元素・「血」
魚から鳥へ、鳥から魚へ――,
火焔陶器の外套逆さ纏ひたる雉男は戸の闇佇ちて
夫人母となりせば命令せる足許に一匹の巨飛蝗躾くも
雌雄両性の鵞鳥麗人みづからのかたちのろはば頭を捥がむとす
餌箱に蝶のしかばね孤燭床へたおれ母よわれへ触るるな
狩猟場芝生のみどりコカトリス飛べず標的に駆けり
男撃つ文鳥侯爵猟銃へ煙森遠景へ霧らひ夕の血
樹幹吊り下げり男の屍骸緑陰へ房事の腕掴む乳房
真夜森へうつくしきをとめ佇ち底浅き河へ梟公の死
七面鳥の紳士街の鄙逃げまはるを追ふものも紳士、寄港地
月夜廃工場の陰鉄格子に鷺男と女囚老母を履み佇ち
カンテラ有蓋檻車に吊り落したる帽へ這ふ毒の虫
鴉男鶏娘の曇夜の柵とぢこめられて柵の外も柵
曲馬団幕内に調教の大蛭伸びあぐる小屋車の窓板
練習のつづき 白鷺處女鞭もてり曲馬団女振付師
寝室に打ち伏すオリオン獺の毛皮かかれり寝台の上
雉男ひらきぬドアゆ踏み入りて寝乱る寝衣のをとめさへぎり
悪き虫への躾 雁字搦めにをとめ宙吊り日差し
鉄格子禽獣の夫妻担ひゐしむすめ外に抛らむ 蛭
鳶婦人と青年の分離くつがへる卓、椅子窓に日差をはめて
一階は閉鎖の酒店二階より鷲婦人投擲さる 雌雄両性に若者
跳躍宙に浮かべる鶫男を満月照らし壮年紳士迎へき
婦人像砕けり影の指橄欖房なすを暗闇に射しき常夜に
室内球燈かかぐ橄欖夫人へ客人常闇扉へ佇ちて椋鳥
夫妻肖像鷲の威厳の侯爵の夫人沈鬱なれ椅子にして
嵐の絵掲げて夫妻埃及の面巨躯なりしを悼みつつあれ
火遊び 並びぬ個室出づ仮面の後妻止むるは雀男
アンドロメダ星座表沈める夫人の部屋灯火消なむとし
面会室の会計士達の机へ区画図、おとづれる夫人
アンドロマケの屍またはエディプスの屍横たはる 妻は
スピンクスに目なまなまし。青年を死なしめ背きぬをとこ車内に
エコー、蘇る酒屋女主人に眸 森黒き髪の枝
椋鳥男駆けゆく森の追跡者覗きをり婦人樹上磔刑図
片雛の成長の巣箱 鴉青年の屍衣屍を担ぎ郊外
黒鶫男ウェヌスの髪を刈りその礎に鳥吐く死主人
鷲男甲冑に胸逆手持つ短剣裸婦の蹠つらぬき 巣立
啼青年光の一室外へ死主人と格闘せり 裸婦踏みつ
鷲の嫡男みづから燃やし醜き妻にして母を逐ふ 巣へと卵
満月に雲かかりゆく渓間の死累累たらむ枝なき木の森
盲ひたる髑髏の眼窩くろぐろと積みき幾人目かのエディプス
血の水曜日出産されき青年は血縁皆亡ぼしき、残る卵