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【ラボ環境の科学】Vol.07グリーンとハピネスの関係 オフィスグリーンは従業員の幸福感に寄与する
国内外を問わず、オフィスには植物が飾られていることが多く、バイオフィリックデザインというワードを耳にする機会も少なくないはずだ。
オフィスに飾られる植物はオフィスグリーンと呼ばれ、働く人々に親しまれているが、本当に効果があるのだろうか?という疑問を持ったこともあるかもしれない。
オフィスグリーンの効果については、学術論文が数多く出版されており、職場や居住空間における植物の存在は、身体的・精神的な健康や幸福感と関連していることが示されている(1)。
さらに、人の認知機能についても同様の関連性があるとされ(2)、ストレスと認知機能に関しては、短期的な効果について因果関係があると実験的研究により示されている(1)。
これらの効果を通して、オフィスグリーンは、従業員の幸福感に直接的または間接的に寄与することでストレスの低減に役立っていると考えられており、世界的に注目を浴びている。
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オフィスグリーンが有効である要因に、海外の研究者らはいくつかの実験結果や仮説を発表している。
第一に、オフィスグリーンはオフィス内の相対湿度を増加させる可能性がある(3)。特に冬季には室内の空気が乾燥し、肌が乾燥するだけではなく、体調を崩す恐れもあるが、植物は蒸散によって相対湿度を増加させることができる。
さらに、オフィスグリーンが揮発性有機化合物(VOCs)の濃度を減少させることで室内空気質(IAQ:Indoor Air Quality)を向上させるという説も提唱されている。
また、室内に人が多いとCO2濃度が上昇し、息苦しさや眠気を感じることが知られているが、オフィスグリーンは光合成によってCO2濃度を低下させる能力を有している。
さらに、オフィスグリーンの配置に応じて、オフィスの従業員(自分自身を含む)の視線を遮るのに役立ち、プライバシーの確保によるストレス軽減にも役立つと考えられている。
このように、生理学的な効果から心理学的な効果まで、オフィスグリーンは様々な側面で有用であることが示されている。
一方で、例えば防音などについてはあまり効果がないなど、オフィスグリーンは万能ではないため、それぞれの仕事場に合った使い方が必要である。
このようなオフィスグリーンの効果であるが、身体的・心理的な個人差もあることから、一概にはその効果があるとは言い切れない側面もある。ただし、2023年に発表された最新の研究でも、オフィス環境に植物を導入することが、乾燥した空気とそれに対する苦情の減少、プライバシー感の向上、ワークスペースの魅力と満足度の向上、さらには健康関連の苦情の減少といった効果をもたらすことが示された(3)。
日本国内の職場におけるオフィスグリーンの効果についても、その有用性が示されている。
京都の会社において、コールセンターと一般のオフィスの2種類でオフィスグリーンの効果を検証した(4)。
被験者は、上記の2つのオフィススペースのいずれかで働くオフィス従業員であり、実験では植物の種類を変えながら9つの試験サイクルが実施された。その結果、オフィススペースに植物を設置することで、視覚的な疲労の緩和や眠気の感じ方の改善など、5つの労働関連の疲労感情に対して有効であることがわかった(4)。
また、植物の設置による効果は植物の種類に依存することがわかり、例えば香りのあるミントやバジルによって目の疲労が緩和することもわかっている(4)。さらに、観葉植物を使用した場合には眠気に関連する症状の緩和する効果が見られた。
一方で、コールセンターの生産性の向上は認められなかった。また、男性は女性よりもストレスを感じる傾向があるといった性差も見られたため、実験の条件によりオフィスグリーンの効果が異なる可能性がある。
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上記の通り、多くの研究者によって生きている植物を使ったオフィスグリーンの効果が示されているが、人工植物(フェイクグリーン)や緑色のもの(例えば、緑色の家具や壁紙など)があればよいのではないか?という疑問が生まれる。
別の研究では、フェイクグリーンや緑色のインテリアの代用性についての検証が成されている(5)。その結果、緑色のインテリアはない方が好ましく、オフィスグリーンやフェイクグリーンは、労働環境の改善に効果があることがわかった(5)。このように、オフィスにはインテリアではなく植物を導入することが、従業員にとって生理的かつ心理的により有効であることが明らかになっている。本記事においては主に生きている植物を使ったオフィスグリーンについての研究成果を紹介しているが、前述した通り、フェイクグリーンについても一定の効果がある(5)。フェイクグリーンの効果の詳細については後日配信予定のコラムで紹介予定のため、ぜひご覧いただきたい。
以上の通り、オフィスグリーンの導入は企業で働く従業員にとっても重要であるが、魅力的なオフィス空間を提供することで、企業が優れた人材を獲得し、長期的な成功につながるといった効果も期待できる。オフィスグリーンは費用対効果についての検証が難しく、コスト削減によって廃止されてしまうことがある。しかし、企業の知的生産性向上のための戦略の一部として、今後その重要性がさらに高まると考えられる。
[参考文献]
5)[論文]橋本幸博, 松井 奈保子, 鳥海 吉弘 オフィス空間における室内緑化のストレス緩和に関する研究 評価グリッド法による室内緑化オフィスの評価構造の分析 2017 1:69-75