【世界のラボ】Vol.03【芸術性を纏った生物医学の名門】Salk Institute for Biological Studies
1965年の竣工以来、2022年現在で6人のノーベル賞受賞者を迎えるSalk Institute for Biological Studies。
日本では「ソーク研究所」の名で知られており、日本でも有名なラボの一つである。
今回はそんなソーク研究所について詳しくご紹介しよう。
■概要
同研究所はポリオ・ワクチンの開発者であるジョナス・ソークによって創設され、在籍研究者数1,000名未満と比較的小規模ながら、生物医学分野では世界屈指の研究論文引用数で知られている。
研究棟の設計は、建築家ルイス・I・カーンによるもの。
その美しい造形をひと目見ようとして訪れる建築ファンを含め、毎年4万人以上の人々が世界各国からやってくる世界有数のラボだ。
■建築としての評価・特徴
ソーク研究所には、「空へのファサード」と称されるトラバーチン製の壮大な中庭を挟んで、29の研究棟が配置されている。
研究棟はそれぞれ6階建てで、実験室とユーティリティスペースが交互に設けられた構造だ。
敷地内には小さなオレンジ園や大きなユーカリの木立があり、研究棟の屋上に設置された2,352枚のソーラーパネルがキャンパス内に再生可能エネルギーを供給しているなど、自然と調和したキャンパスだといえるだろう。
壁は、ポゾランコンクリートの打ちっぱなしだ。
ポゾランコンクリートは、古代ローマ人によって考案されたと言われる火山性の軽石とセメントの混合物で、耐水性と温かみのあるピンク色が特徴的な建材である。
研究棟だけでなく、モニュメントが配されている点も、ソーク研究所のユニークな点。
研究所敷地内には、先述した「空へのファサード」に加え、発見の積み重ねが大きな知の世界へと広がっていく様子を表現した「生命の川」と名づけられた水路がある。
年に2回、春分と秋分の日には、太陽がこの「生命の川」に沿って沈む様が見られる。
「ピカソが訪れるにふさわしい施設にすること」という目標を掲げて設計されたこのラボを、サンディエゴのユニオン・トリビューン紙は「サンディエゴで最も重要な建築物」と称しており、まるでラボ全体がひとつのコンセプトをもった芸術作品のようだ。
■イノベーションを生む工夫
ソーク研究所は、絶えず変化する科学のニーズに対応できるよう、広くて開放的な実験スペースを研究者たちに提供している。
研究室の床は、幅約20m、長さ約75mの無柱空間であり、電気系統や配管システム、換気ダクトは、視界を遮らないよう各研究室の床下に格納されている。
また、研究室の窓は普段は固定されているが、着脱式になっているため、リノベーションや機器の更新のタイミングの際に大きな課題となる機器の搬入出が容易になっており、研究テーマやメンバーの変化に合わせて気軽かつ柔軟に研究室を再構成することを可能にしている。
また、外壁がすべて二重構造の大きなガラス窓でできており、開放的で風通しのよい空間になっている。
各研究棟の両側に設けられた光井戸は、日当たりの良さを確保しつつ建築基準法を遵守するための工夫だ。
こうした構造上の工夫は、研究者たちに明るく心地よい環境を提供することで、イノベーションを生むための精神的な豊かさをも与えている。
さらに、開放的な空間は研究者同士の自然な混ざり合いを生み出し、そこで普段から交わされる何気ない雑談やアイデア交換の積み重ねは、世界を変えるようなイノベーションを独りよがりではなく、力を合わせて生み出していこうという文化そのものの構築に大きな影響を与えている。
■ルイ・ヴィトンとのコラボレーション
2022年5月13日、ルイ・ヴィトンのファッションショーがここソーク研究所で開催され、大きな話題を集めた。
「芸術と科学の創造性の源は同じである」という創設者ソークの思いが、この垣根を超えたコラボレーション実現の大きな鍵になったという。
こうした先進的な取り組みは、科学と新たな異分野との交流を活性化し、科学自体の定義・領域を拡大する引き金として、今後の科学の発展にも大きな影響を与えることが期待されている。
■参考文献
・Louis Kahn’s Salk Institute, the building that guesses tomorrow, is aging — very, very gracefully
・SALK INSTITUTE HOSTS LOUIS VUITTON FASHION SHOW
・ feature in Inside Salk magazine titled “A Masterful Design”