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Djangology

「ジャンゴロジー Djangology」は1935年にジャンゴ・ラインハルト Django Reinhardtとステファン・グラッペリSteohane Grappelliが作曲したジャズ・ナンバー。ジャンゴが作曲したナンバーでも代表作の一つ。

ジャンゴの単独作品かグラッペリとの共作か

多くの曲でそうらしいのだが、どうやら曲のメインのメロディや構成はジャンゴが単独で書いたもののようだ (Dregni, 2008, p. 64)。というのも、ジャンゴは楽譜が読めなかったので、曲を作るときは常にグラッペリがジャンゴの演奏を採譜しており、それがきっかけでグラッペリも作曲者として名を連ねることが多かったからだ (ibid.)。

それでも、ジャンゴは、この曲の作曲者は自分自身だけであると考えていた。1937年にアメリカのラジオに出演した際にホストのポール・ダグラスPaul Douglasがジャンゴよりも先にグラッペリの名前を先に紹介し、アナウンサーのエドワード・マロウ Edward Murrowが「ジャンゴロジー」をグラッペリの作曲だと紹介した。これにジャンゴは激怒し周囲がなんとかなだめラジオをやり切ったことがあった。こうした間違いは仕方がない部分があることは確かで、当時のデッカではStephane Grappelly and His Hot Fourという名前でもシングルが売られていたからだ。ただ、ラジオでのジャンゴの演奏は荒れており、雰囲気もよくなかった。演奏後もジャンゴとグラッペリには少なからず遺恨が残ってしまった(ibid, pp. 122–123)。

「ジャンゴロジー」は、現在ではジャズ・マヌーシュのスタンダードとして広く演奏されている。ジャズの研究者のマイケル・ドレグニはこの曲を「ファッツ・ウォーラーのハニーサックル・ローズの優雅さを兼ね備えた親しみやすいメロディ」と評している。ちなみにジャンゴ自身は管見の限りでは8回この曲を録音している。

録音

Quintette du Hot Club de France (Paris, September, 1935)
Stéphane Grappelli (Violin); Django Reinhardt (Guitar); Joseph Reinhardt (Guitar); Pierre “Baro” Ferret (Guitar); Louis Vola (Bass);
記念すべき初録音。グラッペリとジャンゴのハーモニーからはじまる名演。私としてはこの曲はジャンゴが作曲した曲の中でも間違いなくトップ3に入る。

Django Reinhardt and the Air Transport Command Band (Paris, November 6, 1945)
Jack Platt (Direction); Herb Bass (Trumpet); Jerry Stephan (Trumpet); Robin Gould (Trumpet); Lonnie Wilfong (Trumpet); Bill Decker (Trombone); Don Gardner (Trombone); Shelton Heath (Trombone); John Kirkpatrick (Trombone); Jim Hayes (Clarinet, Alto Saxophone); Joe Moser (Alto Saxophone); Bernie Cavaliere (Tenor Saxophone); Bill Zickefoose (Tenor Saxophone); Ken Lowther (Baritone Saxophone); Django Reinhardt (Guitar); Eugène Weiss (Guitar); Larry Mann (Piano); Bob Decker (Bass); Bill Bethel (Drums);
ジャンゴとジャック・パロットの録音。ジャンゴは自身の曲をオーケストラやビッグバンドと一緒に演奏する、という夢を持っていた。この録音には不満も覚えたようであるが、必ずしも悪い録音というわけではない。むしろこうしたジャンゴ+オーケストラ、ジャンゴ+ビッグバンドというアイディアは2000年代以降に次々と実現し、人々の想像力を刺激している。

Django Reinhardt and Stéphane Grappelli (Rome, January-Febrary 1949)
Django Reinhardt (Guitar); Stéphane Grappelli (Violin); Gianni Safred (Piano); Marco Pecori (Bass); Aurelio de Carolis (Drums);
ジャンゴとグラッペリのローマ・セッション。ジャンゴのギターも洗練されている。

Stéphane Grappelli-Henri Crolla Quartet (Paris, 1954)
Stephane Grappelli (Violin); Henri Crolla (Guitar); Emmanuel Soudieux (Double Bass); Mac Kac (Drums)
グラッペリとアンリ・クロラの録音。アンリ・クロラはイタリア人のギタリストでジャンゴとも仲も良かった。ここで聴ける二人の演奏はもう素晴らしい。グラッペリはそれまでのジャンゴロジーのどの録音よりも熱が入っている。50年代のグラッペリの中でも一番の名演かもしれない。またクロラはジャンゴのスタイルを踏襲しつつ独自のコード・ソロを披露している。

Stephane Grappelli (London, June 1972)
Stéphane Grappelli (Violin); Alan Clare (Piano); Ernie Cranenburgh (Guitar); Lennie Bush (Bass); Chris Karan (Drums)
70年代のグラッペリ。ヴェテランの域に達した時期で、この頃の演奏もどれも素晴らしい。非常に細かいフレーズをこれでもかと弾きまくっているんだけど、隙間も美しい。とても好きな演奏。

Biréli Lagréne Gipsy Project (Paris, January 4–6, 2002)
Biréli Lagrène (Guitar); Florin Niculescu (Violin); Holzmano Lagrène (Guitar); Hono Winterstein (Guitar); Diego Imbert (Double Bass)
ビレリ・ラグレーンの録音。ラグレーンのギターのかっこよさよ。超絶技巧なギターの中にほんのりブルージーさも兼ね備えているところ、そして弾きまくるところと音数を少なめにするところの対比がかっこいい。また、2000年代のフローリン・ニクレスクの大活躍っぷりも味わえる。そしてこの録音ではディエゴ・インバートのベースに耳がいく。アルコがかっこいい。

Pierre Blanchard & Dorado Schmitt (Paris, March-April, 2004)
Pierre Blanchard (Violin); Dorado Schmitt (Guitar); Samson Schmitt (Guitar); Diego Imbert (Double Bass)
ピエール・ブランシャールとドラド・シュミットの録音。ブランシャールといえばグラッペリの愛弟子という謳い文句があると思うんだけど、それを踏まえても踏まえなくても、とにかく惚れ惚れするようなヴァイオリンを聴くことができる。繊細なんだけど艶やかな音色で私は非常に好み。またドラド・シュミットのソロもオブリも美しい。

The Gary Potter Quartet (London, September 3, 2007)
Gary Potter (Guitar); Ducato Piotrowki (Guitar); Kevin Nolan (Guitar); Andy Crowdy (Bass)
イギリスを代表するアコースティック・ギタリストのギャリー・ポッターのライブ実況録音。全編に渡って彼がギターソロを披露しており、ライブならではといった感じがよき。

Reinier Voet And Pigalle44 with George Washingmachine (NOT GIVEN, Released in 2008)
George Washingmachine (Violin); Reinier Voet (Guitar); Jan Brouwer (Guitar); Simon Planting (Bass)
オーストラリアの行ける伝説ジョージ・ウォッシングマシーンとレイニエル・フートの録音。フートのギターがひたすらにかっこよい。とてもダンサンブルでとくにソロ終わりのコード・ソロが好み。またテーマのアレンジもかっこいい。

Gonzalo Bergara (USA, 2009)
Gonzalo Bergara (Lead Guitar); Jeff Radaich (Rhythm Guitar); Brian Netzley (Bass)
ブエノスアイレスを代表するギタリストであるゴンサロ・ベルガラのアメリカツアーでのライブ実況録音。ややスモーキーな音質ではあるんだけど非常にいい感じに脱力したギターが知的に感じる。

Symphonic Django (Paris, Febuary 14, 2009)
Stochelo Rosenberg (Guitar); Florin Niculescu (Violin); Jon Larsen (Rhythm Guitar); Per Einar Watle (Rhythm Guitar); Svein Aarbostad (Bass); Per Ekdahl (Arrangement); Peter Sebastain Szilvay (Conductor); Kristiansand Symphonic Orchestra (Orchestra)
ヨン・ラーセンがプロデュースしたストーケロ(ストヘロ)・ローゼンバーグのシンフォニック・ジャンゴの録音。これがライブでの実況録音なんだからすごい。ヨン・アンド・ジミーのドキュメンタリーでも言われていたが、ラーセンは本来はジミー・ローゼンバーグに頼むつもりだったようで、それが叶わずストーケロが抜擢された。と言ってもここで聴けるストーケロはとんでもない。それと私としてはやはりフローリン・ニクレスクのヴァイオリンに耳がいく。すべての音色が美しい。とても祝祭的な録音でもっとも好きな録音の一つ。

Ritary Gaguenetti, Paulus Schäfer, Andy Aitchison, Ducato Piotrowski & Noah Schäfer (London, January 17, 2010)
Ritary Gaguenetti (Guitar); Paulus Schäfer (Guitar); Andy Aitchison (Violin); Ducato Piotrowski (Guitar); Noah Schäfer (Bass)
リタリー・ガゲネッティとパウルス・シェーファーがリード・ギターとして、アンディ・アイチソンがヴァイオリンでリードをとっている。それぞれのソロが非常に白熱しているだけではなく音色が素敵。これは生で見たかった。

Daniel Weltlinger (Syndney, 2010)
Daniel Weltlinger (Violin); Nigel Date (Guitar); Peter Baylor (Guitar); Stan Valacos (Bass);
オーストラリアのダニエル・ウェットリンガーの録音。イントロはまさにQHCFを模している。ウェットリンガーのヴァイオリンも初期のグラッペリのようでかっこよい。

Les Mouches de Paname (NOT GIVEN, Released in 2010)
Protokol (Guitar); Laure (Violin); Loic Devillers (Guitar); Jean-François Rault (Bass)
ル・ムッシュ・ド・パナームの録音。メンバーがわからないのだが、ギターだけでアンサンブルを作っている。

The World’s Fiest Apples (New Orleans, Released in 2015)
Nahum Zdybel (Guitar); Keith Penney (Accordion); Molly Reevs (Guitar); Kellen Garcia (Bass)
ニューオーリンズで活動していたワールズ・ファイネスト・アップルズの録音。現在は活動していない。ネイタム・ズディベルとキース・ペニーがリーダーシップを取り、モーリー・リーヴスとケレン・ガルシアががっぷり支えている。またリーヴィスのファンとしては見逃せない録音。

Thomas Baggerman Trio with Tim Kliphuis (NOT GIVEN, Released in 2015)
Thomas Baggerman (Guitar); Fritz Landesbergen (Guitar); Maarten Hogenhuis (Bass); Tim Kliphuis (Violin)
トマス・バガーマン・トリオにティム・クリップハウスが参加した録音。とても堅実で完成されている。ホットなんだけど大人の余裕的な演奏。クリップハウスはやはりグラッペリを踏まえつつも

Ben Powell (LA, Released in 2016)
Ben Powell (Violin); Gonzalo Bergara (Lead Guitar); Jeffrey Radaich (Rhythm Guitar); Gage Hulsey (Rhythm Guitar); Nick Ariondo (Accordion); Benjamin May (Bass)
イングランド出身でアメリカで活動しているベン・パウウェルの録音。ゴンサロ・ベルガラが参加。もう最初に

RP Quartet (Paris, Released in 2016)
Edouard Pennes (Guitar); Bastien Ribot (Violin); Rémi Oswald (Guitar); Damien Varaillon (Bass);Arno De Casanove (Trumpet); Maxime Berton (Tenor Saxophone); Benoit Berthe (Alto Saxophone);
エドゥアール・ペンヌ率いるフランスのビバップ・マヌーシュの雄、RPカルテットの録音。実はそんなにビバップ感を感じないのだけれど、トランペット、テナー、アルト・サックスが入ったアレンジが本当にかっこいい。数あるジャンゴ・ビッグバンドのアレンジとは一線を画するアンサンブル。もちろんそれぞれのソロもかっこよく、とくにバスティエン・リボーのヴァイオリンは相変わらずかっこよい。

The Enion Pelta-Tiller Quartet (Denver, Colorado, September 1–2, 2021)
Enion Pelta-Tiller (5 and 6-String Violin); Darol Anger (5-String Octave Violin); Coleman Smith (5-String Violin); Joy Adams (Cello)
ダロル・アンガー門下のイーノン・ペルタ=ティラーのカルテットの録音。ダロル・アンガー自身も参加。すごく自由なんだけど美しい演奏。普通よりも多めの弦でお届けされている。

Daune Andrews (NOT GIVEN, Released in 2022)
Daune Andrews (Guitar); Donald MacLennan (Violin); Darren ‘Boobie’ Browne (Guitar); Jim Vivian (Bass)
デュエイン・アンドリューズの録音。MVがとてもかっこよい。ここではやはりアンドリューズがバンドを引っ張っている。アレンジがかっこいい。

Collectif Jazz Manouche (Caluire-et-Cuire, December, 2023)
Maxime Dauphin (Guitar); Jean Lardanchet (Violin); Lucas Muller (Guitar); Camille Wolfrom (Bass)
フランスで活動しているコレクティフ・ジャズ・マヌーシュの録音。ギターとヴァイオリンのユニゾンのテーマ。そこもかっこいいし、現代的なクールさもある演奏で、私としてはヴァイオリン・ソロの後ろのギターに萌える。YouTubeの動画も非常にかっこよい。

Zoran Schmitz Trio (NOT GIVEN, Released in 2024)
Zoran Schmitz (Guitar); Johannes Mandl (Guitar); Miha Lampe (Bass)
クロアチアのゾラン・シュミッツの録音。ヴァイオリンやクラリネットがないんだけど必ずしも不足を感じるわけではない。むしろこうなるべくしてなったような演奏。

Noria Letts (NOT GIVEN, Released in 2024)
Noria Letts (Vocal); Peter Baylor (Guitar); Esther Henderson (Violin); Dave Evans (Accordion);Tom Flenady (Bass);
オーストラリアのシンガーのノリア・レッツの録音。自身がオリジナルの歌詞をつけて歌っている。が、わたしはフランス語を聴き取れないのでわからない。とてもいい録音。映像があり、とっても楽しそう。


参考文献

Dregni, Michael. (2008). Gypsy jazz : in search of Django Reinhardt and the soul of gypsy swing. Oxford: Oxford University Press.


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