同性愛はなぜ進化したのか
はじめに
何年か前に子供をつくらない同性愛者には生産性がないと言って、その後発言を撤回した政治家がいた。生物学的には生産性がない(子供をつくらない)という行動をひきおこす突然変異が生じても、自然淘汰され、集団の中に残ることはない。なぜ、人類で同性愛が進化したのか。そもそも遺伝的背景を持つ行動なのか、それとも文化の産物なのか。
同性愛者はどの程度の割合で存在するのか
国や文化によって異なることが予想される。また、同性愛の判断基準も一つではない。自己申告にもとづくものや、男女のどちらに性的に反応するか(例えば瞳孔の拡張)のような生理的なテストを行う方法などがある。そのため何が正確な数値か判断することは難しい。
日本では電通グループが3年に一度アンケート調査を実施している。2023年に全国20~59歳の計57,500人を対象としたインターネット調査の結果(https://www.group.dentsu.com/jp/news/release/001046.html)を下記に示す。生まれた時に割り当てられた性に対して異なる性を自認するかどうかについて、
トランスジェンダー 1.15%
時によって変わる 1.38%
クエスチョニング 0.26%
性的指向について
ゲイ 1.5%
レスビアン 1.0%
バイセクシュアル 3.2%
性別に関係なく恋愛感情を抱かない 1.43%
性別に関係なく性的に魅かれない 1.56%
恋愛感情を抱く相手の性がわからない 0.58%
性的指向について同性を対象とする割合が4-5%であった。特徴的なことは完全な同性愛よりもバイセクシャルが多いことである。これについては、別の機会に論じたい。
1994年から2012年までに実施された米国、カナダ、英国、ノルウェー、オーストラリア、ニュージーランドの26の調査結果をレビューした研究(Savin-Williams and Vrangalova 2013)では、少しでも同性を性的対象と見ている割合は男性で6.8%、女性で13.2%であった。
ヒトの性は性染色体によって決まる。まれに性染色体による性と性腺や性器の性が一致しない性分化疾患が存在する。その頻度は0.02%程度だとされ、同性愛の頻度とくらべ、はるかに小さい。この事実は、同性愛は病的なものではなく、文化的あるいは生物学的に意味のある行動であることを示唆している。次回は文化や生物学的な意味について論じたい。
引用文献
Savin-Williams, R. C., & Vrangalova, Z. (2013). Mostly heterosexual as a distinct sexual orientation group: A systematic review of the empirical evidence. Developmental Review, 33(1), 58-88.