【vol.3】学校統廃合を決める権限のありか
◆はじめに・児童数が減ったら統廃合をしなければならない?
そもそも日本には、法律で定められた児童数・生徒数やクラス数を下回れば必ず学校を統廃合しなければならない、という規定は存在しません。
小中学校のクラス数の「標準」を示しているのは、学校教育法施行規則です。小中学校ともに12~18学級、つまり小学校では1学年につき2~3クラス、中学校では1学年につき4~6クラスが標準とされていますが、地域特有の事情がある場合には、この限りでないということもまた、明記されています。
出典:総務省e-Gov法令検索
◆教育委員会が統廃合を決める?
では、学校統廃合は誰がどのような法的根拠をもって決定するのでしょうか。実際に計画を立て、住民との話し合いを進めていくのは市町村教育委員会です。しかし手続きとしては、市町村教委が学校設置条例の改正案を提出し、議会で可決すれば統廃合が決定するという段階を踏むので、最終的な学校統廃合の決定権は、市町村議会にあります。教育委員会にその権限があるわけではありません。
参考:福山市学校設置条例
◆「手引」にいたる経緯~文部省の通達と閣議決定
本来であれば市町村議会は、住民の民意を反映するための機関であり、国の動向に左右される必要はありませんが、現状では、統廃合を進めたい市町村は、文科省による「手引」にある、「切磋琢磨して成長するための集団規模の確保」を統廃合の理由として示す傾向があります。そのため、国・省庁の動向を探っていきます。
○1956年通知と1973年通知
遡ると、文科省(当時・文部省)は、56年と73年に学校統廃合に関する通達を出しています。
56年通達は国の歳出を削るために学校統廃合を推奨した一方で、73年通達ではこれを撤回し、小規模校の教育上の利点を認め、学校を「適正規模」にすることを重視するあまり弊害が生じないようにすることが喚起されています。
○2015年「手引」、その前年の閣議決定
そして、文科省としては3つ目の指針となる「公立小学校・中学校の適正規模・適正配置等に関する手引」を2015年1月27日に通知するのですが、その直近に内閣で学校統廃合に関する議論がありました。
まず、2014年6月と12月の閣議決定では、「市町村に学校統廃合について議論するよう促す」ということで合意しました(資料①②)。
①2014年6月24日・閣議決定
「経済財政運営と改革の基本方針2014について」
今後、少子化が更に進展する中、教育の「質」をより重視した取組を強化する。そのため、少子化の見通しも踏まえ教職員の計画的採用を進めつつ、教職員の質的向上や指導力の強化を推進する。学校規模の適正化に向けて、距離等に基づく学校統廃合の指針について、地域の実情も踏まえつつ見直しを進める。また、専門人材やICTの活用等により効率的に教育の充実を図る。(8ページ)
②2014年12月27日・閣議決定
「まち・ひと・しごと創生総合戦略について」
そのため、地域コミュニティの核としての学校の役割を重視しつつ、活力ある学校づくりを実現できるよう、学校統合を検討する場合や、小規模校の存続を選択する場合、更には休校した学校を児童生徒の増加に伴い再開する場合などに対応し、活力ある学校づくりを目指した市町村の主体的な検討や具体的な取組をきめ細やかに支援する。(47ページ)
また、7月の教育再生実行会議でも、国が学校統廃合の指針を示していくということが提言されています(資料③)。
③2014年7月3日・教育再生実行会議
「今後の学制等の在り方について(第五次提言)」
学校が地域社会の核として存在感を発揮しつつ、教育効果を高めていく観点から、国は、学校規模の適正化に向けて指針を示すとともに、地域の実情を適切に踏まえた学校統廃合に対し、教職員配置や施設整備などの財政的な支援において十分な配慮を行う。国及び地方公共団体は、学校統廃合によって生じた財源の活用等によって教育環境の充実に努める。(4ページ)
このような流れをふまえて、文科省により策定されたのが、「公立小学校・中学校の適正規模・適正配置等に関する手引」(2015年1月25日)です。
◆「手引」には何が書かれているか
学校統廃合の手引きとも呼ばれるこの「手引」ですが、必ずしも統廃合を推し進めることを目的に書かれているということでもなく、むしろ地域社会の中の公立学校という性格に配慮し、統廃合の際は合意形成の過程を丁寧に経なくてはならないという趣旨の内容が書かれています。
学校が子どもの教育のための施設であることは言うまでもありませんが、地域住民から見た学校は、地域の将来を担う子どもたちを育てる場であり、地域の人々を結び付ける核となっているものです。
◆学校統廃合に対する財務省の姿勢
文科省は「手引」の中で、財政については一切触れていません。一方で財務省は、2007年に、「小規模校は財政非効率で統合を推進すべき」という立場を明らかにしました(資料④)。
④2007年6月6日・財政制度等審議会
「平成20年度予算編成の基本的考え方について」
ここ30年間で子どもの数は約4割減少したにもかかわらず、公立小中学校の学校数は数パーセントしか減っておらず、全国の約半数の学校が11学級以下のいわゆる小規模校となっている。こうした小規模校については、教育政策・効果上の問題があり、財政上も非効率であるとの指摘が多くなされている。(中略)今後は、統合・再編の推進に向け、国・都道府県・市町村の役割分担を踏まえ、地域に応じた制度設計やインセンティブの付与等についての検討を省庁横断的に進め、教育水準を維持・向上させつつ、教育にかかるコストを縮減していくことが必要である。(39ページ)
その姿勢は、現在にいたるまで変わっていません(資料⑤)。
⑤2021年4月21日・財政制度等審議会財政制度分科会
「文教・科学技術(参考資料)」
今後15年間に第2次ベビーブームに合わせて建築された学校施設の更新時期が到来。⾧寿命化改修により経費を縮減し、平準化を図るべき。
同時に学校規模の見直しを行うことが不可欠。教育・学校運営の質を確保するため、将来的な人口動態も見据えた学校規模の適正化(統廃合等)や社会福祉施設等、他の施設との複合化を推進していく必要。(17ページ)
◆おわりに
「手引」には、「あくまで統廃合は慎重に行うように」との但し書きこそあるものの、前提として「多様な考え方に触れ、切磋琢磨することを通じて力を伸ばすことが学校の特質なので、学校では一定の集団規模が確保されていることが望ましい」という立場を示しており、いかようにも解釈することのできる書き方となっています。
文科省は学校統廃合の判断を市町村に委ね、明確な姿勢を示しているわけではありませんが、特に人口の多い大規模自治体では、独自に学校の「適正規模」の基準を定めて、学校統廃合計画を進めているという事例が多く見られます。
とはいえ、実は、学校の児童数・生徒数に法的な縛りが存在するわけでもなく、国に学校を廃止する権限があるわけでもありません。最終的な判断は、住民の直接選挙によって選ばれた議員からなる市町村議会に委ねられています。
学校の設置、廃止の判断を主権者である地域住民から付託された議会の責任は、非常に重く、その役割もまた非常に重要だということは論を俟ちません。
地域住民の意見を全く反映せずに学校統廃合を強行してしまえば、それは、自分たちの地域のことを自分たちで決めるという、住民自治の根本を揺るがすような事態を招くことになってしまいます。
来週からは、無理なやり方で進められている広島県福山市の学校統廃合について、その問題点を考えていきたいと思います。
K・H
*参考リンク集*
「学校統廃合どう考える?地域住民の立場から学校統廃合問題を考えるサイト」より
▶︎「学校統廃合についての国の指針・学校統合を奨励した1956年通達」
▶︎「『住民合意の尊重』を求める運動が新たな通達に結実・方針転換した学校統合政策(1973年通達)」
▶︎「『適正規模』以上の学校が増えた・学校統合は教育効果の向上より統廃合そのものが目的だった」
▶︎「学校統合の推進を求めた財政審建議」
▶︎「学校統廃合の真のねらい・財務省のめざす学校統廃合の進め方」
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