玉衣剥奪
世は忌憚へとなづめども
ふるはなわびしき
忘却の調べを
手繰れるは青年
ピアノ臺へ倚り掛りゐつ
春の別離の窓閉ぢしをとめ
名をマリー・テレーズといふも
勲章ふるき額縁の
尊影に
嬰児ふたりいだきては
かたへは娼婦
かたへは后妃となりなむに
宮殿ふかき鏡の間
炎にくづれゆらめくは
戴冠式の画のなかなりし
太陽王の嫡子と嫡子か
諸侯、揃ひて
兆す光芒へ玉冠の剥奪図はあらむ
革命よ
死を呼べ!
傾れ込む民兵らおよそ百名
緋色の銃挺提げて
喚びぬ
こなる国家の主権はたれか!
拐かされき幽閉の王侯夫妻に仔のありて
いとど哀しくかぼそく啼ける
金糸雀の柳籠にあらむ
刎頸、刑具に率ゐられ
広場民草そよぎゐるなかへ
後ろ髪すずしきアントワンヌはたちぬ
あれを弑すや、
赤民草の
されどもかなし
つゆもろともにいづこへと消ぬる
沸き立ちぬ民草
刎頸を焦がれども
広場鳴るなり午鐘の音は
いつしらに見きつゆいづこ
ひとらみなその置きし物忘草のはなへゆきゆきて、かへらじ
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