Do What Ory Say
「ドゥー・ワット・オーリー・セイDo What Ory Say」はキッド・オリー Kid Oryが作曲した作曲年不詳のジャズ・ナンバー。キング・オリヴァー King Oliverもメロディの作成に携わっている。ジャズ・スタンダードとまで有名ではないがとてもよい曲。
負かせた相手に送る言葉
アレックス・ベルハージ Alex Belhajiのアルバムのライナーノーツにおもしろいエピソードがあった。これをもとに補足を交えつつエピソードを概観していきたい。
この曲はニューオーリンズのミュージシャンたちのセッションのために作られたとされている。1920年代30年代のニューオーリンズではしばしば「カッティング・コンテスト」が開催されていた。いわゆるジャム・セッションなんだけどより競争的なものだった。そうしたセッションでキッド・オリーが相手を打ち負かしたあとに演奏されたのがこの曲。これにかんしてルイ・アームストロングも自伝で「もしかしたら、オリーは曲名を教えてくれるかもしれない。あえてここには書かない。敵の敗北を祝うためのキュートな曲だった。私は絶叫するほど面白いと思ったし、きっとあなたもそう思うだろう」 (Armstrong, 1954, p. 98)。
そうしてニューオーリンズで密かに演奏されていた曲だが、十数年後ズッティー・シングルトンがニューヨークでレコーディングをしていた。セッションのオーガナイザーがタイトルを聞いたところ、シングルトンは「ああ、あの古い曲か?あれはオリーの曲で「俺の汚えケツにキスしろ Kiss my F***in A」って呼ばれていた曲だよ」と答えた。まさにそのとき録音されたのがこの「ドゥー・ワット・オーリー・セイ」というわけである。
実際にアーニー・ランデス Ernie Landes (2023)によれば歌詞のなかの「ゼン・ニーノ・ビーノ・ハ Then eeno beeno ha」という箇所をオリー本人に質問したところ、オリーは、クレオール語で「オリーの尻にキスしな Kiss old Ory’s a**」という意味だと答えた。
録音
Kid Ory's Creole Jazz Band (Los Angeles, California, 5 August 1945)
Kid Ory (Trombone, Vocal); Mutt Carey (Cornet, Trumpet); Omer Simeon (Clarinet); Buster Wilson (Piano); Bud Scott (Guitar); Ed Garland (Bass); Minor Hall (Drums)
この曲の初録音。パワフルな録音なんだけどミックスによってはスカスカの場合がある。後半のオリーがとにかくかっこいい!
Kid Ory And His Creole Jazz Band (San Francisco October 2, 1947)
Kid Ory (Trombone); Mutt Carey (Trumpet); Joe Darensbourg (Clarinet); Buster Wilson (Piano); Bud Scott (Guitar); Ed Garland (Bass); Minor Hall (Drums);
ライブ実況録音。四つ打ちが煽りまくっている。音は悪いんだけどオリーの実況録音では一番かっこいいかもしれない。
Kid Ory and His Creole Jazz Band (Hollywood, LA., circa 1949)
Kid Ory (Trombone); Andrew Blakeney (Trumpet); Joe Darensbourg (Clarinet); Buster Wilson (Piano); Ed Garland (Bass); Minor Hall (Drums);
ライブの実況録音。ほとんどメンバーも変わらないんだけどこれもパワフル。とくにクラリネットが冴えまくっている。
Tommy Sancton's Crescent City Serenaders (New Orleans, July 21, 1995)
Tommy Sancton (Clarinet); Charlie Fardella (Trumpet); Mike Owen (Trombone); Jeff Hamilton (Piano); Bernie Attridge (Bass); Chris Tyle (Drums)
ニューオーリンズで活動しているトミー・サクトンの録音。なんとタイム誌の元記者でオックスフォードで歴史学で博士号を取得。学者としても作家としてももちろん演奏者としても優秀な人。カウンターメロディを吹くサンクトンはもちろんオーウェンのトロンボーンが素晴らしい!
Hal Smith's Creole Sunshine Orchestra (New Orleans, September 13, 1995)
Duke Heitger (Trumpet); Mike Owen (Trombone, Vocal); Qrange Kellin (Clarinet); Steve Pistrious (Piano, Vocal); Amy Sharpe (Guitar, Banjo, Vocal); Tom Saunders (Bass, Tuba); Hal Smith (Drums)
スーパードラマーのハル・スミスの録音。いやースネアが気持ちいい!超強力で非常に好き。この録音ではオーウェンが歌っていてここで聴けるトロンボーンは一級品!
Wendell Eugene And His Mardi Gras Band With Brian Carrick (Algiers, November 3, 2006)
Wendell Eugene (Trombone); Jamie Wight (Trumpet); Brian Carrick (Clarinet); Andrew Hall (Piano); Louis Lince (Banjo); Gerald Adams (Bass); Ernest Elly (Drums);
ウェンデル・ユージーンの録音。ニューオーリンズの大御所たちの録音。アーネスト・エリーのドラムががとんでもなくかっこいい。
The Classic Jazz Trio (New Orleans, 2010)
John Rankin (Guitars and Vocals); Tommy Sancton (Clarinet); Tom Fischer (Clarinet)
レフティのソロ・ギタリストのジョン・ランキンが結成したトリオ。トミー・サンクトンとトム・フィッシャーのダブル・クラリネット。シンプルな構成なんだけどわりと珍しい編成。
Alex Belhaj's Crescent City Quintet (Toledo, Ohio May 20, 2015)
Ray Heitger (clarinet); Dave Kosmyna (cornet); Jordan Schug (string bass); Pete Siers (drums); Alex Belhaj (guitar)
ニューオーリンズでも活動したアレックス・ベルハージの録音。現在はミシガンで活動中。これはオハイオでの録音でニューオーリンズ・スタイルでの録音。マーティ・グロスを意識したような演奏。かっこいい!
参考文献
Armstrong, Louis. (1954). Satchmo: My life in New Orleans. NY: Prentice-Hall.
Landes, Ernie. (2023. January 30). The Word From Ory. The Syncopated Times. https://syncopatedtimes.com/the-word-from-ory/