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利己的遺伝子から社会的存在へ 第16章 コーダ

生命の本質は複製する能力であり、それによって進化することである。そのような最も単純な存在は、自己複製する分子である。その複製を開始するには2つのコピーが必要である。1つは鋳型となるもので、もう1つはプロセスを触媒するものである。2つの分子は同一であるが、テンプレートと触媒という異なる機能を果たす。つまり、この最も単純な可能性のある世界においても、協力し合う存在同士の役割分担があったに違いない。協力は生命の本質であり、自己複製する分子から始まり、分業によって進化した。効果的な協力には、利益がコストを上回ることといった基盤が必要である 。

2つの分子が協力するためには、コンパートメントが必要である。

18世紀に発展した漸進主義の原則がダーウィンの進化論に影響を与えた。進化は漸進的なプロセスである一方で、大きな進化的転換(MTE)が起こることで進化の飛躍が見られる。協力によって形成されたMTEは、階層性、複雑性、創発性という生物組織の3つの基本的特徴を説明している。

生物の組織は階層的であり、複雑さはMTEを通じて増加する。複雑な生物はより多くのMTEを経ており、これはマトリョーシカのように階層で表現できる。例として、リボソームから細菌細胞、真核細胞、多細胞個体、真社会性コロニーまでの階層を示している。

ラマルクや同時代の研究者は進化を進歩ととらえたが、進化が複雑性の蓄積を生み出したという事実による錯覚である。ダーウィンはノートに「上も下もない」と書いた。進化の歴史に見られるのは、進歩ではなく、連続するMTEから生じる個体の複雑性の増大である。

協力的な行動は個々の生理学からは予測できない新しいレベルの振る舞いを生み出す「創発現象」の例が挙げられている。創発とは、システムの各部分が互いに影響し合って、部分の総和よりも大きな結果を生み出すときに見られるシステムの特性である。例えば、単独で生活する粘菌が協力して動くことで新たな行動を示す様子などが紹介されている .

協力は必ずしも対立のない状況で成立するわけではない。協力にはコストが伴う。そのため、裏切りが生じうるが、協力者同士が集まることで対立を抑制することが可能である。

最後に、かつての社会ダーウィニズムを批判している。一方で、著者はクロポトキンの協力の議論に共感するが、生物学を持ち出した誤りを指摘している。私たちは協力するかズルをするかを個々に自由に選択できる。ただし、ズルをするとめったに繁栄しない、正確に言えば、まれにしか繁栄しないということに注意してほしい。と結んでいる。

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