見出し画像

2024年台風第10号

2024年8月は6個の台風が発生しました。今年の科研費補助金の研究課題を遂行する上での問題認識は当初「夏季季節内変動と海洋表層貯熱量」に置いていました。また北東モンスーンと南シナ海の台風に関する研究も業務ラインで要望されていたので、春の気象学会は南シナ海の台風の発表をしました。南シナ海の台風活動を理解する上では東インド洋の海洋も把握しておく必要があるので、昨年から全球海洋貯熱量データベース作成準備をしていたのですが、この課題に投入するつもりでした。全球海洋貯熱量データベースに関しては秋の気象学会で発表しました。時間があれば論文にして、データセットを公開することで、科研費の成果とするつもりでした。

2024年のはじまりは、上記活動の他にAIや大気海洋結合関係の調査もしていました。大気海洋結合関係の延長で、Wave gliderによる観測の連携を模索するようにもなりました。台風を職務としながらも、将来に向けた種まきを今年は行うつもりでした。もちろん次の科研費の応募準備の側面もあります。

一方で2024年の台風活動は第1号のピンホール眼、第3号の急速な発達と台風上陸前の不規則な動き、第5号の東日本の上陸と科学的・社会的に見てもなにかしらアプローチしないといけない事例が見られました。台風第7号は房総半島上陸シナリオを考えなければならず、夏休み期間であったものの、気象衛星ひまわりの2.5分毎の画像を眺め続けることになってしまいました。

前置きは長くなってしまったのですが、夏休みを取得する前に台風第10号に関しては発生及び日本上陸の可能性を把握していました。そのため部下に数値シミュレーションの準備をしておくように、と指示を出していました。

台風第10号の概要に関しては、

にて発表させていただきました。

・熱帯低圧部における立て続けの台風発生
・北上時の発達抑制(今年の台風第3号も北上時はあまり発達していなかったので、それと似ているという印象を持っていました)
・台風の進路変更(北から西北西)
・台風強度の急速な発達と移動の減速、停滞
・台風停滞時のゆっくりとした北上と強度変化
・台風上陸前後の台風強度弱化
・台風上陸後、熱帯低気圧に遷移するまでの東進

といった疑問に加えて、
・黒潮の影響
・世界の数値予測がこの台風の進路や強度を予測できなかった理由

ということもあり、8月から今(大晦日)に至るまで、非常に多忙となり、結局最初に挙げた課題は持ち越しとなってしまいました。


図 2024年8月27日18UTCの海面水温と海面付近の流れ(0.5m/s以上)。台風の位置および中心気圧(円内の色)は気象庁のHPで発表しているRSMC東京のベストトラックデータに基づく。

上記研究発表会ではお話していない、科研費に関わる話題をここで紹介します。上の図に見られるように海面水温は東と西で、特に北緯25度以北で対照的であることがわかると思います。東経140度より東、北緯25度より北は、台風第10号以前の台風活動により形成されたものです。これとは別に台風の経路に沿って海面水温が低い海域が見られます。一方で東経130度より西側は海面水温が高く、これはこの海域では黒潮が流れているためです。

研究発表会における発表資料作成に関しても科研費の支援により作成したものがあります。台風第10号に関しても、研究発表会にて終了するのではなく、今後も上記疑問点を基に、科研費の範囲で研究を続けていければと考えていました。来年1月から所属する研究機関の計算機環境が変わるので、もうこれまでのように研究はできないということと、さすがに年齢には勝てないというのが理由です。家の事情もありますし。

ところが周囲の状況は11月下旬以降劇的に変化して、台風海洋相互作用研究を支援する流れになっているようです。問題なのは研究者が多くないということなのかもしれません。短い期間から1週間程度(季節予報の時間スケールはさずがにむずかしそう)の台風予測の向上が線状降水帯などの大雨の予測精度向上にどのように貢献するのかわかりませんが、2023年台風第2号や今回の2024年台風第10号の事例を参考に、研究として何を実施する必要があるのか、この正月休み期間に考えているところです。

台風第10号に関する科研費の成果については、結果が公表され次第ノートにまとめていく予定です。




いいなと思ったら応援しよう!