第六期ゲンロンSF創作講座 第三回課題「最小限の嘘で最大限の効果を」
ネコと和解はできるのか
日本のとある猫島で異変が起きた。猫たちによるストライキである。彼らは各々の住処にこもり、外に出てこなくなってしまった。
どんなおもちゃや餌を与えても効果がない。偶然外にいた猫を捕えても逃げられる始末。期待していた旅行客の怒りの矛先は、旅行代理店の担当者である小木曽マリに向かう。彼女は「猫は気まぐれですし」とかつての愛猫ジジを思い返してなだめつつ、現地を訪れた。
島を闊歩していた猫はどこにもいなかった。島民も初めての事態に戸惑っている。調査のため、マリは屋内へカメラ付きドローンや虫型のラジコンを送り込むが、猫たちのおもちゃにされ破壊された。なんとか撮影できた映像には、くすねられた袋入りのカリカリや、磯で狩ったらしい魚をむさぼる姿があった。苦肉の策で猫小屋に近づいたマリが猫語翻訳アプリを用いてみるも、「キライ」「近寄るな」「縄張りを荒らすな」と表示されるばかりだった。
ことは島にとどまらない。ローカル線の猫駅長スズは、帽子を食いちぎり脱走。縫製工場の猫社長ウニは、塗料つきの足で出荷前の服の上を駆け回った末、野良グループに加入。建築現場の猫監督オサは、地域猫を率いて固まる直前のコンクリートを踏み荒らし行方をくらました。世界でも役職に就いていた猫がボイコットを始めていた。牧師、船長、交通指導員、英首相官邸のネズミ捕獲長もが職務放棄した。ネズミの増えすぎで破綻したワイン醸造所もあった。各地の猫おばさんは「猫を大事にしないからだ」と騒ぎ立てた。
困ったマリは、猫語翻訳機の開発者・社ムガを訪ねる。そこでも社の助手だった猫ジョッシュが消えていた。だがジョッシュは、翻訳機に「人間どもよ、これは我々猫の抗議である。罪を償うがいい」と残していた。訳がわからないマリと社は翻訳機を手に猫島に赴き、猫たちへ会談を申し出る。
猫代表はボスとサブが応じた。彼らは、生活していた場所が勝手に観光地化され、押し寄せた人に無遠慮にカメラを向けられ、挙げ句モフられて安住が奪われたことの不満を語った。各地の猫も、職を押しつけられストレスだったという。
人間は待遇改善を約束、猫の自由を認めることで合意した。人類は猫と和解したのだ。社の猫語翻訳機も話題となり、注文が殺到した。
数日後、マリが猫島を訪れると、辺りを闊歩する猫たちの日常が戻っていた。マリはボスに「その後どうですか」と話しかける。翻訳機には「なんの話だ」と表示された。首を捻るマリの元へ、社からメッセージが入る。戻ったジョッシュの血液検査の結果、感染症の痕跡が見つかり、ほかの猫たちも同様に感染が確認できた。Necovid-22、ネコロナウイルスと名付けられたそれは、一時的に猫を凶暴化させるが、後遺症もないという。
マリは再びにゃあと鳴くボスに翻訳機を向ける。そこには「猫に振り回されるのが人間の最大の幸せだろう。励めよ」と記されていた。(1190字)
内容に関するアピール
猫に限らず、動物を使っておけば間違いないだろう、的な風潮が苦手だ。
とまで言い切る気はありませんが、その手のスケスケ明け透けな大人のあざとさは、時々辟易するのです。
「ヒトのエゴに対し、猫が突如反旗を翻したら」という設定にて。ドミノ倒し、難しい。
とりあえず書いている最中、デスクに飛び乗ってくる我が家の黒猫シュレディンガーがウザかわいかったです。
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