Xenotar、Kreuznachへ行く
新たにLeicaを買うたびにその都度それをWetzlarへ持って行き、Rolleiflex Standardのレンズ・TessarをJenaに里帰りさせ、Rolleiflex 2.8F PlanarをBraunschweigのかつてのFranke & Heidecke社屋の前に立たせたように、Rolleiflex 2.8F XenotarをKreuznachに連れて行ったことがあります。今日はその件について書こうと思います。
クロイツナッハ
Kreuznach、正しくはBad Kreuznach(バート・クロイツナッハ)はRheinland-Pfalz州(ラインタント=プファルツ州)にある街です。1913年、この街にJoseph SchneiderがJos. Schneider Optische Werke GmbH(略称:Schneider-Kreuznach)を設立しました。以来、この企業はずっとこのBad Kreuznachに所在を置いています。
Bad Kreuznachの旧市街は駅の北西側にあります。Bad Kreuznachの名で画像検索すると、街を横切るNaheという川に架かる、その名もAlte Nahebrücke(古いナーエ橋)の写真が表示されます。この橋に接するようにして、Brückenhäuserという名のこれまた古い建物が残っているのですが、私たちが訪れた時、生憎この建物は修復中で幕がかけられていました。1890年、創業者Joseph Schneiderが最初に建物を購入し写真用レンズを製造し始めた場所は、ここから川を渡り更に北に進んだStromberger Straße(シュトロームベルガー通り)だったと言います。その場所にその当時の建物が残っているとの記述はどこにも見あたらなかたったので、私たちはそこまでは行かず、旧市街をウロウロ歩き回り、そのなかの古い建物の一つに入っていたレストランで食事をしました。旧市街からは小高い丘の上の城の姿をわずかに見ることができます。現在は博物館になっているようです。
シュナイダー・クロイツナッハ
現在、Schneider Kreuznachの社屋は、駅の南東に広がる工業団地の中にあります。工業団地といっても日本にあるような機能的だけれど味気ない建物がズラリ並んでいるわけではありません。広々とした敷地にポツリポツリと建物が立っており、その間を幅の広い道が通っています。Schneider Kreuznachの社屋は窓の大きな建物で、レンズ等を生産する工場というよりは、学校のような印象を受けました。敷地内に大きな木が何本も立っていてちょっとした林を形作っていたのも、私が学校を連想した理由の一つかもしれません。建物はそれほど新しいものには見えなかったので、私が手に抱えているRolleiflexのレンズ、Xenotarは本当にこの工場から出荷されたのかもしれません。そう考えると、なんだかドキドキしました。門の前で写真を撮っていると、2人の男性が私の傍らを通り過ぎて門の中へ吸い込まれていきました。2人ともおしゃべりに夢中で私のことなど気にかける様子もありません。思わずその後ろ姿に「私、今、Xenotarで写真を撮っているんです!」と声をかけたくなりました。
Schneider Kreuznachは100年以上も続く非常に伝統ある企業ですが、LeitzやCarl Ziessのような華やかな感じはなく、Bad Kreuznachの街の雰囲気と同じように、昔も今も変わらず静かにそこに在り、黙々とレンズを作り続けている、そんな印象を受けました。
私のRolleiflex 2.8FについているXenotar。「40年ぶりくらいに誕生した場所に戻ってきて、何か思うところあるのかなあ」などと考えながら写真を撮りました。レンズが何か感じることがあるかなんて、何を馬鹿なことを言っているんだ。そう思いますか。でも、この時、Kreuznachで撮った写真に1件も失敗らしい失敗がなかったのです。ですから、やはり私はXenotarはこの時何かを感じていたに違いないと思っています。
後記
私はRolleiflex 2.8Fを2台持っています。1台目のPlanarは「カメラと私」という記事に書いたように2010年に購入しました。2台目のXenotarは、2012年3月に積み残していた移住手続きを終わらせるため日本へ行った時、長年勤めた職を退職した記念にとその退職金で購入しました。レンズが異なるRolleiflexを2台持っているというと、「PlanarとXentar、どちらが良いですか」と聞かれることがありますが、私には判断がつきません。ただ一つ、自信を持って言えることは、どちらのカメラも私にとっては欠くことのできない素晴らしいカメラだということです。
(この記事は、2020年4月11日にブログに投稿した記事に新たに見出しをつけ、後記を書き加えた上で、転載したものです。)