機械史、文字史

 
老ゆるなかれども天上の水わが翼襟に零り頻り雲母なす

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眞珠湾われしらねども玉藻なす沖津へしづむ艦艇甲板、水兵

菊形の通信機ゆ宣布さるきれぎれの暗号にありき新高山

こしかたが世をいはば艦橋旗へたれの花こそ散る開戰忌

暗渠へと敵は敵なす背骨つらぬきし死水をながすも伴なし

勝戰と敗戰隔て愛づる母そを鳥のひとみもてわれは見、

覆へる宝石箱つばさもて打つまへに打たる、正当防衛劃して

a America,空港にて死児百余出づるにみな國籍をもたざりし

優生医は堕胎をえらばざるも音波検診の梔子あをむらさきにふくら まず

有機的機械二十一世紀新暦未來アダム「起源の種子」つちかふも

焉にぞ歌を留むる聖靈は電氣的なるfilamentへ 眼瞬く間
 
 
茜闇へと死者の織りなせるピアノ馥郁と響きし世はも散花

議事室へと官、軍、臣、つれだち入りき総指揮者たりしおほきみ

軍刀を佩かせよ百のbeltは馬の鞣し革もて縛りける 列

衛士ならばためらはず銃架ならべて授くる死の氷筍の門

紅海悉く乾きつづく曠野へ無銘捕囚碑の石塔へ旧る 字は

Christian 贖へる奇蹟の拠代は無花果の常生らずを憎めり

戰争後遺症 花経る時の衰へてゆかむかは繃帯の縫跡へ置く 末翳

ネオ・ナツィズム起草せし 遅雪ふかき路の敷妙なすしかばねに

八十隈なく燈に冒されて牀上へはらまるる麒麟の焔なすふさばな

世界卵設計すへとめどもあらずは熱風のなかのゆがめる時計
 
 
天皇陵よみがへるなき殉葬者三一〇〇〇〇〇 耳朶ふるへる

細骨の組なす玩具飛行せるなかぞらへにんぎやうもろとも散りき

絢なす自動機構の紡績工の死してくりかへす演算子 歴史を

自然言語すなはち散文の雙六の必然たりし氣紛れの秩序ある

Artificial Intelligence,そのたそがれに物思ふ葦の灯をきざすも

戰争をのぞむゆゑわれ代理人の死を冀ふ機械史なりき

被造物たるともひとり松明へほろびつる天文の殻そ出でたし

狩猟機械「人間」へ韻文の諸諸のつづり文字目へと走りき

散文は物語せるその行列の末尾へかならずや柩ありぬ

鳥籠はみづからの禽を探すとも空間の残照の格子 言葉
 
 


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