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最後の1コマ
現在は専ら白黒フィルムを用いて写真を撮影している私ですが、約15年前に写真を撮り始めた頃はその殆どをカラーフィルムで撮影していました。当時一番のお気に入りだったのはPRO400Hというフィルム。もう何年も前に製造中止になってしまったフィルムですが、実はまだ手元に少し残っています。製造中止が決まった時にまとめ買いして大切に大切に使っていたのですが、最近期限が切れて1年経過したことに気づいたので、劣化してしまう前に使い切ってしまうことにしました。早速、先週のコーブルク(Coburg)への小旅行に2本ほど持っていきました。
前回投稿に書いたとおり、コーブルクには旧市街を臨む山の上に城塞(Veste)、旧市街には城館(Schloss)があります。そして、城塞と城館の間に横たわる山の斜面には広大なHofgarten(王宮附属庭園)が広がっています。城塞から城館まで、急速に沈みつつある太陽を見ながらこの庭園を歩いた時に、持参した2本のPRO400Hで写真を撮りました。
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なお、最後の写真はコーブルク旧市街にあった古い書店です。この書店の店構え、一目惚れしてしまって、日中・夕方・夜間と短い滞在期間中に何度もこの書店の前に立ち写真を撮りました。
ドイツに移住したばかりの頃、撮影したカラーフィルムは最寄り都市の写真店で現像してもらっていました(ただし、この写真店、現像作業自体は外注していたようです)。この店ではネガのスキャンまでは対応してくれなかったので、現像したネガは自分でスキャンしなければなりませんでした。しかし、何年か経ちこの店が閉店してしまうと、カラーフィルムを現像してくれる場所を探すのが次第に大変になりました。都市近郊の小さな街に現像してくれる写真店を見つけても、次々と閉店してしまうからです。そのうち、自宅で現像からスキャンまで全てできる白黒フィルムで写真を撮るようになりました。それが今から8年くらい前のことです。
「フィルムで写真を撮る人なんて、近い将来ほとんどいなくなってしまうのかなあ」などとその頃は考えていたのですが、この8年くらい前を境にして、ドイツでも(まだまだ少数派とはいえ)古いカメラを使用してフィルムで写真を撮る人が少しずつ増えてきたような気がしています。調査したわけではありませんから、これは単なる私の感覚です。しかし、例えばアナログ写真のみを対象にした雑誌が新たに発刊したこと、一時期は最寄り都市から姿を消してしまった写真店ですが、何年か前に新しい写真店が開店したこと、その店ではフィルム各種はもちろんのこと、中古フィルムカメラを扱っていること。加えて、そのウィンドウの前を私が通りがかる時には、いつも何人か人が立ち熱心にウィンドウに並べられたカメラやレンズを眺めていること、そしてその中古カメラのラインナップがけっこう動いていること(特にフィルムLeicaM型ボディはすぐに売れてしまいます)などから、ドイツにおけるフィルム写真の未来に対し、私は微かな期待を抱いているのです。そうそう、私のドイツ在住のinstagramのフォロワーのうち何人かが、ここ2〜3年のうちにフィルムで写真を撮り始めたことも、私のこの儚い希望を支えています。
…とはいえ、PRO400Hが再び製造されることは、もはやないでしょう。残り3箱になってしまったこのフィルム。最後の1コマは一体何を撮ることになるのでしょうか。何だかとてつもなく寂しく感じる一方で、その最後の1コマを無性に見てみたくなる時もあるのです。