夏原由博

大学教授を退職し、悠々自適の生活を送っています。大阪自然環境保全協会の会長を務め、生命と環境に関して執筆しています。趣味で美術館巡りや大阪フィルハーモニー交響楽団の演奏会に足を運んでいます。夫婦で旅行することも多く、2022年は小笠原諸島やギリシャを訪れ、自然や文化に触れました。

夏原由博

大学教授を退職し、悠々自適の生活を送っています。大阪自然環境保全協会の会長を務め、生命と環境に関して執筆しています。趣味で美術館巡りや大阪フィルハーモニー交響楽団の演奏会に足を運んでいます。夫婦で旅行することも多く、2022年は小笠原諸島やギリシャを訪れ、自然や文化に触れました。

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    これまでに訪れたアフリカの思い出です

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同性愛はなぜ進化したのか

はじめに 何年か前に子供をつくらない同性愛者には生産性がないと言って、その後発言を撤回した政治家がいた。生物学的には生産性がない(子供をつくらない)という行動をひきおこす突然変異が生じても、自然淘汰され、集団の中に残ることはない。なぜ、人類で同性愛が進化したのか。そもそも遺伝的背景を持つ行動なのか、それとも文化の産物なのか。 同性愛者はどの程度の割合で存在するのか 国や文化によって異なることが予想される。また、同性愛の判断基準も一つではない。自己申告にもとづくものや、男女の

    • なぜ戦争は正当化されるのか:進化生物学的アプローチ

      多くの人が殺人は最も許されない罪だと考えながら、国家間の戦争を容認、さらには鼓舞するのはなぜか。これは政治学や経済学の課題だろう。しかし、ヒトの心理や行動は進化に裏付けられた現象だと考えることもできる。 人間行動の進化を理解するアプローチ 人間行動の進化を理解するために、行動生態学、進化心理学、二重継承理論(DIT)の3つのアプローチがある。それぞれが進化が現代人の心理に影響を与えたとする根本的な前提を共有しているが、研究方法や焦点は異なる。 行動生態学は、自然淘汰によっ

      • 要約:なぜわれわれは死ぬのか 12章

        第12章 寿命を延ばす技術の進歩は社会的影響と切り離してはならない 現在、先進国では高齢者の割合が20%近くに達しており、世界の多くの地域では現在から2050年の間に倍増すると予想されている。寿命延長がもたらす社会的影響は計り知れない。こうした措置は、一般的に人々が定年後数年しか生きられなかった時代に導入されたものだが、今では定年後20年は生きられる。 罹患率(不健康に生きている人と時間の割合)を抑えずに寿命を延ばせば、現在の問題を悪化させるだけだ。新しいアンチエイジング

        • 要約:なぜわれわれは死ぬのか 第11章

          この章と次章はアンチエイジング技術や産業が社会に与える影響について議論している。 不老不死は人類の長年の夢であった。エジプトのミイラや現在の精子や卵子の凍結保存はその例である。死後に人体を冷凍保存して、後に解凍するというクライオニクスも考えられている。しかし、死の直後に細胞は生化学的な変化を起こし、生きている状態のままではいられない。特に脳のニューロンのつながりを維持あるいは再現することは難しい。凍結した脳の実際の状態を再構築することはおろか、その時点からどのように「思考」

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          要約:なぜわれわれは死ぬのか 第10章

          遺伝子から、その遺伝子がコードするタンパク質、そしてそれらが細胞や動物全体の機能に影響を与える。これらのレベルはすべて相互に関連しているため、タンパク質や細胞の状態は、どの遺伝子がどのように発現しているかに影響し、それがまた遺伝子に影響を及ぼす。 炎症の原因のひとつは、細胞が老化したり傷ついたりすることによる。DNAが損傷すると細胞はがん化する危険性がある。そのため、損傷が軽度であれば、修復する。損傷がより広範囲に及ぶ場合は、細胞を死滅させるシグナルを発するか、細胞を老化状

          要約:なぜわれわれは死ぬのか 第10章

          要約:なぜわれわれは死ぬのか 第9章

          細胞内には数十から数千ものミトコンドリアがあり、これらは常に融合と分裂を繰り返している。細胞が分裂するときにミトコンドリアも分裂しますが、オートファジーと呼ばれるプロセスによって欠陥のある部分が分解されることもある。 ミトコンドリアは細胞内でフリーラジカルと呼ばれる化学的に反応性の高い分子種が大量に生成される場所だ。これらのフリーラジカルは細胞内の他の構成要素を傷つけ、細胞の機能低下や老化を促進する。特にミトコンドリアのDNAが傷つくと、次世代のミトコンドリアにも影響を与え

          要約:なぜわれわれは死ぬのか 第9章

          要約:なぜわれわれは死ぬのか 第8章

          今回はChatGPTに手伝ってもらって、超短縮した。 老化と遺伝子の関係に関する研究では、デンマークの双子を対象にした研究から、ヒトの寿命の遺伝率が25%であり、遺伝子の影響が小さなものの積み重ねであることが示された。しかし、線虫を用いた実験では、特定の遺伝子の突然変異が長寿をもたらすことが判明しました。例えば、age-1やdaf-2といった単一の遺伝子の突然変異が、線虫の寿命を通常の2倍以上に延ばすことが明らかになった。これらの遺伝子は、ホルモンであるインスリンやIGF-

          要約:なぜわれわれは死ぬのか 第8章

          要約:なぜわれわれは死ぬのか 第7章

          一時的な断食が健康に良いという人がいる。カロリー制限食を与えたラットは、制限なく食べさせたネズミよりも長生きし、健康であることが示された。 カロリー制限中は、動物が栄養失調にならないように十分な必須栄養素を摂取させながら、好きなだけ食べた場合(自由摂取)の消費カロリーより30~50%少ないカロリーを与える。げっ歯類やその他の種では、平均寿命と最大寿命の両方から判断して、CRを摂取した動物は20~50%長生きした。さらに、糖尿病、心血管系疾患、認知機能の低下、がんなど、加齢に伴

          要約:なぜわれわれは死ぬのか 第7章

          要約:なぜ私たちは死ぬのか 第6章

          タンパク質はタンパク質はアミノ酸の長い鎖であり、アミノ酸の並び方によって、立体的に折りたたまれ、その構造によって機能を発揮する。 加齢に伴い、細胞の品質管理とリサイクルの仕組みは劣化し、神経変性だけでなく、炎症、変形性関節症、がんなど、老齢に伴う多くの病気を引き起こす。そのため、細胞はタンパク質の品質と完全性を確保するために、さまざまな方法を考え出した。細胞は 、他のタンパク質が正しく折り畳まれるように補助することを目的とした特別なタンパク質を進化させてきた。これらのタンパ

          要約:なぜ私たちは死ぬのか 第6章

          要約:なぜ私たちは死ぬのか 第5章

          2000年6月26日、クリントン米大統領とブレア英首相によって、ヒトゲノム全塩基配列が解読されたことが発表された。多くの人がこれによってヒトの遺伝的背景があきらかになり、病気の予防や治療が進むだろうと期待した。 しかし、ゲノム解読は始まりに過ぎず、DNAの多くは理解不能である。私たちのDNAのうち、生命機能の大部分を担うタンパク質を実際にコードしているのは、わずか2パーセント程度である。残りは、かつて生物学者が「ジャンクDNA」と呼んでいたものである。偽遺伝子と呼ばれる、か

          要約:なぜ私たちは死ぬのか 第5章

          なぜ私たちは死ぬのか 第4章要約

          (1961年にアメリカのWistar Instituteにいた)ヘイフリックは培養細胞を無期限に増殖させることができないことに気づいた。細胞は有限の回数分裂した後、停止する。特定の種類の細胞が分裂できる回数は、現在ではヘイフリック限界と呼ばれている。ヘイフリックとムーアヘッドは、細胞が停止し、それ以上分裂できなくなったこの状態を表すために、老化senescenceという言葉を作った。 1970年代初頭、DNAで有名なワトソンとロシアの分子生物学者オロヴニコフは、ほぼ同時に、

          なぜ私たちは死ぬのか 第4章要約

          なぜ私たちは死ぬのか 第3章要約

          内乱や戦争による政府の統制喪失などが社会の崩壊につながるように、細胞の制御や規制の喪失も腐敗や死につながる。しかし、細胞には何千もの構成要素を監督する司令塔は存在しない。司令塔に近いのは遺伝子かもしれない。遺伝子が持つ最も重要な情報のひとつに、タンパク質の作り方がある。DNAは遺伝子の情報を含み、タンパク質の作り方をコードしており、RNAを介してタンパク質が合成される。遺伝子にはコード配列と非コード配列があり、これらが細胞の働きや環境と相互作用し、遺伝子のネットワークを形成し

          なぜ私たちは死ぬのか 第3章要約

          なぜ私たちは死ぬのか 第2章要約

          第2章では、さまざまな生物の寿命、老化、再生の概念について考察し、異なる種間の類似性を描き、代謝率や大きさといった根底にある原理を探っている。蝶の短い寿命と樹木の長寿を重ね合わせながら、命のはかなさについて考える。さらに、ヒトデやヒドラ、クラゲなど、驚異的な再生能力を持つ生物に話が及び、老化のプロセスを理解する上で潜在的な意義があることが強調される。 続いて、動物界、特に哺乳類の例を挙げながら、体格、代謝率、寿命の関係について掘り下げていく。代謝率と体格を関連付けるクライバ

          なぜ私たちは死ぬのか 第2章要約

          書評:なぜ私たちは死ぬのか

          Ramakrishnan, Venki (2024) Why We Die: The New Science of Ageing and the Quest for Immortality. Hodder & Stoughton, Hachette. 320ページ, Kindle版$15.99, Amazon.co.jp 2625円 2009年にノーベル化学賞を受賞したRamakrishnan, Venkiによる(多分)2冊目の一般書。老化と死について、分子生物学と進化学の

          書評:なぜ私たちは死ぬのか

          いのち輝く未来社会のデザイン

          2025年に大阪で開催される国際博覧会のテーマです。博覧会協会にいのちとは誰の命かと聞いたら、ヒトだけでなくすべての命だと答えてくれた。でも本当は、彼らはヒト以外のことは考えていない。 正直言って命の重みを考えることは難しい。ヒト、チンパンジー、イヌ、ゴキブリ、キャベツで命の違いはあるのだろうか。

          いのち輝く未来社会のデザイン

          ヒトはなぜ死ぬのか:プレリュード

          ヒトは皆死ぬ。なぜ死ぬのか。いろんな説明がある。たとえば自動車は長年乗っているとタイヤや他の部品がすり減ったり調子が悪くなる。それと同じように体の組織が劣化していくのだ。この考えには問題があって、ヒトの細胞は常に新しくなることができる。また、寿命は動物によって異なりハツカネズミは最長で6年、チョウザメは152年と大きく異なる(https://honkawa2.sakura.ne.jp/4172.html)。寿命は自然な劣化だけによるのではなく、遺伝的にプログラムされているので

          ヒトはなぜ死ぬのか:プレリュード