【人間にフェロモンは存在するのか?[後編]】
ポップ心理学や恋愛工学などでよく「フェロモン」と言う言葉が出てきますが、、、
実際に目にしたり感じたことがあり、それを表現できる人は少いかと思います
前回【フェロモン[前編]】の基礎知識や歴史について触れました
※参考記事
今回はもっとフェロモン情報を深く掘っていこうと思います
まず、
《人間特有の課題で鋤鼻器官と嗅覚》について
多くの哺乳類では、フェロモンを感知するために「鋤鼻器官(じょびきかん)」という特殊な感覚器官があります
この器官は鼻腔内に位置し、フェロモン信号を受け取って脳へ伝達します
しかし、人間の場合、この鋤鼻器官は退化しているか、機能していないと考えられています
※参考文献
一部の研究では、人間にも鋤鼻器官が存在し胎児期には発達しているものの、成人になると機能しなくなる可能性が示唆されています
※参考文献
https://academic.oup.com/chemse/article-abstract/25/4/369/342725?redirectedFrom=fulltext
※参考文献
その代わり、人間は主として嗅覚系(通常の匂い受容体)を通じて化学信号を感知している可能性があり、これがフェロモン様物質への反応として働いているかもしれないと言われています
《フェロモン vs. 化学信号》という問題について
これまでに話してきたように、そもそも人間の場合「フェロモン」という言葉を使うこと自体に慎重な科学者もいます
その理由として…
①行動誘発効果が不明確
他の動物では、フェロモンによって明確な即時的行動の変化(例えば交尾行動など)が見られます
しかし、人間の場合そのような直接的な行動誘発効果は見られません
人間の場合、社会的・文化的要因も大きく影響するため、化学物質だけで行動が決まりません
②個人差と環境要因
人間は人によって遺伝的背景や嗅覚感受性が異なるため、同じ化学物質でも感じ方や反応が異なります
また、文化や経験によっても匂いへの解釈が変わります
③用語としての曖昧さ
「フェロモン」という言葉には、生物学的・進化的な前提があります
しかし人間の場合、それらに完全には当てはまらない可能性があります
そのため「化学信号」や「セミオケミカル」といったより広義な用語で議論されることもあります
難しい話しをしてきましたが、身近な場所で誰もが経験している「フェロモン様」作用があります
それは《母親と赤ちゃん》です
新生児は母親の乳首周辺から分泌される匂い成分によって乳首を探す行動を示します
※参考文献
https://www.researchgate.net/publication/15265671_Does_the_newborn_baby_find_the_nipple_by_smell
※参考文献
これも一種の化学信号として考えられています
他にも、《免疫遺伝子との関連(MHC)》があります
これは、人間は無意識に相手の免疫遺伝子(MHC: Major Histocompatibility Complex)情報を嗅覚で感知し、自分とは異なる遺伝子型を持つ相手に惹かれる傾向のことです
※参考文献
https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rspb.2018.2664
※参考文献
これには進化的な理由(多様な免疫遺伝子を持つ子孫を残す)があると考えられています
余談ですが、《避妊薬を使用している女性は、MHCが類似した男性の体臭を好む》傾向があることが確認されています
これは、避妊薬がホルモンバランスに影響を与え、相手選びに変化をもたらす可能性があるからだそうです
※参考文献
※参考文献
これらを色々踏まえた結果、
「人間にも他者に影響を与える化学物質(汗や皮脂腺由来)は存在します」
しかし、これらが他種生物で見られるような「典型的なフェロモン」と同義であるとは、現段階では断定できていません
科学者たちは「人間には限定的ながらも独自の化学信号システム」が存在すると考えおり、その作用メカニズムや範囲についてはまだ多くが謎のままとも言っています
今後、分子生物学や神経科学など多方面から研究が進むことで、人間特有のコミュニケーション手段として「化学信号」の役割がさらに解明されていく可能性があり、特定物質による脳内反応や行動変化について理解が深まれば、「人間にもフェロモンシステムがある」と証明される日も来るかもしれませんね