If You’re a Viper
「イフ・ユア・ア・ヴァイパー If You’re a Viper」はスタッフ・スミス Stuff Smithによって作詞作曲され1936年にリリースされたジャズ・ナンバー。タイトルはYou’se a ViperやIf You’se a Viperというバリエーションがある。
リーファー・ソング
この曲はタイトルの通り大麻について歌っている。やはり1920年代から1930年代のニューヨークにおいては大麻が非常に流行しており、この曲もそうした流行を反映している。「ヴァイパー viper」という表現は主にハーレムの黒人たちに使用されたスラングで「大麻愛好家」を意味している。
ここではヴァイパーだったら5フィートの大麻は夢にみたようなものなんだ、ということが歌われている。ちなみに5フィートとはおよそ1.5メートルくらい。つまり長く楽しめるということ。「強力なメズ Mighty Mezz」とは、そのまま「大麻」を指している。「メズ Mezz」とは、もともとユダヤ人のサックス奏者およびクラリネット奏者のメズ・メズロウこと。演奏よりもドラッグの販売でで有名だった人物で、ハーレムのジャズ・シーンにドラッグを紹介した人物。そんなわけで仲間内では「メズ」と言えば「大麻」を意味する。そして、かなり楽しそうな歌詞が続く。
ここで興味深いのは”Light a tea”という表現。こちらは日本語で「(大麻を)一服する」という意味になる。そのまま訳せば「お茶に火をつける」だが、まさに大麻は乾燥した茶葉に似ているため、1920年代1930年代のスラングで”tea”や”T”で「大麻」を意味していた。
キャンディと大麻の関係性がわからなかったのだけど、調べた限りではつぎのように理解される。「キャンディ」に関連する表現は、大麻のような「快楽をもたらすもの」という意味を持つ場合があり、大麻を吸った後の心地よさや幸福感を象徴する言葉として使用されることがあった。もしかしたら、「キャンディ・ショップ」も大麻を売っている場所の可能性もあるんだけど、ちょっとわからなかった。
さて、こうした大麻にかんする曲を「リーファー・ソング reefer song」と言い、実際にファッツ・ウォーラーは「リーファー・ソング」として録音している。
録音
Stuff Smith & His Onyx Club Boys (NYC, March 13, 1936)
Jonah Jones (Trumpet, Vocal); Stuff Smith (Violin, Vocal); James Sherman (Piano); Bobby Bennett (Guitar); Mack Walker (Bass); Cozy Cole (Drums)
ジョナ・ジョーンズが歌うスタッフ・スミスの録音。30年代のスタッフ・スミスは間違いなく素晴らしい。とんでもなくスウィングしまくっている。
Rosetta Howard (NYC, October 5, 1937)
Rosetta Howard (Vocal); Herb Morand (Trumpet); Odell Rand (Clarinet); Horace Malcolm (Piano); Joe McCoy (Guitar); Charlie McCoy (Guitar & Mandolin); Ransom Knowling (Bass); Fred Flynn (Drums)
ジャイヴの女王、ロゼッタ・ハワードの録音。こちらの方がよりブルージー。ハワードの歌がやはりよい。それとアーブ・モランドのトランペットがリーファー感満載で素敵。
Bob Howard (NYC, February 7, 1938)
Bob Howard (Vocals); Teddy Bunn (Guitar); Frank Froeba (Piano); Haig Stephens (Bass); O’Neil Spencer (Drums)
ファッツ・ウォーラーになろうとした男、ボブ・ハワードの録音。もちろん歌もよいんだけど、スペンサーとバンのコンビが素敵。
Lorraine Walton (Chicago, February 9, 1938)
Lorraine Walton (Vocals); Arnett Nelson [?] (Clarinet); Blind John Davis (Piano); Unknown (Guitar); Unknown (Bass)
30年代に活動したシンガーのロレイン・ウォルトンの録音。詳しいメンバーは不明。
Fats Waller (Hollywood, September 23, 1943)
Fats Waller (Piano, Vocal)
V-Disc用のファッツ・ウォーラーの録音。ピアノの弾き語り。ちなみにファッツ・ウォーラーの生前最後のスタジオ録音の一つ。歌詞を少し変えてあり、前述の通りタイトルも変えてある。いわゆるストライキ中に録音されたのだが、実はこの曲が録音された時はアメリカ政府による大麻取締りが行われた時期だった。
Jim Kweskin and His Jug Band (NYC, 1967)
Jim Kweskin (Guitar, Vocals); Jeff Muldaur (Guitar, Mandolin, Clarinet, Washboard, Vocals); Fritz Richmond (Jug, Washtub Bass, Vocals); Maria Muldaur (Kazoo, Tambourine, Vocals); Bill Keith (Banjo); Gary Chester (Drums); Richard Greene (Violin, Viola)
ジム・クウェスキンの録音。こうした大麻使用は60年代においても見られた。そうした背景から録音されたこの曲はなんといってもリチャード・グリーンのフィドルが素晴らしく、楽しいセッションが繰り広げられている。
Martin, Bogan & The Armstrongs (Chicago, March 1972)
L.C. Armstrong (Bass, Vocals); Ted Bogan (Guitar, Vocals); Carl Martin (Mandolin, Vocals); Howard Armstrong (Violin, Vocals)
シカゴのマーティン、ボウガン・アンド・アームストロングスの録音。ストリングスだけで構成されており、かなりブルージー。こちらの録音も素晴らしい。
Doctor Stovepipe (NOT GIVEN, Released in 2009)
Dr Jim Sharrock (Guitar, Percussion, Vocals); Dr Pablo Shopen (Fiddle, Banjo, Vocals); Dr Edward Radclyffe (Bass, Harmonica, Percussion, Vocals)
オーストラリアのドクター・ストーヴパイプの録音。上のマーティン、ボウガン・アンド・アームストロングスよりも構成がしっかりしている。2000年代以降のアコースティック・スウィングやトラッドジャズ・リヴァイバルに位置付けられる録音。
The Underscore Orkestra (Brussels, Belgium 2014)
Jorge Kachmari (Violin); Thomas Hodson (Vocals); David Symons (Accordion); Linda Joy (Vocals); Mike Kingston (Air Guitar); Max Clark (Percussion); Joe Correia (Tuba)
アイルランドで活動しているジャズやクレズマーなどさまざまな音楽を取り込んだアコースティック・ダンス・バンドのアンダースコア・オーケストラの録音。
Pepper and the Jellies (Teramo, Italy, 2016)
Ilenia Appicciafuoc (Vocal, Kazoo, Washboard); Marco Galiffa (Guitar); Emiliano Macrini (Double Bass); Andrea Galiffa (Snare and Woodblocks)
イタリアのジャイヴ・バンドのペッパーアンドジェリーズの録音。