雪の終るころには

ねえ、アルジャーノン
ぼくたちは随分とはなれてしまったけれど
皆がいなくなる先触れに
降った雪のこと
おぼえているかな
あれは嬉しかった
また春がいろいろな花に帰ってくるって
皆そう思ったんだ、

ぼくたちのいない春は綺麗なんだ
だれの目にも触れないから

刺繍に縫われた花々が
朽ちて、
そしてまた別の花々に
縫い綴られてゆく
揺れる風のなか日を受けて
さらさらと零れてしまった
それは
かつての蝶の錆だったのかもしれない

嵐の瓦を
少しためらって
踏むこと

いつからか罅割れてしまった
ぼくたちを 
どこをさがしてもみつけられないだろう
どこをさがしても
ぼくたちをみつけられないだろう

雨に洗われて 
押し流された季節の見るぼくたちは
いったい
どんなかたちをしているだろう
プルートへの飛行機を孕む
孤独な星々に宛てて
アルジャーノン ぼくの瞼に降りしきる雪は

いまも
足跡に
また
帰ってゆくよ 降る花へ 

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