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Maple Leaf Rag
「メイプル・リーフ・ラグ Maple Leaf Rag」は1899年にスコット・ジョプリン Scott Joplinが作曲したラグタイム・ナンバー。クラシック・ラグとしてもジャズにおいても大スタンダード。おそらく国内においては「エンターテイナー Entertainer」と並ぶもっとも有名なラグタイム・ナンバー。
ジョプリンの唯一の白人の弟子だったサンフォード・キャンベル Sanford Campbellは「ジョプリンは1889年にはすでに「メイプル・リーフ・ラグ」のバージョンを演奏してた。つまり、実際に出版される少なくとも数年前には演奏していたんだ。[...]ご存知の通り、おれは1898年のセダリアでスコット・ジョプリンの唯一の白人の生徒で、「メープル・リーフ・ラグ」を手書きのペンとインクで書かれたオリジナルの楽譜から学んだんだ」と記している(Jasen, 2007, p. 33)。
また数々のラグタイム・ナンバーがこの曲から影響を受けており、ジェイムズ・スコットの「フロッグ・レッグ・ラグ Frog Legs Rag」や「グレート・スコット・ラグ Great Scott Rag」、ジョプリン自身の「グラディウス・ラグ Gladiolus Rag」など数々の後追いラグタイムが作曲された。
録音
New Orleans Feetwarmers (NYC, September 15, 1932)
Sidney Bechet (Clarinet, Soprano Saxophone); Tommy Ladnier (Trumpet); Teddy Nixon (Trombone); Henry Duncan (Piano); Wilson Myers (Double Bass); Morris Morland (Drums)
30年代にベシェたちが組んだニューヨーク・コンボの録音。ウィルソン・メイヤーズのベースとモリソン・ローランドのドラムが都会的でかっこよい。すごくパワフルでドライブ感のある録音が素晴らしい。
Earl Hines and His Orchestra (Chicago, September 12, 1934)
Earl Hines (Piano, Leader); Charlie Allen (Trumpet); George Dixon (Trumpet); Walter Fuller (Trumpet); Omer Simeon (Clarinet, Alto Saxophone, Baritone Saxophone); Darnell Howard (Clarinet, Alto Saxophone, Violin); Cecil Irwin (Clarinet, Tenor Saxophone); Jimmy Mundy (Tenor Saxophone); Louis Taylor (Trombone); Trummy Young (Trombone), William Franklin (Trombone); Lawrence Dixon (Guitar); Quinn Wilson (Bass); Wallace Bishop (Drums);
アール・ハインズがシカゴで組んでいた楽団の録音。なんといってもハインズの都会的なピアノが美しい。
Jelly Roll Morton (Recording for the Library of Congress, 1938)
Jelly Roll Morton (Piano)
ジェリー・ロール・モートンがセント・ルイスとニューオーリンズのそれぞれのスタイルで弾き分けている。話半分で聞いてよいと思うんだけど、確かなのはモートンはやはりシカゴの超一流演奏家であったこと。前後のインタビューでは自身の武勇伝を雄弁に語っている。
Kid Ory's Creole Jazz Band (Chicago, November 3, 1945)
Mutt Carey (Trumpet); Darnell Howard (Clarinet); Kid Ory (Trombone); Buster Wilson (Piano); Bud Scott (Guitar); Ed Garland (Bass); Minor Hall (Drums);
キッド・オリーの録音。テンポがゆっくりめで牧歌的な雰囲気を味わえるんだけど、やはりそれぞれの演奏に引き込まれる。とても好き。
James P Johnson (NYC, Feburary 15, 1947)
James P Johnson (Piano)
ストライド・ピアノの祖、ジェイムズPの録音。ピアノの上を縦横無尽に駆け回るピアノが印象的で、踊るための音楽というフォーマットにいながら、高度な演奏をキープしている。とてもかっこいい!
Willie “the Lion” Smith (Paris, France, January 29, 1950)
Willie “the Lion” Smith (Piano)
とても力強い傑作。ソロ・ピアノではとても好きな録音の一つ。前半をライオン・スミスの解釈で、後半をジョプリンを意識して演奏している。喋りから入るんだけどそれがまた素敵。ジョプリンの連れ合いの近くに住んでおり、彼女を通じてジョプリンの音楽がアート・テイタムやファッツ・ウォーラーや自身にも大きな影響を与えたことが語られている。
Rev Gary Davis (NOT GIVEN, Released in 1964)
Blind Gary Davis (Guitar)
盲目のブルース・ギター/バンジョー/ハーモニカ奏者のレヴ・ギャリー・デイィスの録音。ゲイリーと書かれることもあるがギャリーの方が元々の発音に近い。ギター一本のシンプルな録音のラグタイム・ギターで、まさにブルースリヴァイヴァルの時期に再評価された人物の録音。
David Laibman & Eric Schoenberg (NOT GIVEN, Released in 1971)
David Laibman (Guitar); Eric Schoenberg (Guitar)
アコースティック・スウィングの名盤を生み出したデュオの録音。ギターによるラグタイムはとくに60年代70年代に多く録音されたけど、これはその中でも最高傑作かもしれない。ハーモニー、リズム、音色のどれもが美しい。
Dick Hyman (NOT GIVEN, Released in 1975)
Dick Hyman (Piano)
大正義ディック・ハイマンの録音。ラグタイム・ジャズというべきか、スウィング・ジャズの先達を意識した演奏。
Butch Thompson Trio (St. Paul, MN, 16–17 March, 1992)
Butch Thompson (Piano); Robbie Schlosser (Bass); Hal Smith (Drums)
ブッチ・トンプソンのトリオでの録音。もともとあったクラシカルな雰囲気をなくさないアレンジ。
Marcuss Roberts (Tallahassee, Florida, January 31–February 5, 1998)
Marcuss Roberts (Piano)
ウィントン・マルサリスのバンドでも活躍したマーカス・ロバーツの録音。ソニークラシカルから発売されたようにクラシック音楽としてプロデュースされた。が、演奏は必ずしもそうではなくてロバーツ本人の解釈をふんだんに活かした録音となっている。
California Feetwarmers (Los Angeles, 2013)
Brandon Armstrong (tuba, bass); Charles DeCastro (trumpet, accordion); Joshua Kaufman (clarinet, piano); Jeffrey Moran (guitar); Patrick Morrison (plectrum banjo, vocals); Juan Carlos Reynoso (washboard, vocals); Dominique Rodriguez (bass drum); Justin Rubenstein (trombone); Andy Bean (banjo)
LAで活動しているニューオーリンズ・スタイルのトラッドジャズ・バンド。歯切れのよいリズム。
Tuba Skinny (New Orleans, April 2015)
Shaye Cohn (Cornet); Jonathan Doyle (Alto Saxophone); Craig Flory (Clarinet); Jason Lawrence (6-String Banjo); Barnabus Jones (Trombone); Todd Burdick (Tuba); Erika Lewis (Bass Drum); Robin Rapuzzi (Washboard);
ジョプリンの楽曲をモダン・ニューオーリンズに解釈した録音。それぞれのソロも素敵なんだけど、集合的なソロによって組み立てられるアンサンブルもとても素敵。
Smoking Time Jazz Club (New Orleans, Released in 2016)
Sarah Peterson (Vocals); Colin Myers (Trombone); Joe Goldberg (Reeds); Byron Asher (Reeds); Jack Pritchett (Trumpet); John Joyce (Upright Bass); Mike Voelker (Drums); Joseph Faison (Guitar)
ニューオーリンズで活動しているスモーキン・タイム・ジャズ・クラブの録音。チューバ・スキニーやカリフォルニア・フットウォーマーズの録音と比べるとアレンジが凝っている。
Three Blind Mice (Paris, France 2016)
Felix Hunot (Guitar); Malo Mazurié (Trompette/Cornet); Sebastien Girardot (Bass)
パリのトラッドジャズ・バンドのスリー・ブラインド・マイスの録音。スリーピースを最大限に活かすような演奏が素敵!
The Lovestruck Balladeers (NYC, Released in 2020)
Jake Sanders (Guitar); Aaron Jonah Lewis (Violin, Banjo); Dennis Lichtman (Clarinet, Mandolin, Violin); Sean Cronin (Bass); Dalton Ridenhour (Piano)
ラブスラック・バラディアーズの録音。アーロン・ジョナ・ルイスのヴァイオリンを楽しめる素敵な録音。元々のクラシカルな雰囲気を壊さずにアレンジされていてそうしたところも非常に素敵。
きつねのトンプソン (川崎, August, 1–2, September 13, 2020)
小山理恵 (木琴); 小寺拓実 (Banjo); 手島昭英 (Bass); 吉島智仁 (Drums)
日本が誇る素敵アメリカーナ・バンドあるいは素敵ラグタイム・バンドの渾身の録音。名盤Foxtaleの二曲目。ちょっと前までファイターズ女子のきつねダンスも流行ったけど、こっちのきつねもだいぶダンサンブルでかっこいい。キメがとくに好き。
Aaron Jonah Lewis & Ragtime Banjo Revival (Ann Arbor, Michigan, Released in 2024)
Aaron Jonah Lewis (Banjo); Abby Alwin (Cello); Alex Belhaj (Guitar); Cami Celestia (Piano); Grace van’t Hof (Uke);
天才アーロン・ジョナ・ルイスの録音。ここでは4弦バンジョーを弾いている。
参考文献
Jasen, David A. (2007). Ragtime: An encyclopedia, discography, and sheetography. London: Routledge.
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