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文学について

 近代の文学というものを、あえて美化して捉えると、それぞれの思想とか主張が色濃く作品の中に含まれていると思う。単にストーリーを作るのではなく、それを作らないといけない必要性が先にあって、追い立てられるように作品が生まれていった。個人が思想を迫られる時代だったのかもしれない。


 思想というものが人を動かす力を持っていた時代だからこそ、文学というものが社会の中で大きな意味を持ち、能力の高い人間がそれに取り組んでいたのだと思う。文学的な作品を作ることを生業としながら、それ自体が目的ではなく、思想するという目的のための一つの手段であったように思う。


 読んだ人間にもそれは自然と伝わってくる。感化されすぎてしまうこともある。


 今の日本はあまり思想を必要としない時代なのかもしれない。誰かに聞かなくても生きるために必要なことをすでに知っていて、文学に与えられた役割は、娯楽なのだ。感情を揺さぶることはあっても、思想に影響を与える必要はない。消費される本を作ることが大事だ。


 文章は巧みだ。頭の中で面白い物語が再生されていく。面白い登場人物が、面白いことを言う。でも、一行の文を1日かけて読むようなことはない。本を書くことを仕事としている人の多くが、本を書くために費やす時間がそれほど多くないのではないかと思う。一生かけて書かれた一冊の本では、生活できない。でも一人の読者として、読みたいのはそんな本だ。


 あの作者は、あれしか面白くないよと思われる本を読みたい。一人の人間の人生が詰まった脈打つような本を読みたい。

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