経済原論概説 第6回 日本近代経済史 前編

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 現代の日本企業は投資が活発ではなく、剰余価値部分を内部留保として蓄える傾向が強い。再生産理論によれば、資本循環による資が蓄積され拡大再生産が行われることによって労働者や生産手段の需要が高まり、投資が活発になっていき、さらに資本蓄積が増えれば更なる拡大再生産がなされていくはずである。需要が供給を上回っている場合は好況で拡大再生産が行われるが、需要が供給を下回ると、過剰生産となり過剰生産恐慌が発生する。投資があまり行われないということは需要量も上昇しないので、景気回復も起こりにくくなってしまう。

 だが、やみくもに拡大再生産をすればよいというわけではない。資本主義の特徴として、自由競争が認められていて、利潤(特別剰余価値)をめぐる競争が生じること、資本は自己増殖を目的、命題にしていること、拡大再生産が行われていること、資本の物神性によって利潤第一主義に陥っていることが挙げられる。企業は自己の利益のために生産が行われる。そのため生産の発展は消費から独立して生産部門の不均等的発展が生じる。
 セイ法則(生産物は必ず売れるという法則)は実体経済においては完全には機能せず、過剰・過少な生産や投資が行われているため、好況と不況の繰り返しによる景気循環の発生は不可避的な物となった(もっとも自然人類学的に考えれば、気候変動による食糧生産変化は常に発生していたと言えるが、あくまでもそれは外的要因である。私がここで言いたいのは、人類が剰余価値を蓄積るに至ってもなお経済構造の内的要因によって経済が不安定な状態にあるということである)。景気循環の中で弱小企業が淘汰されていくと、資本の集積が発生し、大企業や独占資本が形成され、市場を支配するようになった。

 18世紀においては小資本が中心であり自由競争政策の下で市場価格が決定していたが、20世紀になると独占資本の支配体制の下、消費者に不利益な独占価格や他資本に対する参入障壁が築かれるなど、独占資本主義段階へと移行した。加えて独占企業の誕生した部門では、技術の向上は起こりにくくなり、生産部門の発展は更に不均等になる。19世紀には、定期的に訪れる過剰生産恐慌を免れるため、資本主義国は市場を求め海外に進出したが、結果として経済的に未成熟な国は植民地と化していった。これは、リカードの比較生産費説に基づく行動と帰結である。これは国際貿易において、各国が比較優位にある、すなわち得意な産業に特化するほうが全体の生産効率が上昇するという理論だが、自国の幼稚産業が発展せず、特化する産業によって植民地化される国が出てくるという批判がある。この理論に従うと、農業国は永久に工業化できないのである。
 日本も開国を迫られると、日清戦争、日露戦争を契機に産業革命起こり、紡績業などでは貿易黒字を挙げ、朝鮮半島の植民地支配を果たしたが、封建的な特色を持つ明治憲法や、小作人の移動の自由が認められていないなど農民分離が不十分であった等の理由から、半封建的資本主義とも呼ばれている。
 戦後資本主義国は国連通貨基金(IMF)を設立し、金とドルの交換を保証することによって、金・ドル本位制と呼ばれる固定為替制度を採用した。さらに、貿易と関税に関する一般協定(GATT)を結ぶことによって、関税の引き下げや貿易制限の禁止などを行った。1995年、世界貿易機関WTOの設立により、WTOがその役割を担うことになった。ドルを基軸通貨として貿易を拡大していくことで、相互に利益を高めようとしたのである。この体制を特にIMF・GATT体制と呼ぶ。日本も1995年からGATTに加盟することで、原燃料を安く輸入できるようになり、これは高度経済成長に寄与したといえるが、その反面ではコメ余りの中でコメのミニマムアクセス(国内への輸入制限の下限)が課せられていることや、食料自給率の低下などの問題が生じている。
 日本国内では、ケインズ政策が採用された。ケインズ政策の主な目的は、完全雇用を達成することで景気を回復させることである。一般的な均衡国民所得とは別に理想的な水準として、失業の無い状態を想定した完全雇用の国民所得を定め、その二つの差であるデフレギャップを解消するという考え方である。またそのためには、実際に購買力を伴った需要である有効需要を創出しなければならないとした。手段としては、減税をすることで可処分所得を増加させ、消費を拡大すること、金利を引き下げることで企業に設備投資を活発に行わせること、公共事業によって雇用を拡大することであり、この三つは乗数効果があると考えられた。また財源は国債発行によるものだが、景気回復による税収の増加によって返済が可能であるという理論であった。
 これに則して日本では積極的財政主義がとられ、赤字財政にこだわらずに福祉の拡充を行なうなど、大きな政府が樹立された。インフレに対する対策としては、フィリップス曲線の理論が適用された。インフレを抑制は不況を招く為失業が発生し、失業を抑制すればインフレが拡大するという理論である。これに則り、インフレを容認する代わりに不況と失業を減らす方針を採用したのである。

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