leaning far out the window, the girl called to the station master as though he were a great distance away.
a. A girlに対してthe station masterとなっている点について、どちらも初出なのに冠詞が違う理由を考察。
b. A girl  → The girl に変更するのは文法的にアリかナシか?意味の違いは出る?
c. The station master → A station master に変更するのは文法的にアリかナシか?意味の違いは出る?

教材化した部分は以上です。川端康成氏による原文とエドワード・G・サイデンステッカー氏による英訳(特に英文での冠詞の使い分け)、いかがでしたか?

ヒントは以下の記事で公開してあります。

今後、この「初出でもthe」の例をもう少し追加する予定です。その背後には実は個人的に重要だと考えているテーマがあり、それについて皆さんにも考えてもらうための教材群です。そのテーマとは、
日本語に不定冠詞vs定冠詞の区別は必要?:英語と日本語の深堀り比較
 言い換えると、日本語には冠詞がない(本来は必要なのに)のか、日本語に冠詞は不要(英語の冠詞が逆に不自然/人為的な後付け)なのか。
 英語を学んでいると、冠詞がある英語が当たり前で、それを基準にして日本語に冠詞がないことに劣等感を抱いていると思しき日本人による解説や日本語が劣っているかのような英語ネイティブによる言説にたまに遭遇します(英語は厳密で日本語は曖昧、などなど)。簡単には答えが出ない問題(そもそも正解がないかもしれない問題)ですが、いろいろな教材を通して皆さんにも考えていただければ幸いです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?