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制作のために2年間を買った話

奇抜なタイトルからコンニチハ。ちょうど今日、大学院を修了してきました。2年間を振り返って雑記です。

※個人差、ゼミ等の環境差あると思います。一般論にする気はさらさらありません。


私は、大学4年生の春に謎解きと出会った。

初めて謎解きに触れ、その楽しさを知り、自分でも作る方へシフトした。講義がほぼなく、卒論をポツポツと進めるだけの4年生は、謎解き制作を満喫するのになかなか適した時期だった。しかし、足りなかった。1年では到底足りないと感じたのだ。

だから私は、買うことにした。人生の夏休み、2年分を。


大学は人生の夏休みとはよく言ったもので、多少の講義や課題はあるにせよ、平日17時以降の自由と土日祝、1年当たり約4ヶ月の休暇を比較的簡単に得られる期間である。一般的に、その素晴らしい夏休みは4年で終了してしまうが、2年延長する方法が存在する(わざと単位を取り残して留年する、転入学するといった特殊ケースは除いておいてほしい)。

それは大学院への進学である。

そこそこ勉強し、試験に受かりさえすれば、人生の夏休み2年延長券を約130万円~で購入できるわけだ。働いていなくても違和感のない状況と修士号もついてくるお得セットである(※親にその費用を出してもらっていたらニュアンスが変わってくると思うので、学費はバイト代で賄っていたことを書き添えておく)。

もう少しフリーダムな日々を送っていたい、なんて前面的に押し出すとよろしくないが、2年かけてより専門的に学びたい、修士号を取ろうと思うなどをメインで説明すれば、大賛成かどうかは知らないが、反対はされなかった。ただ、ここで一つ誤算があった。周囲からの反応ではない。単純に自分自身。困ったことに、人は、どうせ行くならと思ってしまう生き物であるようだ。気付けば、卒業要件単位が通常の2倍の微多忙コースで申請を出していた。こうして、当初の予定の7割クオリティで延長戦がスタートした。


本来、大学院というと、専門性を高める、研究に携わる等が主だと思われるが、その辺はオマケ、附属品。一週間の中でどのくらい自由な時間を作れるかを中心に考えた。

まず、共通単位の講義、コース必修の講義のパズルをがちゃがちゃして、全休(講義のない曜日)を作り出した。全休があると何が起きるか。その一日が自由に使えるのはもちろんのこと、睡眠をないがしろにしても講義への影響がないので、前日からの夜中の時間も爆誕するわけだ。

次に課題と出席管理。せっかく苦労して前期の週4日に詰め込んだ講義たち、単位を落としては元も子もない。落として取り直すのは時間の無駄、フル単こそ最大の時短。平常点はきっちりいただいておくのが吉だ。

最後は取捨選択。自由参加系のものは影響が小さければ排除、2年間を楽しみたいという思いとのバランスを取りつつ淘汰した。

さらに偶然ではあるが、コなんちゃらの流行も時間の捻出に一役買った。講義の大半がオンラインになり、通学時間が浮いた。絶起(講義に間に合わない時間に目が覚めること)への心配が減り、夜更かしもしやすくなる。大学生にとってのオンライン講義のデメリットは、友人との交流の減少あたりだろうが、大学院では友人作りに勤しむ必要もさほどないわけで。そう、全体として何も困らなかった。ただ時間が降ってきた。最高。


では、実際、どのくらいの時間がいくらで買えるのか。

さて、下世話なハナシをしようか。

"下世話"の使い方が違うって? 誤用でも伝われば慣用になるものだし、今日のところは置いといて。

土日祝が120日、長期休暇が4ヶ月(土日祝を抜いた平日で20日として計算)、それ以外の日は5時間くらいのフリータイムと概算。

120日×24h=2880h
20日×4ヶ月×24h=1920h
(365-200)日×5h=825h

(2880+1920+825)h×2年=11,250h

1万時間と言ってもピンと来ないので具体的に。ゲーム1本のクリアまでの所要時間は20時間くらい。ノンストップなら500本以上のゲームができる。制作はだいたい200時間くらい。50個以上の創作物が生み出せる。それだけの時間が2年間に凝縮されている。

学費から割ってみると
130万円÷11,250h=116円/h

ジュース1本の値段で1時間の自由が買える、そんな計算。時間なんて買わなくても普通にそこにあるじゃないか、と言われればそうかもしれないが、私は自由とその時間の連続性に価値を見出している。大きな責任はなく、誰かの都合で左右されにくい、独立した自由時間が最大2ヶ月連続して存在する。その環境を捨てて就職するよりは進学がいいと思った、それだけ。



そんなこんなで1年生、俗に言うM1――エムワンじゃなくて、エムイチ、マスターのイチ――前半は、詰めた講義をこなして、バイトをして、研究はちょっと放っぽって、一か月と空けずに謎解きを作っていた。何だかんだで学部生の頃とは大きく変わった講義が楽しく、制作は言わずもがな楽しい。大学院進学の選択は間違っていなかったと思った。


そして後半。出会ってしまった、アイツに。

アイツだ。マーダーミステリーだ。

謎解き制作とはまた違う、格別な楽しさがあった。満たされる物書き欲、全体に様々な網を張ることによる脳疲労の心地よさ。

しかし、思った。あぁ、また時間が足りない、と。

2年のうち、既に半年が経ってしまっている。あと1年半。謎解きもまだまだ作りたいのに。

さすがに博士課程まで行く決心はつかなかった。社会に出ないまま年齢だけ嵩むのが恐ろしかったから。2年は2年、それ以上はない。

取れる手段は限られているし、単純だった。インターバルを短くする。謎解き制作の休憩としてマダミスを作り、マダミス制作の休憩として謎解きを作る。サイクルを早める。学生の間に、自由な時間の多い間に、できる限り自分の頭の中にある無形たちを外に出そうと、形にしようとした。「研究そろそろやんなさいよ」と言われ、「アッハイソッスネ」と冷や汗をかいていたような気がしなくもないが、学業は多少後回しでもギリギリでも何とかなった。大量のレポートでも修論でも、結局は思考や主張を文字に起こせるかであって、なかなか役に立つじゃないかアイツ、な気分だった。マグロのように泳ぎ、イノシシのように走った1年半にとても満たされた。


修了式を終えた。伸ばした2年間には、非常に満足している。やりたかったことはだいたいできたし、作りたかったものはだいだい作った。4年で卒業し、就職していたら出会えなかったであろう創作物もたくさん形にできた。仮に落単、留年なんていう事態になっていたらホクホクと振り返っている余裕はないだろうから、学業をきちんと修められた現状も含めて、やはり満足なのだと思う。


よい買い物をしました。


4月以降の活動エリアは関西です。どうぞよろしく。

おわり






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