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教育の地殻変動をどう引き起こすか~企業・NPO・学校教育を牽引する3人の第一人者からのエール~

2018年に文科省若手官僚とNPO法人ETIC.の有志とが事務局となって始まった「教育・学びの未来を創造する教育長・校長プラットフォーム(以下、PF)」も結成からまもなく4年が経過します。この間、PFをきっかけに新たな取組が生まれたり、繋がりのなかった参加者同士が意気投合してお互いの地域を訪ね合うような関係性が育まれたり…と、立ち上げ当初時点では想像もしていなかった様な、数々のドラマと目に見えるアクションが生まれてきました。
 特にこの取組を通じて、教育現場を変える権限と意欲を持った教育長・校長の皆様300人以上と出会い、場を共にして歩んで来られたことは、私達PF事務局メンバーにとってもかけがえのない財産になっています。
 今回、PFをさらに飛躍させていくためにどんなことができるか話し合いを重ねていた折、企業・NPO・学校教育のそれぞれのフィールドで第一線を走ってきた3人の皆様より、対談という形でPFへの期待や日本の教育のこれからについてのご意見を頂戴する機会を得ました。
 当初非公開の想定で企画した対談ではありましたが、大変示唆に富んだ議論が広く展開されました。事務局内でとどめておくにはもったいないと考え、本稿では、3人の皆様の所属・氏名については匿名のまま、そこでやり取りされた内容の全貌をご紹介させていただきます。
(注)非公開を前提に自由闊達な議論を行っていただいたため、個人が特定されそうな記述については一部内容を修正しています。また、参加者についてのお問い合わせについては、一律回答を差し控えさせていただきます。
 

ー次の世代のリーダーをどう発掘、育成していくか? (1)

事務局:今日はお集りいただきありがとうございます。私達PF事務局の最近の課題の1つとして「教育『全体』を良い方向に動かすにはどうしたらよいのか」ということが挙げられます。これまでの活動を通じ、例えば秋田県内の教育長と横浜市内の校長がPFで繋がり互いの教育実践を高め合うなど 、この活動をきっかけにした繋がりと対話が生まれ、そこから新たな展開が起きるなど、手前味噌ですがPFの存在価値に自信を持てる事例も増えてきました。しかし、あえて批判的に総括すれば、PFにご参加いただいているのは、一部の情報感度の高い皆様に留まっているのが現状とも言えます。
「どうしたらもっと多くの日本全国の教育長・校長を中心とした教育関係者の皆様にご参画いただけるプラットフォームになれるのか?」
「もっと大きなうねりや教育全体の地殻変動を起こしていくにはどうしたらよいか?」
当たり前といえばそれまでですが、「一部」の繋がりによる良い実践の模索を積み重ねてきた今だからこそ、改めて「全体」に思いが至り悩んでいます。まずは、教育長のお立場としてご参加いただきました教育長にお伺いできればと思うのですが、口火を切っていただけますでしょうか。

市教育長:そうですね。私の実感として、どこの組織にも「なかなか変革が起きにくい2割」というのは存在しますし、全国1,800近い自治体がある中で温度差が出てくるのは致し方のないことということも感じます。市町村教育委員会の中では指導主事がいないというところも3割近くあるわけですから、そこで、「どうにかがんばれ」といわれてもがんばれない状況もある。だとすると、上位2割をさらにパワーアップさせていくとか、地方ごとに繋りができて「こういうやり方もできるんだ」ということで切磋琢磨し合うきっかけを創ることも価値あることなのではないかと思いました。
 もう一つは、マーケティングなんかでも「インサイト」という言葉がありますが、人の心を動かすためには、「そんなことはもう知ってるよ」というような基礎的なことではなく、一方で「あそこだからできるんだという特異な実践」ということでもなく、ちょうど真ん中の納得解(腹落ちできるような)のようなものを示していくことが、長続きしていく意味では大事なのではないかと思いますね。マッチョイズムでもなく、当たり前過ぎもしない、その中間の納得解を探っていくべきところに来ている気がします。

企業経営者:お話をお伺いしていて、民間企業にも相通ずるものがあるなと感じました。私は教育の仕事をしてきた人間ではないので、外から日本の教育の色々な問題を見ていて、「よほど文科省が考えなしに政策を進めているんだろうな」と思っていました。でも、少し勉強してみると、圧倒的に正しい戦略とプランを出していらっしゃるということがわかった。
 だとすると現場がよっぽどダメなんだろう、と思って調べていきました。そうしてみると現場は現場で素晴らしいリーダーシップを発揮されている方が点在されている、そういう印象を持ちました。
 実はこういうことは、よく企業でも起きるんです。今でしたら、DXとかグリーン改革とか経営トップの大号令がかかって、本社や経営企画のメンバーなんかが旗を振って施策を打ちだします。たいていその時点では、非の打ちどころのない綺麗なプランニングなんです。でも時々刻々色々状況が変わっていく中で、例えば役員同士の仲が悪い・部門間のやり取りが希薄といった人間的な現象の中で、どんどんプランがぶれたり、盛られたり、ズレたり、やることばかりが「机上の空論」で増えていき、現場が追いついていかなくなるという現象が起きることがあります。でも一気に色々変えないと現場はそれまでのやり方を変えていないわけだから、改革を全うしきれないんですね。今の教育はややもするとそれに近い状況になっているのではないかと感じました。
 企業の場合は、能力をもった人に影響力を与える形でブレイクスルーさせていきます。次世代リーダーを計画的に探して育てていくことも一般的です。成績優秀な人もそうですが、会社に文句ばっかり言っているような異端児的な人の中に逸材がいる場合もあり、正式な研修や飲み会での噂も含め情報を集めながら、その人に権限を渡していくことをするわけです。そうすることで、10人の部下を持つ立場だった人が1,000人の部下を持つことになり、その人の薫陶を受ける人が一気に増えることになる。そうすることで、一気に変革を推進していくんです。
 でも、学校教育の場合は、言い方はよくないですが、出世しても教育長どまり。これはもったいないとシンプルに思います。もちろんオフィシャルに文科省や人事的な政策の中でしくみを変えていくアプローチもあるのでしょうが、それは時間がかかりますよね。せっかく良い教育長・校長がいて、良い取組があるのに、レバレッジを利かせられない原因って何なんだろうと探究していたんですが、答えは見つかりませんでした。だから、運動的にやっていくしかないんだなと思ったんですよね。3年後に、量的・質的にどのくらいを目指すのかを掲げ、限られた時間の中でも、事務局の方達のリソースを割きつつ、まず目標と組織を作って、それで運動的に拡げていくしかないのかなという気がします。

NPO経営者:お二人のお話はいずれも示唆的でしたね。今テーマになっている「レバレッジをかけていくことへの戦略」に対して運動的にPF事務局メンバーがやれることという意味では、参加する教育長・校長の一人ひとりが当事者性を発揮して頂くことをどう引き出していけるかが重要なのではないかと思っています。
 震災の被災地でも住民が復興に携わっている地域は満足度が高いというデータがあり、まさに今はひとりひとりが主体的に地域づくり関わり、解を創り出していくような、「自治の在り方が変わるべきとき」に来ているのだと思います。教育においては良くも悪くも明治以降の流れで「お上」が考えることが正しいことであって、それを実施していくという体制が築き上げられているんだと思うんですが、事務局チームが頑張ってPFが単純に大きくなるだけだと、今度は新しい「お上」のようにもなり、主体性が削がれ制限がかけられてしまうことにもなりかねない。ここのプラットフォームは若手官僚がリードしてやってきたことが端を発していると思うのですが、もしこの現状から飛躍するとしたら、教育長・校長のイニシアティブで皆さんが主体的に参加し運営していくというスタンダードを作ることに突破口があると思います。教育長・校長が主体的に運営するプラットフォームへの進化です。
 これ以上レバレッジをきかせて拡げる為には、教育長・校長がこのプラットフォームに関わり、運営する主体としてとらえてもらう場に変質できないかというのが当初からもっていた問題意識でありました。そこに挑めるのであれば、このプラットフォームが突き抜けられる可能性があるのかなと思っています。

市教育長:私は、PF設立当初から参加させてもらっていますが、改めて今のお話を伺って、「いつまでも文科省の皆さんに頼るのではなく、続けていくために自分達が学びの主体者になって、自立しましょう!」と呼びかけたいと思いました。やはり、誰かに頼らないでやれるような何かを創っていくというのは非常に大事なんだろうなと。よく企業でやられているアーキテクチャというんですかね、教育のパターン化を見出して、アーキテクチャを創り出していくというのは本当にやらなくちゃいけないと思っているんですよ。
教育にはたくさん暗黙知がありますが、なかなか共有できないんですよ。別にそうすることで、金銭的な利益があったり給料が上がったりするわけではない中で、目の前にある子どもをよくしようということだけで教員たちは挑戦しています。教員は「まじめさだけは絶対に負けない」という自負は持っていると思うのですが、そこが空回りしちゃっている部分があるように思います。
 
NPO経営者:今のお話で言うと、PFにシンクタンク的なものを実装していくのは、「あり」だと思います。そこに民間企業側のコミットを引き出して、民間に参画してもらうことでレバレッジをかけていくというやり方も十分あり得ると思います。

事務局:ここまでのお話を伺って、少し光が見えてきました。オーナーシップをだれが持つかはその時その場面次第ですが、熱を共有しつつ、機会としてはいろんな形で開放していけるのかな、というビジョンが見えた気がしました。続いて、次世代の育成というテーマで是非ご意見伺っていきたいです。

ー次の世代のリーダーをどう発掘、育成していくか?

企業経営者:よくうちの会社でも「社員研修」を開催したりもしますが、それって平均点を上げることしかできなくて、カリスマや真に成果を上げる人物は勝手に育ってくる部分があるんです。報酬ややりがいというインセンティブがある中で、おそらく8割ぐらいの人はそれなりに頑張って成果を上げようとすると思うんですね、その中で目立つ成果を上げるリーダーが出現する。でも、公務員はそういう報酬面での仕組みにはなっていないですよね。そんな中でも伸びる可能性のある白地のある人たちをターゲットに、それぞれの世代ごとに主体性ある人たちの母集団を作って引き上げていく、そういう事なのかなと思います。 念のためお伝えすると、「運動」といってもどう裏で仕込むのかが大事だと思っています。次世代リーダーを育成するときに、「会社に文句言って起業しよう」と言っている者にその気になってもらうために、たきつけたり、プロジェクトを任せたり…と色々裏で仕込むことをします。主体性を引き出すために、きれいごとばかりは言っていられないところもあると思うので、お膳立てはするものの、教育長・校長さんが、いつの間にかPFに対して当事者意識を強く持ってもらうというやり方が重要だと思いました。

市教育長:PFの活動でも設立当初は「教育長・校長本人だけでなく、ぜひ「右腕」となる人物も一緒に参加してほしい」との呼びかけがありましたね。ここ2年はコロナの影響でオンライン開催なので言わなくなってしまいましたけど、あれは案外次の世代を育成する意味でも大事だったと思うんですよ。
 また、地域キャラバン的にPFのイベント開催する際にも、地方が順番に当番をやっていくようなやり方もありだと思いますね。ただ、ある程度の伴走も必要になると思うので、コーディネーターとして文科省が関わる、主体はやる気のある教育長・校長がやっていく、自治体によってテーマや地域性等あって構わない。そういった、仕組みが機能して、現場の教育長や校長が主体性をもつような取組にそろそろシフトチェンジしていくような時期なのかなと思いますよね。
 先進的な教育の在り方とか、流行りものについてもワクワク感あるものを欲している人たちと、そんなことはいいから当面目の前にある課題を解決していきたいという人たちと大きく二つ分かれると思うんですね。今までのやり方ではその両方のニーズには対応できないと思うんですね。
 ぶっ飛んでいる改革について議論する回があってもよいし、働き方改革にテーマを絞って議論する回があってもいいし、地域ごとの企画者のニーズに応じたやり方を拡げることが、遠回りなようで着実に拡げていく活動なのではないかとも思います。都度都度、地方本部へ材料を提示しながら自走していってもらうというやり方が一番盛り上がるのかなという風に思いますね。

NPO経営者:お二人から研修や人材育成という表から変革を進めていく流れと、一方で、運動論的に進めることと両方の角度からお話が出ているのが非常に興味深いですね。実際にはどちらもやらなければならないと思うんですが、ごっちゃになると両方の可能性をそいでしまうきらいがあります。次のステージはそこのスタンスを明確にして、運動論においてもミッションビジョン、ゴールを民間の方々にも納得いただけて応援していただける構造と戦略を創るということを改めてしてもよいのかなと思いました。
 最後にお2人からぜひ触れていただきたい事があります。企業経営者さんからは、「民間がこの動きにコミットしていくために、事務局としてどういうアプローチをしてくれると協力しやすいか?」という点でぜひご意見をお願いします。教育長からは、「より多くの教育関係者にこの動きに参画していただくために、表から仕掛けたほうがよいこと」という観点でのエールをお願いします。

企業経営者:本日はありがとうございました。
大手かつグローバルで戦っている企業にとって、中期的に文科省がプランとして掲げている教育の方針には大賛成なんですね、「主体的・対話的で深い学び、個別最適な学びと協働的な学び、脱画一化」といった方向感には100%同意で、とにかく早く、一刻も早く実行してほしい。目の前で食うか食われるかの戦いをしている中で、個々の主体性がなければ勝てない時代になっているんです。PFがシャープなアジェンダ設定、シャープな役割提示をしていただければ、自分達のリターンとか計算できますのでおそらく他の企業も含め、協力できることはあると思います。

市教育長:私も、今日お話していく中で、まだまだ頑張らなきゃなという気になりました。
これからのPFの在り方でどうしたらよいかを一言で言えば、いかにして1回1回を「参加してよかったな」と思う場にできるかに尽きると思います。そう思ってもらえば、次への動機・活力になる。もういいかとおもったら、広がらない。お土産を1度1度どうもたせるかが非常に大切です。
 あと逆にお願いしたいと思っているのは、「学校は企業に学べ」ということはよくいわれることだと思うんですけど、逆に「企業は学校に学べ」といわれることは、ほとんどないですよね。学校には学校の良い文化があるんですが、企業から見たら特異な組織ということもあって、教員がリスペクトされていない。企業とも対話の機会が持てて、本音で意見を言い合えたり、お互いがお互いを知れるということがプラットフォームでできると、もっと社会に開いていくという意味で大事かなと感じました。

事務局:今日はありがとうございました。たくさんの愛ある宿題をいただいたなという風に思っていますので、引き続き皆さまよろしくお願いいたします。


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