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Futuristic Rhythm

「フューチャリスティック・リズム Futuristic Rhythm」は1928年にジミー・マクヒュー Jimmy McHugh が作曲し、ドロシー・フィールズ Dorothy Fields が作詞したポピュラーソング。ビックス・バイダーベックが参加した録音が有名で、ジャズにおいては、しばしばビックスの音楽に志向したシカゴ・スタイルのミュージシャンたちに録音されている。ちなみにだがスタンダードではない。

最新の音楽としてのジャズ

ブロードウェイ・ミュージカル『ハロー・ダディー Hello Daddy』にて歌われた曲。このミュージカルを見たことがないのでどういったシーンで歌われるのかわからないけどとにかく歌詞がよい。第一に、構造という点から考えると、過去と未来の対比がなされている。第二に、テーマという点で考えると人種を超越した音楽をあげられる。これらによって何が達成されるのか?それは最新の音楽としてのジャズが歌われているのだ。

まずヴァースから「音楽は人種の基本だ Music is the basis of human races」、「戦争前はブルーノートなんてしなかったんだ Before the war, they never tore off the blue note」と歌われる。歴史主義的に読もうとすれば次のようになるだろう。(1) この曲が書かれた当時は白人と黒人の区別がかなり明確であった。(2) 人種によって演奏する音楽が分かれていた。(2-1)ジャズは黒人の音楽であった。(3)黒人の音楽としてのジャズにおいてはブルーノートが使用される。であるならば、ここで表明されている「戦争前は[黒人の音楽=ジャズ由来である]ブルーノートなんてしなかった」が、いまではそういったことを関係なく、誰もがジャズを踊るんだ、というジャズの超越性の讃歌にも聴こえる。

またここでの「戦争」は、この曲ができた時代に鑑みれば第一次世界大戦ということができる。つまり、ここで言われているのは、第一次世界大戦後にできたこの曲は古めかしい習慣やリズムや音符に捉われず新しいことをする、ということにほかならない。そうした新しいことこそが、まさにジャズなのだ、ということができるだろう。

ついでコーラスでは「未来のリズム。オンビートじゃないぜ!鼓動が耳の鼓膜に近づくと、足がすくむんだ! Futuristic rhythm, never on the beat/Any near drum, in my ear-drum, throws me off my feet.」と歌われる。ここではまさにジャズが持っているシンコペーションやオフビートのことを指している。そうしたビート感はラグタイムによって広められ、それまでの西洋音楽のなかでもとりわけクラシックにはないものだった。であるならば、オフビートのジャズは聴衆に新しく「未来の音楽」であった。そうした新感覚は衝撃であった。だからシンコペーションやオフビートは新しく油断すると「足がすくむ」のである。

録音

Ben Pollack And His Park Central Orchestra (NYC, December 24, 1928)
Benny Goodman (Clarinet); Al Harris (Cornet); Gil Rodin (Alto Saxophone); Bud Freeman (Tenor Saxophone); Jack Teagarden (Trombone); Al Beller (Violin); Ed Bergman (Violin); Vic Briedis (Piano); Dick Morgan (Banjo); Ray Bauduc (Drums); Bill Schumann (Vocal)
最初の録音。かなりシンフォニックに聴こえるのはオーケストラ的なヴァイオリンが2本入っているからだろう。こうした録音はジャズ史においてはなかなか評価されないかもしれないが私としてはとても美しく聴こえる。

Jimmy McHugh's Bostonians (NYC, January 9, 1929)
Al Harris (Cornet); Jimmy McPartland (Cornet); Benny Goodman (Clarinet); Gil Rodin (Alto Saxophone); Larry Binyon (Tenor Saxophone); Jack Teagarden (Trombone); Vic Breidis (Piano); Harry Goodman (Bass); Ben Pollack (Drums); Dick Morgan (Banjo); Marvin Young (Vocal);
1928年の録音と多くのメンバーが重なっているのがこちらの録音。ジミー・マクヒューのボストニアン名義での録音。28年の録音よりも多少シンプルになっている。この録音も素晴らしい。

Frankie Trumbauer and His Orchestra (NYC, March 8, 1929)
Bix Beiderbecke (Cornet); Andy Secrest (Cornet); Bill Rank (Trombone); Frank Trumbauer (C-Melody Saxophone, Vocal); Irving Friedman (Clarinet, Tenor Saxophone); Chester Hazlett (Alto Saxophone); Matty Malneck (Violin); Lennie Hayton (Piano); ‘Snoozer’ Quinn (Guitar); Min Leibrook (Bass Saxophone); Stan King (Drums)
どこか牧歌的な雰囲気があるフランキー・トランバウアー楽団の録音。トラバウアーの歌もよいし、ここで聴けるビックスのコルネットがまあ美しく惹き付けられる!伝説のギタリストスヌーザー・クインが参加した貴重な録音でもある。

Dick Sudhalter & Connie Jones (NYC, July 11–13 and August 8, 1989)
Dick Sudhalter (Trumpet); Connie Jones (Cornet); Joe Muranyi (Clarinet, Alto Saxophone); Robert Edward Pring (Trombone); Keith Ingham (Piano); James Chirillo (Guitar); Marty Grosz (Guitar); Greg Cohen (Bass);
シカゴ・スタイルの名手たちによるビックス・トリビュート。2003年のジェフ・マルダーの録音と比べると方向性が異なるがアレンジとソロの両方がかっこいい。

Geoff Muldaur's Futuristic Ensemble (NYC; Santa Monica; Glendale, 2003)
Geoff Muldaur (Vocal, arrangement); Paul Woodiel (Violin); Randy Sanke (Trombone); Chuck Wilson (Alto Saxophone, Clarinet); Dan Block (Soprano Saxophone, Alto Saxophone, Clarinet); Jonathan Levine (Tenor Saxophone); Dan Levine (Trombone); Butch Thompson (Piano); Doug Wamble (Guitar); Nathan Durham (Tuba); Greg Cohen (Bass); Arnie Kinsella (Drums)
ジェフ・マルダーの録音。どうしてもこの録音が好きで、この録音ついて書くためにこのエントリーを書いたまである。シンフォニックな雰囲気なんだけど、とてもロッキン。マルダーの歌い方にもあると思う。Bメロの最後は音域がそもそもマルダーに合ってないように聴こえるかもしれないけど、そこがとてもいい。60年代後半のビーチ・ボーイズというかブライアン・ウィルソンに通じるような美しさが極めてホットに聴こえる。そのあとのバイオリンのソロもメロディと音がともに美しくまた素晴らしい。ピアノとのかけあいもかっこいい。そしてアレンジがかっこいい!

Pasadena Roof Orchestra (London, 2011)
Duncan Galloway (Vocals, Bandleader); Mike "Magic" Henry (Trumpet); Malcolm Baxter (Trumpet); Andy Hiller (Trombone); Robert Fowler: (Baritone/Alto Sax and Clarinet); Oliver Wilby (Tenor Sax and Clarinet); David Pritchard (Alto Sax and Clarinet); John Watson (Drums); Graham Roberts (Guitar); Simon Townley (Piano); David Berry (Bass)
イギリスを代表するトラッドジャズ・バンドのパサデナ・ルーフ・オーケストラの録音。フランキー・トランバウアーの録音をかなり意識している。


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