【vol.15】第Ⅱ段階 「末端切り」(=「適正化計画」(第1要件)の提示(2015年8月24日~2016年9月1日)
◆はじめに
前回の記事では、第Ⅰ段階(2012年2月~2015年8月24日)の資料を扱い、学校再編の論議が始まった時期における行政と住民の論理を明らかにしました。第Ⅰ段階では、2014年1月の教育環境検討委の設置に伴い「学校適正規模」が設定されたこと、そして2015年6月に市教委が策定した「基本方針」の中で学校再編の検討に関わる学校規模の基準が設定されたことにより、学校再編の論議が起こり進んでいったことがわかりました。
そして、この学校再編の動きは2015年8月の「適正化計画(第1要件)」が策定されることによって具現化されることになります。この計画では、行政の「小規模校の児童数が今後増加することはない」という論理のもと、市内9小中学校の具体的な再編計画が決められました。
今回は、第Ⅱ段階(2015年8月24日~2016年9月1日)の資料を扱います。この段階は、市教委が策定した「適正化計画(第1要件)」について、再編対象学区で説明会を開き、住民に学校再編を提示及び説明していく段階であるといえます。一方、再編対象学区の住民は地域内でアンケートを実施し、地域住民が学校再編に反対であることを数字で示していきます。そして、それらのアンケートをもとに市教委に要望書を提出し、地域に学校を残すよう訴えていきます。
◆第Ⅱ段階の分析資料
ここから、資料をもとにして行政側の論理と住民側の論理を紐解いていきます。次の表は、本段階の分析に用いた資料の一覧です。
◆行政の論理 ①人口減少
まずは、行政側の資料から「人口減少」に関わる論理を時系列順に抽出します。
(A)の記述から、第Ⅰ段階の後半部分に引き続き、市教委は「人口減少が進行し、今後も減少が見込まれる」ということを前提としていることがわかります。このことから、小中学校の小規模化の進行を踏まえ、「適正化計画(第1要件)」を定めたということが考えられます。
また(B)の発言から、この段階で行政の論理は「人口減少は止まらないから、一体型の小中一貫校を作る(学校統廃合をする)」というものに移行したことがわかります。つまり、第Ⅰ段階前半の「人口減少に対応するために、小中一貫教育校をつくる」という行政の姿勢は、「適正化計画(第1要件)」の策定によって「この先人口減少は止まることはないため、どのような条件があったとしても人口が少ない学区の学校を統廃合するしかない」という姿勢に変化したことがわかります。このことから、「適正化計画(第1要件)」の策定によって学校再編推進が明確に決定されたと推察できます。
さらに、「福山市総合計画」の「人口減少は止まらないため、公共施設の広域管理・運用をする必要がある(C)」という記述は、「人口減少は止まらない」という前提が、市教委だけではなく市行政全体に共通している前提だということを表しています。
◆行政の論理 ②学校と地域の関係
次に、行政側の資料から「学校と地域の関係」に関わる論理を時系列順に抽出します。
「適正化計画(第1要件)」では、学校と地域の関係についての記述は「統廃合後の学校の利活用によって地域づくりを進める(A)」という項目でしか述べられていません。このことから、市教委は、第Ⅰ段階の前半では「学校と地域のつながりが希薄だ」という問題意識を持っていたのにもかかわらず、この段階では既に「統廃合ありきの地域づくり」を念頭に置いていることがわかります。そして、この後の段階で明確になっていく、行政の「住民や地域の意向はどうであれ、統廃合をするしかない」という姿勢が垣間見えます。
もっとも保護者説明会においては、市教委は「学校は地域の核になっている(E)」「学校と地域は密接につながっている(F,G)」と発言しています。つまり、住民説明会の場においては、市教委は第Ⅰ段階と同様に「学校と地域は関係している」という論理を用いて説明していることがわかります。一方、市長が主催の総合教育会議や市長部局が作成する福山市総合戦略では、「公共施設の再整備や新たなサービスを作る取り組みを行う(D)」として教育以外の観点から学校再編を示唆するような話題が上がりました。ここで上げられた話題は、次の第Ⅲ段階で策定される「立地適正化計画基本方針」(2017年3月)、及び「公共施設の削減」から導き出される学校再編の論理へと繋がっていきます。
このことから、第Ⅱ段階では「学校と地域は関係がある」という第Ⅰ段階でみられた論理もみられた一方で、市長部局を中心に「学校と地域は切り離して考える」という異なる論理が見られました。このことは、「地域づくりに取り組むのは教育委員会ではなく市長部局である(B)」「コミュニティと小学校区は別に一緒にすることはない(C)」「教育委員会だけでは担いきれない(E)」というような発言からも読み取ることができます。
◆行政の論理 ③教育理念
次に、行政側の資料から「教育理念」に関わる論理を時系列順に抽出します。
第Ⅰ段階の後半で導入された「グローバルで、変化の激しい時代に対応できる子を育成する」という教育理念が、「適正化計画(第1要件)」の策定によって具体化されたことが、(A)の記述からわかります。(「知識や情報を活用して新しいものを考え出す能力や解決すべき課題を自ら発見し解決する力」、「国内外問わず、様々な人々とのコミュニケーションを通じ、多様な考え方に触れる中で、自己の意見も主張しながら、より良い答えを導き出す力」の育成。)
このような教育理念の説明は、山野学区で行われた保護者説明会の場においてもされました(D)。しかし、第Ⅰ段階の前半に議論された「地域の子どもたちをどう育てるか」という理念は、「適正化計画(第1要件)」には一切書かれていません。この教育理念の変化から、市教委は「地域の子ども」という視点は無視し、「市の子ども」という視点で教育施策を進めようという姿勢であることが読み取れます。
ところが、2015年10月13日の「福山市総合教育会議」における市長の発言(B)や「福山市総合戦略」(C)では、「ふるさと福山に愛着と誇りを持ち、変化の激しい社会をたくましく生きることができる子を育てる」という理念が示されており、「適正化計画(第1要件)」で記述されたような具体的な力の育成に関する発言はありません。この市長の発言や総合戦略で述べられている教育理念は、2012年2月に市教委が制定した「学校教育ビジョンⅣ」で示された教育理念と同じものだといえます。
このことから、「適正化計画(第1要件)」を策定した際に市教委が新たな教育理念を導入したこと、また第Ⅱ段階においてはこの新たな教育理念は、市教委だけで共有されているものだということがわかります。
◆行政の論理 ④学校再編の理由
次に、行政側の資料から「学校再編の理由」に関わる論理を時系列順に抽出します。
「適正化計画(第1要件)」では、学校再編の理由を「変化の激しい社会を生きる力をつけるためには、多くの友好関係や多様な人間関係の中での教育活動が必要(A)」だからと説明しています。(B)の記述からもわかるように、あくまで子どもたちの教育のために再編するという姿勢です。しかしこの「適正化計画(第1要件)」には、「なぜ小規模校のままでは良くないのか」という理由が書かれていません。
また第Ⅰ段階では、主に「基本方針(2015年6月17日)」の中で、学校再編の理由を「小中一貫教育の推進のため」と説明していましたが、「適正化計画(第1要件)」には「小中一貫教育推進のため」という理由は一切示されませんでした。さらに、その後の説明会や第Ⅲ段階以降においても、市教委から学校再編の理由として「小中一貫教育のため」という説明はされませんでした。(保護者説明会では、「一定の集団規模の中で切磋琢磨していきながら学んでいく環境が必要(F)」と説明されています。)
このことから、「適正化計画(第1要件)」の策定によって、市教委の目的は「小中一貫教育推進」から「学校統廃合」を進めること自体に移行したと考えられます。ただし、2015年10月の総合教育会議の中では、学校再編の理由として市長が「小中一貫教育の効果を発揮するためには一定規模の集団が必要(C)」であるという発言をしていることに注意が必要です。つまり、市長や市長部局の中では第Ⅰ段階の「小中一貫教育の推進のための学校統廃合」という論理が引き継がれていることがわかります。
また第Ⅰ段階で市教委は、「地域の子どもは、地域の学校で育てる」ということを前提としていましたが、「適正化計画(第1要件)」の策定後は「市内にいる子どもの教育は、市教委が決定する」という前提に変化しています。そして、市教委は「適正化計画(第1要件)」の中で「すべては子どもたちのために」という言葉を使うことによって統廃合の必要性を訴えました。ここでも、市教委の言う「子ども」とは「市の子ども」であり、「地域の子ども」ではないことがわかります。そして、「市内で行う教育は市が決定する、子どもたちの教育は地域が首をつっこむことではない」という姿勢までも読み取ることができます。
さらに、2015年11月10日の「山野小中学校統廃合計画 保護者説明会」で市教委は、適正化計画が「全ての子に対しては正しいと言えない(D)」ということまで発言しています。これは、学校再編計画がすべての子どものためではないと明言していることになります。つまり、適正化計画のもたらす効果が市内のすべての子どもには当てはまらないことがわかっているのにもかかわらず、再編を進めようとしているのです。「すべての子どもたちに平等に教育を与える」ことが市行政の本来の役割であるにもかかわらず、強硬に再編をしようとする市の姿勢が、「適正化計画(第1要件)」の中には見られました。
◆行政の論理 ⑤行政の役割
次に、行政側の資料から「行政の役割」に関わる論理を時系列順に抽出します。
保護者説明会の場において市教委は「子どもたちの望ましい教育環境を見直すこと」を行政の役割とし、「学校再編は避けて通れない」という論理を展開しています(C)。このような「学校再編は避けられない」とする市教委の強い姿勢は、(A)の記述を鑑みると「適正化計画(第1要件)」の策定をきっかけに生じたものだと考えられます。
しかし、同時期に策定された総合戦略においては、財政の健全性の観点から「効率的で効果的な行政サービスを再構築すること(B)」が行政の役割とされています。ここでは小中学校は名指しされてはいませんが、これまでの施策の経緯を踏まえると公共施設の再配置には小中学校が含まれるのではないかと推察できます。第Ⅱ段階では、「公共施設の削減」ということを目的とした「末端の学校切り」の萌芽がみられました。そして、このような動きは第Ⅲ段階で本格化していきます。
◆行政の論理 ⑥決定のあり方
最後に、行政側の資料から「決定のあり方」に関する論理を時系列順に抽出します。
(A)の記述や(B)の発言から、第Ⅱ段階においても学校再編の実施にあたっては「先に保護者の意見を聞くことを優先し、地域住民との合意形成にも努める」という市行政の姿勢がみられます。しかし、同時期に行われた保護者説明会では、市教委は「学校再編の必要性を住民がある程度理解できたら取り組む(C)」という説明をしており、「説明をして住民を納得させられれば、合意が得られたことになる」という姿勢を持ち合わせていることがわかります。
つまり、市が言う合意形成とは「住民が学校再編に合意すること」であり、あくまで学校再編は「市が決めたことで住民はそれに従うものだ」という市の前提が垣間見えます。この前提は、第Ⅲ段階以降の福山市の強硬な姿勢の中ではっきりと表れていきます。
◆住民の論理 ①人口減少
次に、第Ⅱ段階の住民側の論理を見ていきます。まずは、住民側の資料から「人口減少」に関わる記述を時系列順に抜粋します。
(a)や(b)の記述から、住民は学校再編を実施することで「若い世代の流出に加速がかかる」とし、過疎化が進んで地域存続が危うくなると主張しています。また、内海学区においては移住の取組によって児童生徒数が微増していることから、人口が増加している以上、学校を残してほしいという意見も出されました(c)。
◆住民の論理 ②学校と地域の関係
次に、住民側の資料から「学校と地域の関係」に関わる論理を時系列順に抽出します。
(a)や(g)の記述から、住民は第Ⅰ段階から一貫して「学校と地域は密接な関係がある」ことを主張していることがわかります。特に「学校と地域は離して考えることはできない(d)」として、学校と地域を一緒に考えるように市教委に要求しています。また地域にとって学校はかけがえのない教育施設であるということを訴え、学校は地域を活性化させるものであると主張していることが、(c)や(e)の発言からわかります。
反対に「地域から学校がなくなることによって、地域の衰退を招く」として、行政が進める学校再編に反論する様子も見られました(b)(f)。以上より、住民は「地域にとって学校は不可欠であり、学校があってはじめて地域活性化ができる」という論理を主張していることがわかります。
◆住民の論理 ③教育理念
次に、住民側の資料から「教育理念」に関わる論理を時系列順に抽出します。
住民は、小規模校は「『一人ひとりが大切に生かされる教育(a)』を実施することができる」と訴えています。また、保護者からは「保護者や地域とのつながりの中で子どもを育てたい(b)」という意見が出され、小規模校での教育を望む声もみられました。さらにより良い教育のために学校再編をするという行政の説明に対して、小規模校の卒業生は「迷惑をかけるような人になって」いない、「自分の意思を持」つとして、小規模校の教育も時代に沿うものだということを主張しています(c)。
◆住民の論理 ④学校再編の理由
次に、住民側の資料から「学校再編の理由」に関わる論理を時系列順に抽出します。
住民からは、「統合も仕方ない(a)」という意見も出される一方、「目が行き届く学校の方が良い(c)」という意見も出されました。もっとも、市教委の「一定の集団規模を確保することで、より良い教育環境を整備する」という説明に対しては、「人数が多ければといいという考え方には納得できない(b)」という意見や、「少人数ではあるが、その中で自ら考え発表し、ふり返る力は内海小で十分つけていける(e)」という意見が出されています。
さらには、「工夫次第で十分に教育効果が上げられる(f)」など、学校再編をしなくても小規模校の教育を工夫することで市教委の目指す教育を行うことができるという主張や「逆に複式の方が良いのではないか(d)」という主張もされています。
◆住民の論理 ⑤行政の役割
次に、住民側の資料から「行政の役割」に関わる論理を時系列順に抽出します。
これらの住民の発言をみると、どの学区においても「地域に学校を残すこと」が行政の役割だと主張されていることがわかります。内海学区では、「①人口減少」でみられたように「内海に一つは学校を残してほしい(a)」「内海と内浦でまず段階的に合併していって欲しい(e)」という意見がみられました。その際、住民の移住の取り組みにも目を向けるべきだ(b)という意見が併せて寄せられています。
また山野学区では、学校を残すことのほかに「加茂の分校でもいいから残して」ほしい(d)、「山野学区に小規模特認校を認める」べき(f)だという意見も出されました。このように、住民は行政の役割は学校再編ではなく学校を残すことだとし、小規模校はどのように存続していくかを考えるべき(c)だと主張しました。
◆住民の論理 ⑥決定のあり方
最後に、住民側の資料から「決定のあり方」に関わる論理を時系列順に抽出します。
「⑥決定のあり方」では、住民の意見を聞いたとしても最終的にはすべて行政の考えの通りになるのではないかという疑問の声がみられます(a)。つまり、形式的は住民との合意形成を図ろうとするが、実際は住民の意見を聞いただけで行政の思い通りに施策を進めるのではないかという意見です。この意見によって、第Ⅱ段階では既に行政の説明の仕方や計画の進め方に対して住民が不信に思っているということがわかります。裏を返せば、住民は「行政は意見交換を通じて、住民の合意を得て政策を進めるものである」という論理を持っているということです。
◆行政の論理と住民の論理のずれ
ここまで、行政と住民の論理を①から⑥までの主題ごとに見てきました。最後に、行政側の論理と住民側の論理のずれを見ていきます。
【①人口減少】
まず「①人口減少」に関して、市教委は第Ⅰ段階と同様「人口減少は止まらない」という前提を持っていました。さらに、「適正化計画(第1要件)」の策定により、第Ⅱ段階では「人口減少が止まらないから統廃合をする」という論理が導かれました。
それに対して住民には、「学校と地域は密接な関係がある」という前提のもと「学校統廃合は更なる人口減少を引き起こすため、地域に学校を残すべきである」という論理がみられます。さらにこの論理は「学校再編は地域のさらなる地域の過疎化を進める」という論理に展開していました。
このように第Ⅱ段階において、行政は「人口減少は止まらない」という前提から「人口減少が止まらないから人口の少ない学区の学校を減らす」という論理が導かれているのに対し、住民は「人口減少に歯止めをかけるために地域に学校を残すべき」と主張しており、行政と住民の間で前提と論理に大きな違いがあることがわかります。
【②学校と地域の関係】
「②学校と地域の関係」について、「適正化計画(第1要件)」に「既存の学校と地域の関係」についての記述がないことから、市教委は「統廃合ありきの地域づくり」を前提にしていることがわかります。ただし、保護者説明会などでの市教委の発言から、第Ⅱ段階でも市教委は学校と地域の関係を全面的に否定しているわけではないことも分かりました。
それに対して住民は、「学校と地域は密接な関係がある」という論理を一貫して主張しています。そして、その論理は「地域から学校がなくなれば、その地域の存続も危ぶまれる」「学校がなければまちづくりはできない」という論理に展開しました。
このように第Ⅱ段階においては、市教委と住民はともに「学校と地域は関係がある」という前提を持っています。しかし、この前提を受けて行政には「関係があるから、新たな学区編成において新しいコミュニティ作りを行う」という論理が導かれたのに対し、住民には「関係があるから、今の学校を残し既存のコミュニティを存続させるべきだ」という対立した論理が導かれていることがわかりました。あくまで行政は「学校統廃合ありきのコミュニティづくり」だという姿勢であり、ここに住民との大きな違いがみられます。
【③教育理念、④学校再編の理由】
「③教育理念」について、行政は「適正化計画(第1要件)」の策定により⑴「知識や情報を活用して新しいものを考え出す能力」、⑵「解決すべき課題を自ら発見し解決する力」、⑶「国内外問わず、様々な人々とのコミュニケーションを通じ、多様な考え方に触れる中で、自己の意見も主張しながら、より良い答えを導き出す力」という3つの教育理念をが明確に示しました。しかし、ここで示された教育理念には「地域の子どもを地域で育てる」という視点が抜けていることがわかりました。
また「④学校再編の理由」では、市教委は「適正化計画(第1要件)」で「変化の激しい時代を生きる力を育てるには、一定の集団規模が必要」という新しい理由を用いて学校再編の必要性を訴えました。さらに、第Ⅱ段階において行政は「市の子どもは、行政の責任で教育する」という姿勢が明確となりました。
それに対して住民は、「③教育理念」では「一人ひとりが大切に生かされる教育」を小規模校のメリットとして挙げました。さらに、「地域とのつながりの中で子どもを育てたい」という意見もだされました。
また「④学校再編の理由」では、「工夫すれば小規模校でも、市教委の言う理念を達成することができる」と主張しています。さらには小規模校でも、これからの時代に求められる力は育てることができるということも主張されました。
このように「③教育理念」「④学校再編の理由」において、行政は「変化の激しい時代を生きる力を育てる」ことを理念として挙げ、そのためには「一定の集団規模が必要」として学校再編を推進していました。一方、住民は小規模校でも子どもたちに必要な力を培うことができると主張し、行政の説明に対して反論する様子がみられました。
【⑤行政の役割】
「⑤行政の役割」に関して、行政は第Ⅰ段階に引き続き「学校教育環境を速やかに整備すること」を役割とする姿勢がみられました。しかし第Ⅱ段階では、教育の観点のほかに「財政の健全化」の意識もあることがわかりました。
それに対して住民は、第Ⅰ段階から引き続き「地域に学校を残すことが行政の役割だ」としています。さらに内海学区では、「今ある地域や現状の教育活動に目を向け、それを存続発展させるべきだ」ということも主張されました。また、山野学区では「小規模特認校として認めること」も併せて主張されています。
このように第Ⅱ段階において、行政は「学校再編を進め、適正な教育環境を整備すること」が行政の役割だとしている一方、住民は「現状の教育を工夫することで、今の学校を存続させること」が行政の役割であるとし違いがみられました。そして、行政の論理は「適正化計画(第1要件)」の策定によって明確となり、住民はその計画における行政の考えを受けて論理を展開したと考えられます。
【⑥決定のあり方】
最後に「⑥決定のあり方」について、市教委は学校再編計画の遂行にあたり、第Ⅰ段階と同様に「住民の話を聞きながら計画を進める」という姿勢が多く見られました。しかし2016年2月9日に行われた「山野小学校・中学校統廃合問題 市教委の保護者向け説明会」では、「住民がある程度理解したら学校再編に取り組む」という発言があり、この発言からは福山市の強硬な姿勢の一端を垣間見ることができます。また、この発言には「住民に説明すれば住民との合意形成を図ったといえる」という行政の論理が推察できます。
一方、第Ⅱ段階から行政に対する住民の不信感がみられました。それは、2016年2月9日の「保護者向け説明会」における「最終的には行政が決定するのではないか」という住民の発言に示されています。このように住民が行政に対して疑念を持つ根底には、「行政は意見交換を通じて、住民の合意を得て政策を進めるものである」という論理が展開されているのではないかということが考えられます。
◆おわりに―第Ⅱ段階の総括
第Ⅱ段階では、「適正化計画(第1要件)」の策定によって学校再編の方針が明確となり、市教委の態度が強硬的になったということがわかりました。さらに、市教委だけでなく市長部局も学校再編に大きく影響を与えていることや、学校再編が財政問題と連動している可能性があるということも推察できました。
「①人口減少」「②学校と地域」「⑤行政の役割」の3点においては、行政は「人口減少は止まらないため、小規模の学校を統合して新たな学区編成し、その学区で地域とともにコミュニティを形成する」という論理を展開していました。それに対して、住民は「今ある学校を維持発展させることで、現状の学校と地域の関係を維持し、人口減少に歯止めをかけることが行政の役割だ」という真逆の論理を展開しています。
また「③教育理念」と「④学校統廃合の理由」においては、「適正化計画(第1要件)」の策定により「変化の激しい社会を生きる子どもたちのために必要な力を培うためには、一定の集団規模が必要だ」という行政の論理が強く打ち出されました。さらに学校再編の理由では、「公共施設の削減」という新たな話題もみられました。一方、住民は小規模校でも市教育の言う教育理念は実現できるとし、行政の説明する学校再編の理由に対して反論している様子がみられました。
このように各々の論理が確立し、さらに行政の再編計画遂行への不信感が表面化したことにより、行政と住民の対立が浮き彫りとなったといえます。それは「⑥決定のあり方」で、行政の学校再編の進め方に対し疑問や不安を募らせる住民の様子からも示されています。第Ⅲ段階以降では行政の論理がさらに飛躍し変遷していき、行政と住民との間の溝がさらに深まっていきます。
次回は、「第Ⅲ段階-公共施設の立地適正化と結びつく学校再編(2016年9月1日~2018年4月1日)」の分析を行っていきます。
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