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Jack, You're Dead

「ジャック、ユアー・デッド Jack, You're Dead」はディック・マイルス Dick Miles とウォルター・ビショップ Walter Bishop によって書かれたジャンプ・ブルース/ジャイヴ・ナンバー。

ジャズにおける八五郎とご隠居

戦前のジャズにしばしば登場する「ジャック Jack」と「モーゼ/モーズ Mose」。それぞれにはっきりとした役割があるわけではないんだけど、少し落語における「八五郎」と「ご隠居」に似た性格を見出せるかもしれない。

英語の「ジャック Jack」は、1930年代〜40年代のアメリカにおいては、男性一般を指す表現で、とくに親しみを込めた呼びかけや、特定の個人ではなく「そこの男」くらいのニュアンスで使われることが多かったので、そこまで深い意味はない。が、ジャックはほかの曲でも描かれるようにちょっとしたワルで無鉄砲なところがある。この曲で描かれるジャックもそんな感じだ。最初に注目してみよう。

When you got no more assurance
頼れるものが
Than a great big hunk of lead
でっかい鉛の塊しかないなら
If you don't respond to romance
ロマンスに応えないなら
Jack, you dead
ジャック、君は死んでる

つまり、無鉄砲に暮らしたり、恋愛に鈍感だったりするんなら、生きていないことと一緒だと言われている。歌詞に出てくる「でっかい鉛の塊 a great big hunk of lead」はまさにピストルを指している。

一方で、モーズはその名前からわかるように「死者」を想起させ、ここでは「死んでいる」ことを強調するための象徴的な存在として引用されている。1935年にルイ・アームストロングLouis Armstrongとホーレス・ガーネットHorace Gerlachが作詞作曲した「オールド・マン・モーズ Ol’ Man Mose」では、モーズの家を訪れると、実は彼はまだ幽霊のように存在している、という内容。そんなある意味サゲのように使われるところに、少し御隠居っぽさを見出せるかも知れない。

You been always kickin'
ずっと元気にやってきたのに
But you stubbed your toes
つまずいて転んじまった
When you ups and kicks the bucket
くたばっちまえば
Just like old man Mose
まるであのオールド・マン・モーズさ

録音

Louis Jordan and His Tympany Five (Los Angeles, October 10, 1946)
Louis Jordan (Alto Saxophone, Vocal); James Wright (Tenor Saxophone); Carl Hogan (Guitar); Wild Bill Davis (Piano); Jesse Simpkins (Bass); Joe Morris (Drums)
ルイ・ジョーダンの録音。この曲の初録音。ビルボードのレイス・ミュージックのチャートでナンバーワンになった録音。まさにジャイヴィーなブルースで非常にかっこよい。

The 5 Red Caps/Steve Gibson And The Red Caps (NYC, May 1947)
Steve Gibson (Bass Vocals, Guitar); Romaine L. Brown (Baritone Vocals); Jimmy Springs (Tenor Vocals); David B. Patillo (Tenor Vocals); Earl Plummer (Tenor Vocals); Unknown [possibly Joe Jackson or Emmett Mathews??] (Drums); Unknown [possibly Dave Patillo?] (Bass)
参加メンバーがわからないのだけれど、Red Capsの録音。最高にかっこいいジャイヴ・コーラス。私としてはこの録音が一番好きでまさにジャズからR&Bの間のジャイヴの世界を楽しめる録音だと思う。

Elliot Lawrence & His Orchestra (NOT GIVEN)
アメリカで活動していたエリオット・ローレンスの楽団の録音。かなりジャイヴィーで素晴らしい。おそらく40年代の録音なんだけど詳しいことはわからなかった。非常に素敵。

BB King (Los Angeles, CA, 1999)
B.B. King (Vocal, Guitar); Dr. John (Piano); Neil Larsen (Hammond Organ); Hank Crawford (Alto Saxophone); David "Fathead" Newman (Tenor Saxophone); Marcus Belgrave (Trumpet); Russell Malone (Rhythm Guitar); John Heard (Bass); Earl Palmer (Drums); Lenny Castro (Percussion)
BBキングによるルイ・ジョーダンのトリビュート。


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