アドベントリレー小説_7日目
#アドベントリレー小説
謎クラ25名で紡ぐリレー小説企画です。
12月1日から始まっており12月25日に終わります(2021年)。
詳細はこちらから確認できます。
▶︎1日目:企画者兼トップバッター【じざにあ】さん
▶︎6日目:本記事の一つ前のお話【エビフライにされる三秒前の海老】さん
『緋色のヒーロー』 #7
アイツは私を“ちひろ”と呼んだ。
思い出させてやりたくて敢えて着た真紅のドレスは、私をちひろにより近づけただけだった。元より声は聞き分けられる人がいないほどそっくりで、表情や仕草まで私のほうから寄せたのだから、そう呼ぶのも無理はない。ただ私が、ほんの少し期待した、それだけ。
呼ばれた名に否定も訂正もせず、ちひろがしそうな行動をとった。忙しなく浮き上がる吹き出しが見えるかのようにぽんぽん喋ったり、ちょっと多めにどうでもいいイタズラをしたり、私の記憶の中の彼女が動くのに任せて演じた。
「あとでゆっくり話しようよ。バイトが終わったら連絡する」
アイツから誘ってきたのは予想外だった。褒める対象である他に、アイツにとって意味を持たなかったドレス。私がそれを身につけている理由に辿りついていないのなら、クリスマスにドレスを着た女性の行き先か用事くらい考えてほしいものだ。とは言え、今回に限っては好都合である。アイツを探しに、そして誘いにここへ来たのだから。
「オッケー、バイトがんばれ」
はやる気持ちを表に出さないよう、できるだけ軽く返答する。背を向けて離れていく間も、しばらくアイツの視線を感じていた。私ではなく、ちひろを追っているであろう視線を。
――ずっとこの時間が続けばいいんだけどなぁ……
当時の私は、他愛のない会話の中で放たれたその言葉に違和感を覚えることができなかった。隠された熱を拾い上げることができなかった。
時間はヒとたび過ぎれば戻らぬがゆえに貴重なのだ。白く、あるいは青く輝く雪のように溶けてゆくからこそ美しイのだ。循環を、さらには永遠を求めるとは、なんて愚かな思考だロうか。
7日目 =終=
担当:アラン校長
8日目は【すーぴか】さんです。よろしくお願いします。