Farewell to Storyville
「フェアウェル・トゥ・ストーリーヴィル Farewell to Storyville」は1925年にスペンサー・ウィリアムズ Spencer Williamsとクラレンス・ウォリアムズClarence Williams によって発表されたジャズ・ナンバー。「グッド・タイム・フラット・ブルース Good Time Flat Blues」としても知られている。
そこまで多く録音されているわけではないが、Firehouseにも載っているジャズ・スタンダード。1925年にマギー・ジョーンズ Maggie Jones が「グッド・タイム・フラット・ブルース」として録音してから埋もれてしまったが、40年代のディキシーランド・リヴァイヴァルで演奏されるようになる。
かつてのストーリーヴィルを歌った曲
この曲ではニューオーリンズの赤線地帯、つまり売春宿がある歓楽街であったストーリーヴィルが歌われている。ストーリーヴィルのような歓楽街は新しい文化が出来上がるような中心街で、実際にルイ・アームストロングやジェリー・ロール・モートンはその場所でしのぎを削っていた。が、このストーリーヴィルは、1917年に閉鎖されてしまった。この曲は、そうしたニューオーリンズにおける文化の中心地が失われたことを嘆くような内容で、とくにそういった場で働いていた「女王たち」に向けて歌われている。
「ニューオリンズに生まれストーリーヴィルに住んでいた昔の女王たちよ。ブルースを歌い、ひとを楽しませようとする。法律が踏み込んできて、ちょっとした楽しみを人は罪と呼ぶんだ。パトカーが停車し、ストーリーヴィルは終わってしまったんだ」と歌われる。
面白いのはBメロの「クローズアップclose upされた君はもう戻れない」という箇所。このclose upは「詳細な調査」や「近影」という意味がある。まさに捕まったあとに取り調べをされ、写真を取られること、こうしたことを指しているように聞こえる。つまり、それまで問われなかった罪が1917年以降、「罪と呼ばれる」ようになったこと、このことを際立たせている。それと同時にclose upには「閉鎖」とかそういった意味もあるため、よりストーリーヴィルの喪失を強調しているように聴こえる。
録音
Kid Ory and his Creole Jazz Band (Los Angeles, October 15, 1946)
Mutt Carey (Trumpet); Kid Ory (Trombone); Barney Bigard (Clarinet); Buster Wilson (Piano); Bud Scott (Guitar); Ed Garland (Bass); Minor Hall (Drums); Helen Andrews (Vocal)
まさにリヴァイヴァル期の録音。ヘレン・アンドリューズのヴォーカルが非常に雄弁。キッド・オリーの情緒たっぷりのトロンボーンとブルージーなリズムがまさに別れを表しているようで非常にかっこいい。なによりもプロテスト・ソングのように聴こえ、そういったカウンターと昔を懐かしむような曲が、リヴァイヴァルで受けたのかもしれない。わたしとしては決定録音。
Hal Smith's Creole Sunshine Orchestra (New Orleans, September 13, 1995)
Duke Heitger (Trumpet); Mike Owen (Trombone, Vocal); Qrange Kellin (Clarinet); Steve Pistrious (Piano, Vocal); Amy Sharpe (Guitar, Banjo, Vocal); Tom Saunders (Bass, Tuba); Hal Smith (Drums)
ハル・スミスのバンドの録音。男性がこの曲を歌うと、まさに過去の楽しかった思い出を振り返っているように聞こえ、またそれが非常に男性社会的に聴こえる。ケリンのクラリネットに絡むデューク・ハイガーのトランペットがホットでとても好き。
Gregg Stafford & Dr. Michael White (New Orleans, 2022)
Gregg Stafford (trumpet, vocals); Dr. Michael White (clarinet); Reide Kaiser (piano); Emil Mark (banjo); Colin Bray (bass); Taff Lloyd (drums)
グレッグ・スタッフォードとマイケル・ホワイトのタッグ作。スタッフォードといえばタキシード・ブラス・バンドを率いたリーダーでもあり、ここでは嗄れた声を聴かせてくれる。ホワイトのクラリネットは刺さるようで悲痛な娼婦の叫びのようにも聴こえる。とてもブルージー。