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Ménilmontant

「メニルモンタン Ménilmontant」はシャルル・トレネが1938年に作詞作曲したシャンソン。ジャズではとくにフレンチ・ジャズやマヌーシュ・ジャズで演奏され、またミュゼットでも演奏されるスタンダード。最後のtの音は発音されないため、英語でも「メニルモンタン」と発音される。

パリの下町

当時25歳だったトレネが、パリで流行っていたミュゼットや、アメリカのスイング・ジャズから影響を受けて書いた曲で、パリ20区にあるメニルモンタン地区という庶民的でかつ労働者階級が住む街を思い返しながら書いたようなノスタルジックな歌詞になっている。たとえば、「結婚式が陽気に行われたメニルモンタン教会」、「灰色の古い家々」、「街の活気」、「みんながご飯を食べるビストロ」、「新聞を読んでいる門番」、「緑色に変色した鉄の柵の扉」、「行き交う電車」などかなり詳細に街の風景を描いている。こうした細かい描写はおそらく当時でもいまでも故郷や昔を想う人にとって胸を打つと思う。日本に生まれた私でさえ、こうした描写を読むとノスタルジーを憶える。

こうしたノスタジックな歌詞によって、当時大人気の歌手だったトレネは、南フランスのナルボンヌからパリに移り住んだ下積み時代を懐古している、と言えるだろう。実際に、モーリス・シュヴァリエやエディット・ピアフ(Edith Piaf)は、メニルモンタン地区のカフェで歌って下積み時代を過ごしたという話からインスピレーションを得た。また、この曲は、トレネが、メニルモンタンにて生まれたモーリス・シュヴァリエ(Maurice Chevalier)に送った、とされている。

録音

Charles Trenet accompagné par Wal-Berg et son orchestre (Paris April 6, 1939)
ちょっとメンバーがわからなかったんだけど、シャルル・トレネ自身の録音。ちょっとスモーキーなミックスもよい。この録音ではミュゼットをもとに、さまざまなな管楽器を的確に配置していて、ボーカルを邪魔しないアレンジになっている。楽器がボーカルの音域を邪魔していないので直線的にボーカルが耳に届く。こうしたアレンジも素晴らしい。

Django Reinhardt and Stéphane Grappelli (Rome January-Febrary 1949)
Django Reinhardt (Guitar); Stéphane Grappelli (Violin); Gianni Safred (Piano); Marco Pecori (Bass); Aurelio de Carolis (Drums);
ジャンゴがとグラッペリ名義のいわゆるローマ・セッションの録音。ビートに対して余裕を持ったグラッペリの歌心のあるバイオリンを聴くことができる。

Pierre Blanchard & Dorado Schmitt (Paris, March-April, 2004)
Pierre Blanchard (Violin); Dorado Schmitt (Guitar); Samson Schmitt (Guitar); Diego Imbert (Double Bass);
ピエール・ブランシャールとドラド・シュミットの録音。ひたすら美しい。

Tchavolo Schmitt (Pernes-les-Fontaines, 17-20 January, 2005)
Tchavolo Schmitt (Guitar); Costel Nitescu (Violin); Martin Limberger (Rhythm Guitar); Mayo Hubert (Rhythm Guitar); Claudius Dupont (Double Bass)
聞いた話なんだけどチョボロは来日時にギターを持ってこなかったらしい。それに気がついたスタッフは、チャボロを連れて急いでお茶の水まで行って、壁にかかっているマカフェリ・ギターをすべて弾いて「これだ!」って言ったのは一番高いギターだったらしい。結局スタッフに買わせた…。実は、ジャンゴ・ラインハルトにも同じエピソードがある。ジャンゴがアメリカにはじめてツアーに行った時、やはりギターを持ってきyrおらず、アメリカでギターを買ってツアーを回った。もしかしたら、チャボロはこのことを真似したのかもしれない。まったく異国のアジアの国でジャンゴと同じことをするチャボロ…。すごい。ちなみにこのときのオープニング・アクトは我らがリトル・ファッツだった。

Les Pommes de ma douche (Paris, 2008)
Dominique Rouquier (Guitar); Laurent Zeller (Violin); David Rivière (Accordion); Pierre Delaveau (Guitar); Laurent Delaveau (Bass)l;
来日経験もあるレ・ポム・ドゥ・マ・ドゥーシュ。アコーディオンのソロではマイナースイングを引用している。とってもかっこいい!

Aurore Quartet (NOT GIVEN, 2010)
Aurore Voilqué (Violin); Patricia Lebeugle (Doublebass); Thomas Ohresser (Guitar); Siegfried Mandacé (Guitar)
この録音もすごく好き。活気がある街って感じ。ギターソロをふんだんに聴ける。バイオリンの音も太くて好き。

Fleur De Paris (London, January 17, 2010)
Lo Polidoro (Vocals); Kirsten Hammond (Violin); Nigel Broderick (Accordion); Martin Brown (Guitar); Simon C Russell (Double Bass);
ライブでの模様。このライブが行われたLa QuecumBarはもうない。ロンドンのマヌーシュ・ジャズのシーンを盛り上げたレストラン。この録音、とんでもなく素晴らしい。テンポがゆっくりで、まさにメニルモンタンの街を回想するような演奏。録音は静かに熱く盛り上がってダイナミックさが刺さる。

Avalon Jazz Band (Brooklyn, Released in 2016)
Tatiana Eva-Marie (Vocals); Adrien Chevalier (violin); Olli Soikkel (Guitar); Vinny Raniolo (Guitar); Brandi Disterheft (Bass)
いまおそらくトラッド・ジャズあるいはマヌーシュ・ジャズでもっとも売れているのではないかってくらい素晴らしいミュージシャンのタチアナ・エヴァ=マリーが率いるAvalon Jazz Bandの録音。ミュージシャンも凄腕が集まっている。素晴らしい!アレンジも好き。それとAvalon Jazz名義でもう一回録音していて、それにはクラリネットも入っていてとてもかっこいい。

The Tangiers Combo (New Orleans December 2016)
Carl Keith (Guitar); Eric Rodriguez (Violin); Jason Danti (Clarinet); Nathan Lambertson (Bass)
ニューオーリンズで活躍しているタンジアーズ・コンボの録音。クラリネットとバイオリンがリードを取っている。

Duo Gadjo And Their Hot Friends (Los Angeles[?] 2019)
Isabelle Fontaine (Vocal, Guitar); Jeff Magidson (Guitar, Vocal); Evan Price (Violin); Sam Rocha (Bass); Paul Mehling (Guitar)
アメリカ西海岸のオールスター的な録音。HCSFのメンバーがサポートしている。ベースが太くて好き。それとエヴァン・プライスのバイオリン素敵。

Canarro (Budapest 2022)
Szakál Tamás (Violin, Vocals); Jakab Viktor (Guitar); Soós Márton (Double Bass); Sidoo Attila (Guitar); Marosi Zoltán (Accordion); Izabella Caussanel és Orbay Lilla (Vocals)
ハンガリーのマヌーシュ・ジャズ・バンド。ゲストにイザベラ・カウサネルを迎えたツイン・ボーカル。

San Lyon (Los Angeles, 2022)
Paige Herschell  (Vocals); Katie Cavera (Bass); Jenna Colombet (Violin); Dani Vargas (Guitar)
西海岸のマヌーシュジャズ・バンドのサン・リヨン。どのパートも素敵。たまに飛び出す超絶ギターもかっこいい。それとバイオリンの音が非常に好み。

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