Atlanta Blues/Make Me a Pallet On Your Floor/Make Me One Pallet On Your Floor
「アトランタ・ブルース Atlanta Blues」として知られる「メイク・ミー・ア・パレット Make Me a Pallet On Your Floor」は、1923年にWCハンディ(WC Handy)が作曲、デイヴ・エルマン(Dave Elman)が作詞したブルース曲。どちらのタイトルでも録音されているけど、もしかしたら「メイク・ミー・ア・パレット Make Me a Pallet On Your Floor」やそれに似た名前で録音されている方が多いかも。問題はなんで異なるタイトルが同じ曲に割り当てられているのか、ということ。
どのようにしてこの曲が広まったのか?
冒頭で述べたようにこの曲は、WCハンディとデイヴ・エルマンにそれぞれ作詞作曲者としてクレジットされている。が、この曲はもともとは、おそらく黒人発祥のアメリカ民謡で19世紀末にはすでに知られていた。実際に1890年生まれのジェリー・ロール・ロートン(Jelly Roll Morton)は「俺が生まれるよりも前の曲」と言っている(Hobson 2011, p. 18)。また1886年生まれのキッド・オリー(Kid Ory)は、伝説のジャズ・ミュージシャン、バディ・ボールデン(Buddy Bolden)からこの曲を教わったとされる(ibid.)。さらにボールデンはミュージシャンとして活動する前からこの曲を演奏していた(ibid.)。であるならば、この曲ができたのは遅くとも1800年代の末であると言えるだろう。
初期のタイトルは表記のブレがあるが概ね”Make Me a Pallet”や”Make Me a Pallet On Your Floor”、”Make Me a Pallet”となっている。実際にこの曲が記録に残されるのは20世紀になってからになる。「メイク・ミー・ア・パレット」の記録媒体での初出は、1908年に黒人ピアニストのブラインド・ブーン(Blind Boone)によって作曲されたラグタイム・ピアノ曲”Southern Rag Medley No.1”で、この曲のメロディがこのメロディに組み込まれていた。「12番街ラグ」の作曲者のユーデイ・L・ボウマン(Euday L. Bowman)による「10番街ラグ 10th Street Rag」(1914年)のなかにも「メイク・ミー・ア・パレット」のメロディが確認できる (Muir 2006)。歌詞にかんしては、1911年の民俗学者ハワード・オダム(Howard Odum)の論文に初めて登場する。歌詞は、その数年前にミシシッピで聴いた演奏から書き起こしたものである。ちなみに最初の録音は、1917年のW.C.ハンディのバンド。
なぜいまこの曲が「アトランタ・ブルース」と呼ばれることがあるのかと言えば、まさに冒頭に記したようにWCハンディが曲を出版したときに”Make Me a Pallet”から”Atlanta Blues”に変更されたからにほかならない。さらにこのときヴァースが加えられた。よく考えるとブルースなのにヴァースとは変な話にきこえるが、ポピュラー音楽やジャズの成立にブルースは不可欠で (Hobson 2011)、当時はブルースとジャズが今ほど明確に分かれていなかったのであれば、理解できない話ではないだろう。
また、「アトランタ・ブルース」あるいは「メイク・ミー・ア・パレット」は「プロト・ブルース」の一例であるとされている。実際に、16小節のAABB形式あり、現在一般的である12小節AAB形式のブルースの形式ができあがるよりも前の形式であることを確認することができる。
タイトルにもあるパレット(pallet)とは、当時の方言で「わら布団」を指す。いまの英語では「すのこ」のようなかたちで、荷物を載せるための荷役台を指す。いずれにしても狭くて硬くて寝心地が悪そうだ。歌詞は「寝かせてくれ。パレットを作ってくれ。寒い…。床にパレットを作って寝かせてくれ。寝ても疲れる…背中が痛い…」という内容。
録音
Louis Armstong (NY July 12-14, 1954)
Louis Armstrong (trumpet, vocals); Trummy Young (trombone); Barney Bigard (clarinet); Billy Kyle (piano); Arvell Shaw (double bass); Barrett Deems (drums)
おそらく一番有名な録音でテンポが速い。ノリノリのサッチモがかわいい。歌詞にあるような悲壮感はそこまで感じない。むしろちょっと熱い。
Don Ewell Quartet (Chicago May 21, 1959)
Don Ewell (piano); Marty Grosz (Guitar); Nappy Trottier (Trumpet); Earl Murphy (Bass)
ストライド・ピアニストのドン・イーウェルのシカゴ録音。典型的なシカゴ・スタイル。優雅でゆったりとしたピアノ。マーティ・グロスの4拍にがっぷり入るギターも最高ですな。コード・ソロかっこいい!
Haruka Kikuchi (New Orleans October 12 2017)
Makiko Tamura (Clarinet); Molly Reeves (Guitar, Vocal); Joshua Gouzy (Bass); Haruka Kikuchi (Slide Trombone)
モリー・リーヴスのファンとしては見逃せない素敵な録音。田村麻紀子さんのクラリネットの美しい音色とメロディが素敵。
Shake 'Em Up Jazz Band (New Orleans, Released in 2019)
Marla Dixon (Trumpet, Vocals); Chloe Feoranzo (Clarinet, Vocals); Haruka Kikuchi (Trombone, Vocals); Molly Reeves (Guitar, Vocals); Julie Schexnayder (Bass, Vocals); Defne "Dizzy" Incirlioglu (Washboard, Vocals)
ニューオーリンズで活動しているシェイク・エム・アップ・ジャズ・バンドの録音。マーラ・ディクソンの枯れたトランペットがかっこいい。ここでもモーリー・リーヴスが歌っている。
参考文献
Hobson, Vic (2011). "New Orleans Jazz and the Blues". Jazz Perspectives. 5 (1): 3–27
Muir, Peter. (2006). "Make Me a Pallet on Your Floor". In Komara, Edward (ed.). Encyclopedia of the Blues. London: Routledge. pp. 648–649.