Rewind the era 〜オーバーサイズポケットギアと街を歩く〜
それぞれの時代、場所で人は常に音楽と共にあった。
90年代、技術の発展によりそれ以前にも増して各社が様々な音楽プレイヤーを世に送り出し、そのクリエイティビティやファッション性に人々が熱狂した。
時代は変わり音楽ストリーミングサービスやレコードの復権、カセットテープのムーブメントなどアナログとデジタルの境を行き来しながら音楽は我々のライフスタイルに密接している。
スマートフォンさえあれば事足りてしまうのに、わざわざ電池駆動のカセットウォークマンをバッグに放り込み街へ出かけてしまうのは何故なのだろうか。
90年代にPanasonicより送り出された3つのギアを現代に蘇らせる。
個性的なデザインで今もなお人気の衰えを知らないカセットウォークマン。
その中でもひときわ目を引くのがSHOCKWAVEだ。その見た目通りのタフなボディにファットな低音、90年代B-BOY達のアイコンとして語り継がれる名機である。
初代iPodが発売される約5年前の1996年、各社がコンパクトなカセットウォークマンを競って開発する中で生まれたSHOCKWAVEは結果として時代を象徴する存在となった。
海を渡りここ日本でも火のついたHiphop。
国内外のDJ達によって作られたMixtapeがこのカルチャーを育んでいったといっても過言ではないはずだ。
早送り/巻き戻しこそはできても曲のスキップができないのがカセットテープ。
ひとたびMixtapeをウォークマンに入れて再生ボタンを押せばもうそこはDJの世界。
巧みなミックス、スクラッチスキルをヘッドホン越しに体感しては街に溶け込む、そんな90年代の熱量を感じてしまう。
友達とお気に入りのDJのMixtapeを交換し合う、ラジオでオンエアーされた最新のシングルカットをカセットに録音し何度も聴き込む、自分の好きな曲を集め編集したカセットを友達に渡して聞いてもらう、時代が変わり媒体や手法こそ変わったが根本は一緒で、少し手間がかかっていただけである。
そんな音楽の伝達手段の一端を担っていたカセット。
ウォークマンという名前が示す通り持ち運ぶことができるプレイヤーというのは当時革新的であったはずだ。
その中でもSHOCKWAVEはひときわでかいボディに男心くすぐるデザイン、BASSを強調する機能などHiphop Freakとしては見逃せないアイテムとなっていた。
手に持った第一印象はデカイ。
ポケットには入らなそうだな、なんて思いながらもこの頑丈そうなボディは非常に魅力的である。
当時スポーツギアとしての機能面も押し出していたSHOCKWAVEはとにかく音飛びに強い。
ボタン周りも防水仕様になっていたりと抜かりのないタフ仕様。
さらに、B-BOY達を特に引きつけたらのはこの低音だろう。
VMSS (Virtual Motion Sound System)とXBS (Extra Bass System)といった2種類の低音強化のモードを備えており、特にHiphopとの相性が抜群との定評を得ている。
カセットの音質に加え、この機能を楽しむために今だにSHOCKWAVEを手放せないB-BOYも少なくないはず。
CD/MDウォークマンが登場する中で時代に逆行する形で誕生したSHOCKWAVE。
発売から25年近く経った今、中古市場では人気No.1に近い地位を維持し、多くの人が90年代のHiphopを語る上で象徴的なギアとして挙げている。
意図されていたかはともかく、世の中の流れに逆らい再び現代に返り咲く、その姿勢にHiphopメンタリティーを感じてしまう。
このカセットウォークマンの陰に隠れがちなCDウォークマンのSHOCKWAVEも見逃せない。
基本的な機能はカセットを踏襲しており、開閉するフタをロックする「デュアルロック」がタフさを象徴している。
そしてCDにしかないのがEXTRA ANTI-SHOCK機能。自動で記憶したデータ(最大10秒)を呼び戻す事で衝撃による音飛びを防止するというなんとも便利な機能だ。
CDかカセットか、デザインも含めて当時は大いに支持が割れた事だろう。
最近海外でのCD復権のニュースが注目を集めたが盛り上がるのはまだこれから。
ここ日本ではストリーミングによる押し上げの中でもいまだに市民権を得ているメディアだ。
偶然通りかかった古本屋でCDをゲットしてSHOCKWAVEで即再生、そんなクールなことができるのはまだ日本だけなのかもしれない。
RIDDIMVOXは98年にパーソナルPAシステムと銘打って発売された多機能ラジカセ。
重さは約11kgとずっしり、サイズ感も重量級でひときわ存在感を放っている。
それもそのはず、55W出力の再生能力を持つスピーカーを搭載しているため軽すぎるとその能力を十分に発揮できないのだ。
とはいっても電源はAC電源の屋内仕様のため(オプションでカー電源アダプター、バッテリーパックもある)、全力を出せる環境はなかなか無さそう。
しかしそれだけパワフルなウーファーを備えているのはじつに頼もしい。
対応メディアはCD、カセット(ダブルデッキ)にラジオ。
外部入力端子を3つにステレオ外部出力が1つとラジカセとしては一切の不足なし。
今まで聞いていた音楽もRIDDIMVOXで再生するとまた違って聞こえそう。
それだけでワクワクする。
どれだけ時代が変わっても、やはりでかくて無骨なブーンボックスは格好いい。
これから先これだけの無駄とも思えるようなサイズ感のラジカセが新しく世に出てくることは恐らくないだろう。
そういった意味でも時代を象徴する唯一無二のラジカセだ。
Photography : MIYA
subject(for photography) : tajima hal & madrob_beats
https://www.instagram.com/sci_fi_sound_/