企業のサプライチェーンの人権対応をランキング~KnowTheChain(1)
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サプライチェーンにおける強制労働の問題に対する企業の取り組みを評価した、KnowTheChainによるICT部門ベンチマークの結果が6月9日に発表されました。
エレクトロニクス企業が対象となっており、アップルやインテル、HPなどのグローバル企業49社のうち、日本企業はソニーや日立製作所、キヤノン、パナソニック、任天堂など10社が含まれていますが、その結果はさんたんたるものでした。
(出典:KnowTheChain 2020 ICT Benchmark Findings Report)
でも、結果だけを見て終わりにするのは、あまりにもったいないと言いたいです。このベンチマークの評価指標は、サプライチェーンの労働者の権利を擁護する視点に立ったものであり、評価結果を「ランキング」ではなく「ベンチマーク」としてうまく活用すれば、実質的な人権状況の改善につなげるためのツールとなります。
今回から3回に分けて、KnowTheChain(以下、KTC)のベンチマークを解説しつつ、評価の高い企業に学びながら、自社の取り組みにどのようにつなげることができるかを考えていきます。今回は「まずは相手を知る」編です。
まずはKnowTheChainを知る
まず知っていただきたいのは、KTCの組織についてです。KTCは、国際人権NGOや投資調査・評価会社、民間財団のネットワークで、それぞれの団体・組織が強みをいかし、活動しています。
企業にサプライチェーンにおける人身取引・強制労働についての情報開示を義務化する米国カリフォルニア州サプライチェーン透明法制定(2012年)をきっかけに設立され、企業や投資家に対してサプライチェーンにおける強制労働の情報提供を行うことで、企業の説明責任や透明性の促進をめざしています。
ベンチマークは隔年で実施されており、サプライチェーンの強制労働が起きやすい ICT、食品・飲料、アパレル・フットウェアの三部門について、それぞれ50社ほどを評価しています。
まずは、KTCに関わっている団体・組織をそれぞれ見ていきましょう。
事務局機能を担う「ビジネスと人権資料センター」
KTCの事務局機能を担っているのが、ビジネスと人権資料センター(Business and Human Rights Resource Centre/英国)です。企業が関わる人権問題の情報発信や企業への改善の働きかけを行っている国際人権NGOです。日本の窓口を務めているのが、わたしたちSCHRのメンバーである佐藤暁子さんです。
KTCでは、企業とのエンゲージメントを行っているこの団体の強みがいかされており、ベンチマークが一方的な評価にならないよう、対象企業は必ずこの団体から連絡を受けて、双方向でコミュニケーションをしながら、KTCの評価に対して追加説明をしたり、情報を提供したりすることができます。
この団体のサイトは、ビジネスと人権に関する情報のポータルサイトとなっており、企業名や業界、国・地域、人権イシューなどのさまざまな切り口で、企業に対するNGO等からの申し立てやメディアの記事の検索が可能で、申し立てに対する企業の回答も見ることができます。
サプライチェーンの人権リスクを指摘する「ベリテ」
サプライチェーンの実際の労働問題について重要なインプットをしているのが、国際NGOのベリテ(Verité/米国)です。アップルやギャップ、パタゴニアなどのグローバルブランドと連携し、サプライチェーンの労働環境の改善に取り組んでいる団体なのですが、日本ではほとんど知られていないのが残念です。
ベリテや米国国務省などが連携して公開している「Responsible Sourcing Tool」は、人権侵害のリスクが高い原材料や生産地を調べることのできるサイトで、サプライチェーンにおける人権リスクを把握するのに役立ちます。
KTCにもベリテの高リスク原料や国・地域の情報がインプットされており、ベンチマークでは、高リスク原材料の原産地や高リスク国・地域のサプライヤーを把握し、人権への影響評価を行って、その結果を情報公開することを企業に求めています。
評価指標開発や企業選定に携わる「サステナリティクス」
企業にとっては、投資調査・評価会社のサステナリティクス(Sustainalytics/オランダ)がいることで、KTCの評価結果が受け入れやすくなっているかもしれません。同社は、ベンチマーク評価指標の開発や対象企業の選定に貢献しています。
企業の事業活動を環境や社会への影響とその対応で評価し、長期的な視点で投資を行うESG投資が国際的に注目されていますが、同社はこの分野の投資調査・評価の先進企業です。人権は社会面の最重要項目で、サプライチェーンの労働問題も含まれています。ESG投資と人権のつながりについては、また別の記事でご紹介します。
KTCが今年から導入した、対象企業ごとのスコアカードは、同社の企業評価のフォーマットを思わせるところがあり、企業がサプライチェーンの取り組みの改善を促し、投資家が企業へのエンゲージメントを強化するためのツールとして活用できます。また、KTCでは投資家向けの報告書も出しています。
プロジェクト全体を支える「ヒューマニティ・ユナイテッド」
ヒューマニティ・ユナイテッド(Humanity United/米国)は、KTCのプロジェクト全体を支える運営主体です。米国のeBay創業者であるオミダイア夫妻が設立したグローバルな社会課題に取り組む民間財団で、人身取引や強制労働は主要な取り組みテーマの一つとなっています。
サプライチェーンの労働問題に対して、企業や投資家の具体的な行動の変化を促すKTCベンチマークは、既存の社会システムの変化による課題解決をめざす同団体の試みの一つだと言えます。同団体のアプローチについては、国内の社会課題解決に取り組んでいるNPO、ETIC.が運営するサイト「DRIVE」の記事に詳しくあるので、ぜひご一読ください。
まとめ
こうしてKTCに関わる組織の特徴を見ていくと、ベンチマークを通して実現したいことが見えてきて、企業や投資家にどのような変化を求めているのか、評価指標で何を確認しようとしているのかがわかってきます。
ビジネスと人権に関わる組織には、それぞれの特徴や強みがあるので、そうした違いを知っておくと、企業の人権リスク把握のための情報収集やエンゲージメントの対応に役立つのではないでしょうか。
Social Connection for Human Rights/土井陽子
<KnowTheChain(2):「評価指標を見てみる」編に続く>