黙示-録索引
コートジボワール佛名象牙海岸の傷痕なりし南北割かれ
愛國や平和や自由の爲に死にてたまるか 敵前逃亡す
殖民棄民ら契約の土地へさしがねの寸法さだめつる黍圃に
出阿弗利加記さへ旧りかへる欧州へ錫鋼脈などあらざれど
木星・錫・デウス・父祖へ祝はれてハムレット 袂入る塵
オフィリア複製画の數仰ぎゐて入水とは河面へ寄すさざれなみ
望郷もあらざるは正確天秤へ砂時計の砂軋めり 錬金室
林檎落下の机上七十センチより離れて角度零の床敷ありき
精密時計修繕工の細鐡の針のごとしも歯車の鐘楼
英國へ時計塔十二分轄の円のうへへ逆さづりの蝙蝠竜 黑く
なにがわれをひきとめゐたる 寺十五閣 すゑの松原
山門へ枇杷ふふらみてしきりなる関越ゆる不如帰のさへづり
市女笠ふはりと飛びて牛若は美男なりしか五条橋立
笛吹魔ひびく砂糖あらざるを牛乳壜の罅こまやかに
秘密警察の來たれりわが袖許に紅梅の花ちらばりしを咎め、ず
善き市民とはもつとも正しき寸法の薔薇花垣の丈を越えざり
シャンソン劇場歌は流るる蟷螂のそびらへ戒律のごと 選ばざらむ
政治犯三名審判ののち火刑磔図へ蝶きたりし昨のことならず
菊判「金三角」を 音樂隊員SS氏は自然的なる機械言語す
白薔薇白髪挿の靑年はコロッセオへひつぎ闇ならべ
太陽暦1642年1月8日ガリレイの黄金の月球儀
詩は歌を滅ぼすのみ歌は詩を滅ぼすにけぢめなし薔薇品名アルテミス
地動説ぎらひなりせば万動説おもはむ世界へ円周の軸
酪乳をこぼしてしまふ卓子の邊に暗闇色の絹ひろごりし
虚ろなる星闇盈ち車窓になびくアンドロメダへ溺れず佇ちて
一銀河の諸運動に等級の星ぞあらむ天文遠近法の明り
地理學教師の死して地球儀の一角へ埋葬区得たる はかな
花殻のごと天刑に架けられしアンドロギュヌスの祖竟に見ず
細君の名問はばデウスに妻ありし冥府降りゆきてかへらず
神神の緻密機構へ透き彫られ計画はひとつの時計をなしき
何が歌を弑するか 颯と文机へはしる孔雀蝋梅図 雪
士官学校まへ置かれあるうばたまの大鴉の逆光の剥製
活版工場印刷室へ西洋のなづき働きをりて文を組み
植字の森に売文す あはれ増刷のごと殖えゆきし装飾-棺
黑森へと断末魔しとめたりし蝙蝠傘の骨、竜の躯は
狂奔へ時鐘鳴るかな金釘流なせるわが手稿はしる 花文字
鏡文字新婚夫妻の間へ差し延べて見しに「死をおもへ」
ドイツ・フランクフルト學派を知らざれど門鎖したりきふかき雪
世は薔薇科・百合科ほどかけはなれ天使・叛天使あり 係争
ニュルンベルクへ裁かれしは西洋のなづきならむにいま戰争す
告知図へ瞠れる盲目の鳩にごりてしろき卵殻の眼なしき
科學健よかなるヴィヴァルディ「春」のうららけき 風の已む時
原曝の名をイエス 原罪の名をアダムてふ 疑はざらむか
一級國家「エウロペ」の複製たる二級國家へありし機械展
シオンの血肉通へる円卓會儀へ葡萄酒は杯へ泛べをりし屍灰
目的は黙示録へと記されありし艱難と選民をへだて エルサレム
地の上へ天國の七巡りなす垣を創造す、空中庭園ならざる
金字塔不立文字はあとかたも晒れて埃及の砂帰りゆく 音
風跡形へ絶滅兆しつつ吊らる籠 囀りのなごりせる
からつぽの父、死の母へ愛されし空洞の劇場ゆ人人、人去りぬ