Get 'Em from the Peanut Man (Hot Nuts)
「ゲット・エム・フロム・ザ・ピーナッツ・マン Get 'Em from the Peanut Man (Hot Nuts)」は1935年にリル・ジョンソン Lil Johnsonが作詞作曲したブルース・ナンバー。端的に「ホット・ナッツ Hot Nuts」と表記されることも多い。ブルースやジャズのバンドでしばしば録音/演奏される。
よく聴くと卑猥な曲
リル・ジョンソンにかんしてはかつて述べたように詳細はわかっていない。が、リル・ジョンソンはホーカム Hokumやダーティ・ブルース Dirty Bluesの曲を多く世に出した伝説的なシンガーである。
ここでいうホーカムとは、ブルースのタイプで、とくに性的な内容や危険な対象を比喩や婉曲的な表現を使ってユーモラスに描いたものを指す。もともとは19世紀からヴォードヴィルやミンストレル・ショー、メディシン・ショーで観客を笑わせるために歌われていたもの。
「ホット・ナッツ」の解釈可能性は3つに分かれる。一つ目。普通に読めば「ピーナッツを売ること」を謳っているように聞こえる。が、繰り返し使われる「ナッツ nuts」という表現と使用される文脈によって新たな意味が見出される。たとえば「みんなお前のナッツは最高って言うけど、私のナッツよりもかたくないThey tell me your nuts is mighty fine / But I bet your nuts isn't hard as mine」や「ナッツがないより、小さいナッツがあるのが一番いいBest to have small nuts than no nuts at all」という箇所はあきらかに性器を仄めかしていると言ってよいだろう。これが二つ目。三つ目は、「nut ナット」という表現には「射精」という意味があり、「ナッツ売りだ!ホットなナッツだ。誰かナッツを買わないか?Selling nuts! Hot nuts! Anybody here wanna buy my nuts?」という表現は自分が男娼として女性に売り込んでいるようにも聞こえるし、娼婦が客に対して客引きをしているようにも聞こえる。そうした意味でこの曲は多層的な意味が担われた際どい曲であると言える。
録音
Lil Johnson (Chicago, July 16, 1935)
Lil Johnson (Vocal); Frank James or Dot Rice (Piano)
この曲にとっての記念すべき初録音。最初とブレイクのピーーという音がなんの楽器かわからないが、とっても力強いブルース。歌声もピアノも雄弁でバレルハウス的。
Lil Johnson (Chicago, March 4, 1936)
Lil Johnson (Vocal); Black Bob (Piano); Unkown (Bass)
2回目の録音。こちらの録音の方が洗礼されているんだけど、リル・ジョンソンのレイドバックしまくりの歌が非常にかっこいい。
Lil Johnson (Chicago, March 4, 1936)
Lil Johnson (Vocal); Black Bob (Piano); Unkown (Bass)
3回目の録音。2回目と同日の録音だけどピアノのアプローチを変えており、より明るい印象を与えている。好みは1回目だけどこれが一番聴きやすい。
Viper Mad Trio (New Orleans, 2013)
Molly Reeves (vocals, guitar); Kellen Garcia (bass); Ryan Robertson (trumpet)
モーリー・リーヴスの歌が冴え渡っているヴァイパー・マッドの録音。もともとシンプルな編成だからかこの編成にも非常に合う。抜群に素晴らしい!
Pepper and the Jellies (Teramo, Italy, 2016)
Ilenia Appicciafuoc (Vocal, Kazoo, Washboard); Marco Galiffa (guitar); Emiliano Macrini (double bass); Andrea Galiffa (snare and woodblocks)
イタリアのジャイヴ・バンドのペッパーアンドジェリーズの録音。ブレイクのあとにスウィングになる。このアレンジもとてもかっこいい!
Nina's Rusty Horns (Düsseldorf, Germany, May 2019)
Nina Lentföhr (Vocals); Thimo Niesterok (Cornet); Christian Saettele (Clarinet); Clemens Gottwald (Trombone); Peter Kowal (Banjo); Martin Henger (Guitar); Andi Jansen (Sousaphone); Johannes Pfingsten (Drums & washboard)
ドイツのトラッドジャズ・バンドのニーナズ・ラスティ・ホーンの録音。Tuba Skinnyを意識した編成。とても気持ちのよいスウィングとなっている。ソルト・ピーナッツが最後に挿入されるところもオシャレ。
参考文献
https://www.lyricslayers.com/lil-johnson/642020/