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アライグマはコヨーテを恐れない?警戒行動と活動パターン調査が示唆
北アメリカ大陸で近年、コヨーテの分布域が拡大しています。かつてオオヤマネコやアメリカアカオオカミが生息していた米国東部にも進出し、生態系の頂点に君臨しつつあります。この変化は獲物となる動物たちの行動にどのような影響を与えているのでしょうか?
米国ノースカロライナ州フォートブラッグ陸軍基地で行われた研究では、アライグマの警戒行動と活動パターンを自動撮影カメラの画像データを用いて分析しました。コヨーテが基地に定着してから20年以上が経過しており、アライグマとコヨーテの間にどのような関係性が築かれているのかに注目が集まりました。
餌場に仕掛けたカメラが捉えたアライグマの行動
研究チームは広大な基地内に100台の自動撮影カメラを設置し、乾燥させたトウモロコシを餌としてアライグマをおびき寄せました。3年間にわたり、5,000枚を超えるアライグマの画像データを取得。画像分析の結果、アライグマは餌場において46%の時間しか警戒行動を取っていなかったことが判明しました。つまり、過半数の時間は警戒よりも採餌に費やしていたことになります。
過去の研究ではコヨーテの存在下ではアライグマの警戒心が47.69%から61.26%に上昇するという報告もあります。しかし、今回の研究では、コヨーテの存在がアライグマの警戒レベルに有意な影響を与えているという結果は得られませんでした。
月齢や仲間の存在が警戒心に影響?
一方で、月齢や仲間の存在などの他の要因がアライグマの警戒行動に影響を与えることも明らかになりました。
満月の夜や日中は警戒心が強くなる傾向が見られました。アライグマは夜行性の動物であるため、明るい環境ではより警戒する必要があると考えられます。
グループの規模が大きくなるにつれて、個々のアライグマの警戒レベルは低下しました。これは、集団で行動することで個々の警戒負担が軽減されるためと考えられています。
他の動物が近くに存在する場合も、警戒心が低下する傾向が見られました。これは、他の動物と警戒を共有したり「多数の目」効果によって個々の警戒負担が軽減されるためと考えられています。
活動時間帯の重複:アライグマはコヨーテを恐れていない?
さらに、自動撮影カメラの画像データからアライグマとコヨーテの活動時間帯を分析した結果、両種ともに夜行性で活動時間帯が大きく重複していることが判明しました。
これは、アライグマがコヨーテを恐れて行動パターンを変えているという証拠は乏しいことを示唆しています。過去の研究でも同様の結果が報告されていて、アライグマはコヨーテに対して空間的または時間的に回避行動を取る必要がないのかもしれません。。
「中位捕食者解放仮説」は当てはまらない?
これらの研究結果は「中位捕食者解放仮説」と矛盾する可能性があります。この仮説は、上位捕食者の減少によって中位捕食者が増加し、その影響が食物連鎖の下位にまで波及するというものです。
しかし、アライグマとコヨーテの関係においてはこの仮説は当てはまらないのかもしれません。
引用元
タイトル:Raccoon Vigilance and Activity Patterns When Sympatric with Coyotes
URL:https://www.mdpi.com/1424-2818/12/9/341#
著者:Chitwood, M. Colter, Marcus A. Lashley, Summer D. Higdon, Christopher S. DePerno, and Christopher E. Moorman.