9:20 Special
1941年にカウント・ベイシー楽団でアルトサックスを担当していたアール・ウォーレン(Earle Warren)が作曲。この時のアレンジはバスター・ハーディング(Buster Harding)。イントロの8小節はハーディングのアイディアらしい。もともとはインストだけれども、のちに歌がつけられた。この版権が登録された際にジャック・パーマー(Jack Palmer)が作曲者、ウィリアム・エンヴィック(William Engvick)が作詞者として加わる。ちなみに、パーマーは”I’ve Found a New Baby”や"Here Comes the Man with Jive"の作曲者の1人。
9時20分発車の特別列車
9:20 Special、つまり9時20分発車の特別列車という変わったタイトルだけど、これには次のような逸話がある。バンドが夜の演奏の仕事を終えたあとやっとレコーディングにありつけた。この曲の録音が終わったあと時計を見ると「午前9時20分」だったらしい。ちなみにそれまではベイシー楽団では「アールの曲 Earl’s Tune」と呼ばれていた(Zirpolo, 2020)。
録音
いろいろなバンドが録音しているけれど、サックスのソロがフィーチャーされる傾向にある。それはやはりレスター・ヤングが抜けたあとのベイシー楽団の録音で感動的なソロを奏でたコールマン・ホーキンスを模しているからなのかもしれない(ベイシー楽団はレスター・ヤングとものちにこの曲を録音をしている)。また、前述のとおり歌ものもあるはずなんだけど、わたしは一つしか知らない。ベイシーの録音とそのほかにスモール・グループに志向した録音をいくつか挙げてみる。
Count Basie and His Orchestra (April 10, 1941 Chicago)
Count Basie (piano, directing); Edward Lewis (first trumpet); Al Killian (trumpet); Wilbur “Buck” Clayton (trumpet); Harry “Sweets” Edison (trumpet); William “Dicky” Wells (trombone); Dan Minor(trombone); Edward Cuffee, (trombone); Earle Ronald Warren (first alto saxophone); Tallmadge “Tab” Smith (alto saxophone); Don Byas (tenor saxophone), George “Buddy” Tate (tenor saxophone); Ronald “Jack” Washington (baritone saxophone); Freddie Green (guitar); Walter Page (bass); Jonathan “Jo” Jones (drums) Coleman Hawkins (tenor saxophone soloist)
疾走感があるカンザス・スイングが聴ける。前述のとおりコールマン・ホーキンスのソロがキレている。
Art Tatum (NY October 26, 1945)
ラジオの録音でソロ・ピアノをしている。アート・テイタム節が効いた演奏。
Butch Miles Septet (NY, 1985)
Howard Alden (Guitar); Linc Milliman (Bass); Butch Miles (Drums); Derek Smith (Piano); Jorge Anders (Tenor Saxophone, Arrangement and Direction); Dan Barrett (Trombone); Glenn Zottola (Trumpet)
スーパードラマーのブッチ・マイルス率いるセプテットの録音も素敵。デレク・スミスのピアノを掘っているときに発見した一枚。とっても好き。
ほかにもたくさんいい録音もあるけど、やはり基本はベイシーの録音。わたしはスモール・グループの録音が好きでそれらをよく探している。その線だとEngelbort Wrobelの録音はトランペットのソロがキレキレでかっこいい。比較的最近のものだとBoilmaker Jazz Bandの録音ではGordon Websterがピアノで参加している。それとCab Callowayもこの曲を録音していて、それもよきよき。
Jon-Erik Kellso (Clearwater, Florida, 1993)
Jon-Erik Kellso (Cornet); Scott Robinson (Clarinet); Jeremy Kahn (Piano); Frank Vignola (Guitar); Milt Hinton (Bass); Chuck Riggs (Drum)
ジョンエリック・ケルソーの録音もだいぶ素晴らしい。初のリーダーアルバムでこの曲を録音していて、ここでは素敵なコルネットのソロを奏でている。あがりまくりですな。
Jonathan Stout and the Campus Five (Los Angels, Califonia, 2007)
Jonathan Stout (guitar); Hilary Alexander (vocals); Albert Alva (tenor saxophone); Jim Ziegler (trumpet); Christopher Dawson (piano); Wally Hersom (bass); Josh Collazo (drums)
わたしが唯一知っている歌もの。現在のトラッド・ジャズ界のギター名手の一人であるジョナサン・スタウトが本当にかっこいいですな。昼は弁護士、夜はギタリスト。ちなみにブログもおもしろい。カウント・ベイシー風のピアノも素晴らしい。大好きな録音の一つですな。
Hot Swing Sextet (Bordeaux, France, 2018)
Thibaud Bonté (Trumpet); Bertrand Tessier(Tenor Sax); Erwann Muller (Guitar); Ludovic Langlade (Guitar); Franck Richard (Bass); Jericho Ballan (Drum)
フランスのトラッド・ジャズ/スイングバンドの録音。マヌーシュ・ジャズをもとにアレンジを作っていてこれ非常にかっこいい!
参考文献
Zirpolo, P. Michael. (2020, Jan. 3). “9:20 Special” (1941) Count Basie with Coleman Hawkins. Swing and Beyond. https://swingandbeyond.com/2020/06/02/920-special-1941-count-basie-with-coleman-hawkins/
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