スクールロイヤーの考える「いじめ対応、最初にやるべき3つの柱」
大概いじめ対応でミスってるときは、このどれか一つがちゃんとできていないのさって話。
いじめ対応をこなす中で見えてきたもの
自分がスクールロイヤー的な仕事を始めてから、大なり小なり、学校のいじめ対応について納得がいきません!という類のクレームを色々受けてきた。
そして、クレーム捌きながら謝ったり謝らなかったりリカバリーしていく中で、学校のミスも大まかに分類ができてきた。
まず、学校のミスというのは、大きく「やり忘れ」と「やり間違い」がある。やり忘れというのは、やるべきことをそもそもやらないこと、やり間違いというのは、やるべきことのやり方が不適切なことをさす。
いじめ対応の例で言えば、そもそも調査をしないのがやり忘れ、調査の聞き取りの仕方がおざなりなのがやり間違いだ。
そして、不当なクレームというのもこれに合わせて分類すると、やらなくていいことを、やるべきこととして要求してくるのが「過剰要求」、誤ったやり方を適切なやり方として要求してくるのが「不当要求」といえる。
今回は「やり忘れ」の話
何が適切な対応かは、またそのうち書いていきたいけれども、今回はいじめ事案発生時にまずやるべきことについて大枠をまとめておく。
結論を言ってしまえば、それは
① 調査
② 再発防止措置
③ 支援
の3つだ。
そして、ここで、あれ?指導は?と思った人は危ない。一つずつ説明していこう。
調査
まずは、いじめが起きたら事実確認、調査を必ずやる。これはいじめ防止対策推進法に明記されており、学校は確実にやらなければならない。
これについて、「被害を訴えた側が強く求めなかったから調査をしないでおいた」と後で学校から聞くことがあるけれど、はっきり言って違法なので本当にやめた方がいい。訴えた側から「絶対にやめてくれ」と懇願されるくらいの強い拒絶がない限りはやるべきである。どっちでもいいと言うならやる、ちょっと不安なくらいでもやる。それが法律上の義務である。
再発防止措置
再発防止措置というのは、訴えの内容が真実かはさておき、訴えの内容と同じようなことが起きないように行う措置である。
暫定的、緊急的な措置であり、ここに指導は含まれない。
何をどこまでするかはさておき、具体的な措置としては、
・訴えた子と訴えられた子(達)が接触しやすい場所、時間に大人の目を増やす。
・訴えられた子に、訴えがあったということを伝える
・訴えた子、訴えられた子それぞれに、大人が定期的に声をかけ、本人の状態を確認する。
といったことが挙げられる。
これは、いじめ防止対策推進法が再発防止を目標にしていることからも望ましい措置といえる。
まぁそんな法律の要請よりなにより、これをやらないで学校での事案再発をろくに防げずにいると、調査すべき訴えが雪だるま式に増え、当事者からの信頼もどんどん失われていき、学校現場がみるみる炎上、疲弊する。なので、しっかり学校として対応した方が絶対に後々楽になるという意味でも、実施を強くお勧めする。
支援
支援には大きく二つ、心理的支援と福祉的支援がある。
心理的支援というのは、訴えた子の心の支援がまず挙げられる。組織としての調査結果が出る前でも、訴えた子との間で、本人の傷つけられた認識を受け入れ、心理的なケアを実施することはできる。訴えられた子からの謝罪は傷を癒す一つの手段だが、それ以外の心の癒し方はあるし、謝罪では癒やされないことだってある。
また、訴えられた側も実はその前後で訴えた子から嫌なことをされていて、傷ついていることはよくある。訴えられた側にも傷つきはないか確認し、心の支援をしてあげることはとても大切だ。この対応は、学校対応の中立性という意味でも大きな意味を持つ。
福祉的な支援というのは、訴えの背景に、訴えた側、訴えられた側のどちらかが生きづらさを抱えている場合に、その改善を図っていくことである。生きづらさというのは、その人の特性だったり、障害だったり、家庭環境だったりいろいろ考えられるけれども、そういった部分へのアプローチをするのがこれに入る。
これらの支援は、↓の記事にも触れた、心のコップの水を溜めない、水の抜き方にも関わる部分になる。とても難しく、悩ましい部分でであるが、指導同様か、それ以上に大事ないじめ問題の根本的な解決に関わる部分じゃないかなと個人的には思っている。
ここは学校の教育的な専門性や、学校の施設管理権ではカバーしきれない分野でもあるので、スクールソーシャルワーカーに相談しつつ、適切な心理、福祉の専門機関をガンガン活用してほしい。
指導はいつ?
そして、なぜ、この3つの柱と並べて指導を挙げていないのかといえば、「指導は調査の後にすべきことで、まずやるべきことじゃない」からだ。
特に被害を訴える側がカンカンに怒っている場合、早く指導しなきゃ!と学校側から私もよくせっつかれる。
もちろん、指導すべき場面と指導実施までの時間が開いていない方が、指導の効果がより期待できることはわかる。
しかし、上でも引用した↓で少し書いたけど、いじめ予防に実効的な指導をするには、まずはしっかりと背景も含めて学校が把握しなければならない。「どうすればよかったか」を教えるのが実効的ないじめ予防に繋がる指導であり、そのためには「どうして加害をしたのか」を丁寧に聞き取り、把握しなければならない。
早く指導をしたいなら、早く調査をしてくれい
そんなわけで、いじめの訴えを受けたら学校は、調査、再発防止措置、支援をまず始めて欲しい。この三つはどれが先ということもなく、どれかをしなければどれかができないということもない。三つ同時に並行して始めるべきだし、忘れないよう学校のいじめ防止基本方針に明記してもいいかもしれないくらい、大切な大枠だと思う。
もっとも指導計画を立てるのは調査結果が出た後になる。指導をしたいなら早く調査をして欲しいし、調査なくてして指導できると思っていたらその考えは改めて欲しい。
また、調査で分かった結果から、更に踏み込んだ支援ができるようになるかもしれない。指導計画を練る中で、学校として支援のあり方も同時に考えていくことになるかもしれない。
まとめれば、兎にも角にも事実確認をし、さらに並行して再発防止に向けた学校でできる決め事を作り、実践し、更に並行して心理や福祉の関係機関をガンガン活用しながら支援計画を実施する。指導は事実確認(背景、動機の確認)の後だ。また、事実確認の結果は、再発防止措置や支援にもフィードバックする。これが、教育の専門家として期待される大きないじめ対応のフローとなる。