読書ノート:行動経済学の処方箋
大竹文雄(2022)中公新書
行動経済学というトレンドをわかりやすく解説してくれている。わかりやすさの理由は、ひとつひとつの理論について、日常的な事例を挙げて説明している点だろう。ただ、経済学を知らない私にとっては、心理学とどう違うの?という印象だ。
6章あるうち第2章から第4章までは新型コロナに結び付けて議論を展開している。人々の関心が高い問題と結びつけて議論できることは優れた能力だと思う。
第6章では、人文・社会科学の在り方について語っている。第1節は「社会の役に立たない学問なのか?」。当然、社会の役に立つことを前提に、役に立つとはどういうことか、自然科学との違いは何かを論じている。自然科学でも基礎科学はすぐには社会の役に立つことは稀である、また、研究者は必ずしも社会の役に立つことを目指していることはなく、”好奇心”が大きな動機である。それでも、さまざまな例をあげて、将来こんな役に立つと説明してきた。たとえば、ファラデーが発見した電磁誘導は当時は何の役にも立たなかっただろうが、無線通信という現代ではなくてはならない技術につながった。社会にどう役立つかという説明は税金を使って研究している以上、果たすべき説明責任である。
第2節は「反事実的思考力を養う」。実験によって因果関係を明らかにする自然科学と異なり、社会科学では、実験を行いにくい。そのため、実際には存在しない「反事実」と「事実」を比較するという反事実的思考がなされるという。なるほどなんだけど、これは自然科学でも実証する前の思考実験として行っている。思考実験はあくまで仮説をたてる作業であり、「反事実的思考」も仮説をたてるための方法にすぎないのではないか。
第3節は「神社・お寺の近くで育つと」。ソーシャルキャピタルの話で、何か唐突な印象を受けた。小学生のころ近くに神社・寺院・お地蔵さんがあった人は人を信頼し、利他的な傾向が高いらしい。ここまではなるほどと納得した。次に神社・寺院が近くにあったことがスピリチュアルな世界観と結びつくことによって互恵性、信頼、利他性を高めているという議論には承服できない。私はお寺で遊んでいたが、スピリチュアルな世界観は持っていない。互恵性、信頼、利他性は本を読むことや家庭環境から得た。1例報告で意味はないが。最後にソーシャルキャピタルの高さは収入の高さの原因とはならないと書かれているが、当然だろうと思った。