Chlo-e (Song of the Swamp)
「クロエ Chlo-e (Song of the Swamp)」は1927年にチャールズ・ダニエルズ Charles N. Danielsによって作曲され、ガス・カーン Gus Kahnによって作詞されたポピュラーソング。ダニエルズはニール・モレーNeil Morétの変名でクレジットされている。
語り口調の悲劇的な曲
ちょっと暗い曲調で実際にスコアにも「悲劇的にIn a tragic way」と書かれているが、さまざまな解釈がありえ、必ずしもすべての録音が暗くなされているわけではない。
ヴァースは全知の語り手omniscient narrator によって歌われ、コーラスにて歌われる内容を示唆している。*1 とくにここではコーラスの主人公である「かれ/かの女」が沼地でクロエを探すところが描写される。コーラスにおいては視点が一人称へと変わる。「夜の闇を抜けて君がいるところへ行かなくちゃ!」「それが間違っていても、正しくても関係ないんだ!君がいるところへ行かなくちゃ!」と歌われる。
たしか以前読んだ本にこの歌詞に似たアメリカの伝承が載っていたのだけれど、なんの本だったか、どんな話だったのか忘れてしまった。いずれにせよヴァースに見られる全知の語り手を妖精と捉え、「かれ/かの女」が探す相手に引き合わせるというものだった。よくあるモチーフなので別のものと勘違いしている可能性がある。オチが違うんだけど「ドラクエ4」のリメイク版のエンディングが似ている(「ドラクエ4 エンディング DS」とかでYouTubeで調べれば出てくると思う)。
*1
全知の語り手とは、三人称の視点で物語全体を俯瞰して語る存在。ジャズの歌詞においては圧倒的に一人称視点が多い中ではわりと稀有な手法。
録音
Henry Red Allen and His Orchestra (NYC June 19, 1936)
Henry Allen (Trumpet, Vocals); Joe Garland (Tenor Saxophone ); Alto Saxophone (Tab Smith); J.C. Higginbotham (Trombone); Lawrence Lucie (Guitar); Edgar Hayes (Piano); Elmer James (Double Bass); O'Neil Spencer (Drums);
大正義ヘンリー・レッド・アレンの録音。オニール・スペンサーが参加している素敵な録音。ほんとかっこいいな!スピリチュアルな感じは薄い。
Art Tatum (New York, November 29, 1937)
Art Tatum (Piano)
アート・テイタムのソロ・ピアノ。独自のタイム感で攻め立ててくる。
John Kirby and His Orchestra (NYC, May 27, 1940)
Charlie Shavers (Trumpet); Buster Bailey (Clarinet); Russell Procope (Alto Saxophone); Billy Kyle (Piano); John Kirby (Bass); O'Neil Spencer (Drums);
ジョン・カービーの録音。のちのルイ・アームストロングのバンドに参加する面々が参加している。いやージョン・カービーまじでいい!この録音大好き!
Ry Cooder (Honolulu 1976)
Ry Cooder (Mandolin, Guitar [Hawaiian]); Gabby Pahinui (Steel Guitar); Atta Isaacs (Acoustic Guitar); Red Callender (Double Bass); Milt Holland (Drums);
ライ・クーダーのハワイ録音。かなり明るく聴こえるのはおそらくスティール・ギターとマンドリンによると思う。レッド・カレンダーのベースがかっこいい!これもよきよき。
Classic Jazz Quartet (NYC July 15 to 18, 1985)
Marty Grosz (Guitar); Joe Muranyi (Clarinet, Soprano Saxophone); Dick Sudhalter (Cornet); Dick Wellstood (Piano)
マーティ・グロスをはじめシカゴ・スタイルの巨匠が集まった録音。こういったドラムレスの録音だとジャンゴ・スタイルになりがちなんだけど、ここではあくまでベースレスのスウィング・コンボとして展開している。途中のブレイクとその後のピアノソロか本当にかっこいい!
Evan Christopher (New Orleans May 12–13, 1999)
Evan Christopher (Clarinet); Koen De Cauter (Guitar); David Paquette (Piano); Mark Brooks (Bass); Trevor Richards (Drums)
エヴァン・クリトファーの録音。ヴァースからはじまる。ジャンゴ・スタイルを自分の解釈で組み立て直している。素敵!
Tuba Skinny (New Orleans, April 2015)
Erika Lewis (Bass Drum); Barnabus Jones (Trombone); Shaye Cohn (Cornet); Craig Flory (Clarinet and Tenor Saxophone); Jonathan Doyle (Clarinet and Alto Saxophone); Tomas Majcherski (Tenor Saxophone and Clarinet); Max Bien Kahn (Resonator Guitar and 6 String Banjo); Jason Lawrence (6 String Banjo and Resonator Guitar); Todd Burdick (Tuba); Robin Rapuzzi (Washboard)
ニューオーリンズの雄、チューバ・スキニーの録音。ニューオーリンズ・ジャズとして展開している。アルバムの中でもとても好きな録音。
Three Blind Mice (Paris 2019)
Felix Hunot (Guitar); Malo Mazurié (Trumpet); Sebastien Girardot (Bass)
パリで活躍するスィング・トリオの録音。スピリチュアルの様相を保ちつつ、ベースのアルコによってクラシカルな雰囲気を兼ね備えている。この曲のこうした雰囲気は最近では珍しいかもしれない。