マダガスカルにカエルを求めて その2
マダガスカルのカエル
マダガスカルではこれまでに312種の両生類が記載されており(2016年現在)、そのすべてがカエルである。そのうち308種がマダガスカルでしか見られない固有種であり、島内での種分化と適応放散の結果であると考えられる。しかし、近年、分子遺伝学的手法の導入によって、種の記載や整理がすすみ、実際の生息種数は約500種に達すると考えられている。日本に生息するカエルの種数は47種であるから、大きな値である。
種数が多いことは、生活史の多様性とも結びついている。産卵場所も水中だけでなく、多様である。流水性の種は、渓流上の木の葉や枝、岩になど産卵するものが多い(図3)。土に掘った穴に産卵するもの、樹洞や葉腋にたまった水に産卵する種もある。カワリヒメアマガエル類のように樹桐に産卵する種の中にはおたまじゃくしは餌を食べることなく、卵黄の栄養だけで変態するまで成長するものもあり、産卵された樹桐をオスが守る行動を示す種が知られている。卵から幼ガエルが直接発生するものもいる。また、乾燥地に生息する種では、一時的な水たまりに産卵するため、小さな卵を多数産卵する傾向がみられる。
カエルの多くは周囲に溶け込む隠ぺい色をして、夜行性だが、マダガスカルガエル科には派手な色彩を持ち、昼に活動する種もいる(図4)。このグループは、南米に住むヤドクガエルと同様に毒を持つように進化した。これらのカエルはアリを食べることによってアルカロイドを蓄積すると考えられている。
大陸移動と種分化
マダガスカルで両生類の種分化がすすんだ理由として、他の大陸から隔離された地史的な要因が考えられている。マダガスカルは1億7000万年前にはゴンドワナ大陸の中にあった。1億3000万年前にアフリカ大陸とインド亜大陸が分かれたとき、マダガスカルはインドの一部であったが、最終的に8800万年前にインド亜大陸と分かれた。マダガスカルに生息するカエルは、ゴンドワナ大陸が分裂する前から生息していた種がそのまま残っているという考えもあったが、現在では、6500万年前の大絶滅後に、インドやアフリカから移入したものが適応放散して500種にまで増加したとされる。
マダガスカルで自然との共生を考える
私は、ラノマファナの渓流で、どうして多種の両生類が共存できるのか解明したいと考えている。マダガスカルでは、森林伐採圧が高く、多くの生物が絶滅の危機に瀕している。地球上でも貴重な自然が失われると、生物進化や生態に関する新しい理論解明の可能性も失われる。しかし、カエルのために地域の人々に生活をがまんしろということはできない。
現地では、アメリカのストーニーブルック大学の研究施設にお世話になっていた。ここは、生物の研究のために設立されたが、研究だけにとどまらず、現地の人々やNPOを招いて、どうすれば環境を守りながら生活を向上させるかなどについて、ワークショップを実施している。また、様々な雇用を生み出している。大学がこのような地域貢献を果たす事例は多くはないものの、あちこちで見られるようになった。こうした努力の積み重ねが、自然との共生をすすめる上で大切なのだと思う。