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Between the Devil and the Deep Blue Sea

「デビル・アンド・ザ・ディープ・ブルー・シー Between the Devil and the Deep Blue Sea」は1931年にハロルド・アーレン( Harold Arlen)が作曲し、とテッド・ケーラー(Ted Koehler)が作詞したジャズ・ナンバー。大ジャズ・スタンダードの一つ。

日常表現を歌詞に

この曲の作詞者のテッド・ケーラーは、ウィットに富んだフレーズやロマンティクなフレーズよりも、日常で聴かれるフレーズをそのまま歌詞に使用することを得意としている。「悪魔と深く青い海の間で between the devil and the deep blue sea」とは、英語の慣用表現で「苦境に立たせれている状況」を指す表現で、しばしば「絶体絶命」と訳される。要するに「どっちに転んでも嫌だ」という意味。まさに日常において聞かれる表現である。

さて、ケーラーとアーレンの仕事のペースは相反するものだったようで、それが原因でしばしば衝突することがあった。

ケーラーはアーレンが曲を作っているあいだソファに寝そべって聴いていることがあり、それに対しアーレンは「仕事中に寝ているのか」と怒ることがあった。メロディーが完成すると、アーレンはケーラーのために何度も何度もそれを演奏し、ケーラーはアーレンの音符に合うような日常会話のフレーズを探した。

(Furia & Lasser 2006, p. 102)

こうしてできあがったのがこの「デビル・アンド・ザ・ディープ・ブルー・シー」。歌詞は恋愛にかんするもので、冒頭から「いっしょにいたくない。でも離れられない。どっちに転んでも嫌だ。君がそうさせるんだ。」と始まる。そのあとまさに「恋愛においてどっちに転んでも嫌な状況」が描かれる。コケットの歌詞を連想させるような小悪魔に向けて歌われている。

録音

Teddy Wilson (NYC November 12 1937)
Teddy WIlson (Piano)
テディ・ウィルソンのソロ・ピアノ。録音の状態もあるのかもしれないが、この頃のテディ・ウィルソンのピアノは演奏だけじゃなくて音も美しい。ストライドがかっこいい、ダンサンブルなスイング。

Willie “the Lion” Smith (NYC January 10 1939)
Willie “the Lion” Smith (Piano)
ウィリー・ザ・ライオン・スミスのソロ・ピアノ。タイム感どうなってるんだって感じのすさまじいスイング。

Ralph Sutton And The All Stars (San Francisco August 7 1954)
Ralph Sutton (Piano); Edmond Hall (Clarinet); Clyde Hurley (Trumpet); Walter Page (Bass); Charlie Lodice (Drums)
50年代になり中堅として活動していた時期のラルフ・サットンのライブの録音。まさにオールスターで、全員がすさまじいスイングを展開している。サットンのソロはファッツ・ウォーラーを彷彿とさせている。

Blossom Dearie (New York December 12 & 13, 1957)
Blossom Dearie (Piano, Vocal, Arrangement); Ray Brown (Bass); Jo Jones (Drums); Herb Ellis (Guitar)
ブロッサム・ディアリーのコケティッシュっぷりが素敵な録音。ディアリーの気持ちを表現しているようにも、聴いている人の気持ちを代弁しているようにも両方に取れる。レイ・ブラウンがAメロとBメロでのテンポの捉え方を変えているところが好き。

Joe Turner Trio (Paris 3 August 1971)
Joe Turner (Piano); Slam Stewart (Bass); Jo Jones (Drums)
フランスのブラック・アンド・ブルーにて録音されたジョー・ターナー、ジョー・ジョーンズ、スラム・スチュワートの録音。スラム・スチュワートのアルコが素晴らしい。

Marty Grosz & His Hot Puppies (NYC November 19, 2001)
Marty Grosz (Guitar, Vocals); Randy Reinhart (Trumpet); Frank Roberscheuten (Tenor Saxophone); Nico Gastreich (Bass); Moritz Gastreich (Drums);
御大マーティ・グロスの演奏。ここでも太くてダンサンブルなギターがバンド全体を支えている。曲中でAll the Meats and No Potatoesが引用されるんだけどそこもかっこいい!

Bridgetown Sextet (Portland May 26 2011)
Scott Kennedy (Piano); Andrew Oliver (Cornet, Piano); David Evans (Tenor Saxophone); John Moak (Trombone); Doug Sammons (Guitar); Eric Gruber (Bass)
ポートランドで活動しているスイング/ジャイヴ・バンドの録音。アンドリュー・オリヴァーはここではコルネットを吹いている。全体的にシカゴ・スタイルに志向していて、アレンジもソロもどちらもかっこいい!

The Careless Lovers (Seattle, Washington 2012)
Freddie Dickinson (trombone); Michael Faltasek (guitar, vocals); Brett Nakashima (bass); Kevin Buster (soprano sax); Michael Van Bebber (trumpet); Craig Flory (tenor sax)
タイトなリズムが特徴のケアレス・ラヴァーズ。この録音でもダンスに志向している。素敵。

Fats & Fats (東京 2018)
Atsushi Little Fats (Vocal); Hajime “Big Fats” Kobayashi (Piano)
大好きなF&Fの録音。小林さんのソロの前のアツシさんのシャウト気味の声がかっこいい。

参考文献

Furia, Phillip & Lasser, Michael. (2006). America’s songs: The stories behind the songs of Broadway, Hollywood, and Tin Pan Alley. London: Taylor and Francis.

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