グラナダ忌

 
給水塔ならびたつ雁の卵うすき血を継ぎし髪へ霜置きし

浄瑠璃へ緋の累骨あやつりて情死とは世に絆さるるよすが

機械函數写像としてを明りなす近代のみかは 昏き皇軍

劇場塔円き桟敷へかこみゐし神曲は煉獄のはてなせり

韻文のつづらなす薔薇の環の舞踏符へ婿しろき婚衣 死しき

夢殿に六角机ありき 物憂ふ頬李のごとく蔭りしを乗せ

烏瓜へしらぎぬおほふ精霊の目なる蘂ありしかあらばつたへせよ

妙なる喪の覆布をかづき幽閉さるは修道尼 縷縷なせり引きゆきて

摺足は石舞台を履みしかざれされば松が枝へ聯鐘のひびくなる

むらさきの鐘塔へさへづれるは釣鐘形なす禽口のひらき
 
 
誰か死ををしむ 一抹の花ふふみうつ韻文の滅びてよみがへらざり

いまあれし散文の嬰たぐり寄する他界の秋ゆきしかば絶ゑむ

死後もわが不詳の字さはれ緋のstaccatoを譜に捺しぬゆび さへ

父にも神にも肖ざりしめぐみ求む咽喉ぬぐふwool towel はつか乾か、ず

鐡条へひともと垂れし向日葵へ細頸さらさるる 容赦なし

負の電流ひとすぢはしる靑年の半身ただよふ酷夏のプール

神こそわが 討ちて敗るる傲りイエスに通ふ六腑かげなす

柩工は鋭き凶器數多吊りその円錐へとつらぬかるるかな 

仕事部屋へひとかかへの鳥籠 円天井なす鐡骨のつぶれて

諸手へ袖刺繍襤褸たりひとをもてひと贖へる辜のありしか
 
 
日ならでは蟷螂の戀はなばかりを狩りつくしたるきさらぎ闌けし

きみよべば襯衣喪のごとく眞靑たれへと死を贈与せる十一時

端麗候へと黑檀の琵琶死を馨るはつなつの髪なびかせ猟る 

金羊毛騎士團長黑森へ入りしか噛締めたる唇の歯は

榮誉さへ忌み名のひとつ數へたる椿の蘂の萼の縁褪せり

頸垂るる逸りの駒へ逆巻きてか細きすぢ銀塩のたてがみ

塋域を門鎖すは墓守ひしめける十字のしるしへ鍵 あはず 

聖蹟櫻ヶ丘。御幸のものらをきみとよぶに差違へたる暦の曜は

水曜礼拝 そまずそめらる骨灰が泛油へ揺るる極彩のあざ 

修道院地下へ納骨室の口ひらきその階段くだりせば冥府 
 
 


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